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1.英雄達との出会い

「なんかおもしれえ事ないかなあ」


 俺の体面に座るスキンヘッドで厳つい顔したゲレロがそう言いながら、机の上のマス目に1ジェリー硬貨をおいて挟まれたジェリーをひっくり返していく。


「おもしれえ事?んなもんねえよ」


 ゲレロと対戦中の俺は冷たくあしらいながら1ジェリー硬貨を置いて同じように挟まれた硬貨をひっくり返す。


「そういえばまた、チビ髭長耳金髪ドルーフ仮面おじさんが出たみたいだよ」


 同じテーブルに座る美人で巨乳のモレリアがエールを飲みながら会話に入ってくる。


「またかよ!っていうかその正式な呼び方久しぶりに聞いたな。長いからドルーフおじさんでいいだろ」

「どうせ偽物だろ?」


 俺とゲレロは呆れたように答える。そもそもドルーフおじさんは5年ぐらい前に一度だけ現れ本物の赤竜の素材を捨て値で売った人物だ。ただそれ以来何度も偽物が現れるようになり、その度に馬鹿な商人が騙されている。


「何だよ、つまんねえな。もっと乗って来いよ」


 そこに同じ席に座るもう一人の無精ひげでボサボサ髪のトレオンが会話に参加してくる。生粋のギャンブラーのこいつは俺達が乗ったら賭けを始めたはず。結局みんな偽物に賭けるから賭けにならねえけどな。


「で?今度は何を売りに来たんだ?本物みたいに赤竜の素材じゃねえんだろ?」

「それが緑竜の素材だって話だよ。赤竜と同じで素材全部で100万ジェリーだそうだ」

「「「100万!!?」」」


 モレリアの言葉に俺達3人はみんな驚いて声をあげる。周りの連中にも聞こえるぐらい大きな声だが、周りもうるさいので誰も気にしていない。


「やっす。本物なら1000万余裕で超えるだろ」


 ゲレロの言う通り本物なら状態にもよるがそれぐらいだろう。


「もう途端にその話はどうでもよくなってきたな。ゲレロお前の番だぞ」


 会話に集中して手が止まったゲレロに注意する。こいつとの勝負、若干俺が押している。このままゲレロが勝負に集中していないなら勝てる。


「おいおい、ベイル、興味失くすの早すぎだろ。もう少し話を広げていこうぜ」


 そう言われてもなあ。結局いつもみたいに騙された馬鹿な商人を笑って、騙した方法を想像してこの話終わりだ。騙した奴なんて今頃このコーバスの街から逃げてるだろうしな。


「緑竜素材をたったの100万ぽっちで買い取れるなんて思ってる、みみっちい野郎に興味なんて湧かねえよ」


 俺がそう答えた瞬間、ゲレロの置いたジェリーが会心の一手で勝負が決まってしまった。おいおい、大逆転されちまったよ。


「うわ、くそ。負けちまった」

「俺の勝ち!えっと俺の勝ち分は10ジェリー!よっしゃあ!」


 二人でマス目に表と裏のジェリーをきれいに分けて並べていくと結局俺が10ジェリーの負けだ。買ったゲレロは大喜びだ。


「その騙された商人もたった10ジェリーで一喜一憂している君たちには言われたくないんじゃないかな?」

「はあ?お前ら最低レートでやってたのか?ガキの遊びかよ」


 トレオンの言う通りこのジェリーって遊びは最低レート1ジェリーだ。これより下の硬貨がないからな。そんで上は青天井で、噂じゃあ貴族様は金貨でやってるって話だ。まあ、一般的には10、100、1000ジェリー硬貨でやってるな。


「うるせえ!金がねえんだよ!」


 そう、ゲレロの奴、金が無いのに娼館に通うもんだから4級組合員の癖していつも金欠気味だ。


 この組合員ってのはランクがあって下は無から一番上は6級まである。まあ、6級は伝説上の人物だから、だいたいどこの国も5級が一番上になっている。で、この5級も国の首都ぐらいにしかいないので、ここコーバスみたいな地方都市の最高ランクはだいたい4級が多い。


 つまり何が言いたいかと言うと、街一番の4級組合員ってのはそこそこ稼ぎがいいってのに金がねえゲレロは娼館大好きの碌でも無い奴って事だ。まあ、借金はしてないみたいだから何とかやりくりはしているんだろう。


「ベイル。君も金欠なのかい?」

「ああ、一昨日トレオンと馬行って負けた」


 俺の答えにモレリアが呆れる。呆れているモレリアだけど、こいつも4級組合員の癖して娼館通いでしょっちゅう金欠になっているからゲレロと同類だ。まあ、こいつは女だから買っているのは美少年の男娼ばっかりだけど。


「金の話は酒がまずくなるからやめようぜ。取り敢えずベイル冷やしてくれ」


 そう言ってゲレロは給仕が持ってきたエールと10ジェリーを俺の前に差し出す。


「お前、それたった今、ベイルから巻き上げた金じゃねえか」

「巻き上げたって人聞きが悪いな。ちゃんと勝負して勝ったから俺の金だろ。だからどう使おうが俺の勝手だ」


 トレオンが何か言っているが、まあ、俺は金さえ払ってくれればどうでもいいけどな。って事で金をもらったのでゲレロのエールを魔法で冷やしてやる。このエールを冷やすってのは俺はいつも10ジェリーで請け負っている。1ジェリーは1円と同じぐらいの価値で、エールが冒険者組合の酒場で100ジェリーだからまあ、妥当な値段だろう。それにこれ以上値段を下げたら組合職員に怒られるしな。


 それでこのエールを冷やして飲むってのはこの街来てから俺が始めた事だけども俺にしか出来ない珍しい魔法じゃない。だいたい5人いたら1人ぐらいは水属性に適正がある奴がいて簡単に出来るので、酒場で働くには重宝されるが、これを商売にするのはかなり厳しいってレベルだ。


 言い忘れていたけど、俺には前世の記憶がある。いわゆる異世界転生者って奴だ。転生する時に神様とかに会わずにある日いきなり前世の記憶を思いだしたってパターンだ。ついでに転生特典なのか、俺にはかなり戦いの才能があった。その才能を使って孤児だった俺は12歳で生まれ故郷のサンクガラート国の見習兵士となった。そこからは転生特典の才能を活かして俺はとにかく頑張った。まあ、そんな才能あれば国一番の英雄となってハーレム作りとかに憧れるだろ?それを目標にとにかく俺は頑張った。だけど、頑張れば頑張る程名前が知られ、国からいいようにそれこそ休む間もなくコキ使われた。


 国から逃げ出す最後の年はまともに休めた日は無かった気がする。そうなる前にさっさと逃げ出せって言われそうだけど前世のブラック企業に勤めていた時でもそうだけど、ある程度いくと日々の仕事をこなす以外何も考えられなくなるんだよ。でそんな俺でもある二つの出来事がきっかけでこの国ブラックじゃね?って疑問が生まれて逃げ出す事にしたんだ。


 その一つが俺の婚約者が決まった事。その頃になると俺は国から男爵の爵位を与えられていた。あの国で平民が爵位を与えられるなんて異例中の異例らしい。そんな俺の婚約者に国から選ばれたのは伯爵家のご令嬢。ご令嬢と言っても年は60近くのババアで体形はでっぷり太ってトロルの親戚みたいな奴だった。更に調べてみるとそのトロル今まで何人もの配偶者を廃人にしてきたヤバい化け物だった。

 最初は平民出身の俺なんかに伯爵家のご令嬢様を嫁がせるなんて国から大事にされてるぜって思ってたのに、実際は見た目トロルで廃人製造機の化け物を押し付けられた時の俺の気持ちが分かるか?


 そしてもう一つが給金の格差だ。あの国には平民から構成される兵士団と貴族から成る騎士団がある。俺は爵位を貰っても兵士団から騎士団に移動する事はなく、月の給金は10万ジェリーだった。兵舎暮らしなら飯も寝る所も心配ないし、見習いだと1万で、兵士団長でも8万だと聞いたので爵位持ちの俺ならそんなもんかなと思っていた。…だけどな、ある時俺は知ってしまった。貴族から成る騎士団の見習いの月の給金が50万ジェリーであると…。あいつら普段から貴族街の見回りという名の散歩しかしてない癖に、命懸けで魔物と戦っている俺の給金の5倍なんて……それを知った俺の気持ちが分かるだろうか。


 ついでに言えばサンクガラート国は貴族も平民もみんなクソだった。貴族は他人の足を如何に引っ張るか、手柄をどうやって奪うかしか考えてなかった。だって俺の魔物討伐の手柄は『あんた誰?』って奴の功績になるのは珍しい事じゃなかったし、魔物討伐に向かうと必ず何かしらの嫌がらせをされてたからな。それが原因で被害が出ると何故か俺の責任になって平民から攻めら助けられて当然って態度でお礼も言わない。嫌になるのも仕方がない。


 更に言えばゲレロとやっていた『ジェリー』という遊び元々は俺が兵士見習時代にリバーシとして遊んでいたものが元になっている。前世の記憶からリバーシを作って他の兵士と遊んでいたら、いつの間にかその開発権利が上官、下級貴族、上級貴族、王族の順に移っていった。当然俺には1ジェリーももらえなかった。で、娯楽の少ないこの世界、あっという間にリバーシは世界中に広まった。


‥‥それで急速に廃れた。

 

 理由は世界中に広まったタイミングで国が使用料を払えとか言い出したからだ。ご丁寧に世界各地に存在する商人ギルドを使って使用料を徴収しだしたから性質が悪い。最終的にリバーシの道具は商人ギルドが管理し、1回いくらで貸し出すという形に落ち着いたが、まあ、そうなると誰も遊ぶ奴なんていなくなって急激に廃れていった。


 でもまあ、天才ってのはどの世界、どの時代にもいるものだ。リバーシの8×8マスでは無く10×10マス、白黒の石じゃなくて身近な硬貨を使うって遊びをどこかの誰かが考えだし、勝負が終わった後にひっくり返した硬貨は自分のものってギャンブル要素も刺さったのか、爆発的に世界中に広まり遊ばれるようになった。

 今ではこの遊びが貴族から平民まで広く親しまれている。名前も単純でお金の単位から『ジェリー』と言われている。遊ぶときは「『ジェリー』する?」で意味が通じるぐらいだ。金の単位が『ギル』という国では「『ギル』する?」で意味が通じるらしい。日本だと「『円』する?」って言い方になるけど、これは全く別の意味になるから使ってはいけない。


 で、まあそんな故郷の国に嫌気がさした俺は19歳で全てを捨てて逃げ出した。っていっても捨てたのはゴミみたいな爵位と婚約者のトロルの化け物ぐらいだけどな。そこからはただひたすらに逃げ続けた。あの国とは二度と関わり合いになりたくないので痕跡を残さないように街にも立ち寄らず1年ぐらい逃げ続け、もういいかな?とようやく腰を落ち着けたのがこの街。


 メーバ国のコーバスって街だ。メーバ国からサンクガラート国まで間に4つぐらい国を挟んでいるから流石にここまで俺を探しにこないだろう。だいたいみんな隣国ぐらいなら分かるが、2つも隣の国なんて名前すら知らない奴らがほとんだ。それに痕跡も残してないから見つかる可能性はかなり低い。まあ、見つかったらまた逃げればいいやと考えているしな。


 そんなこんなでコーバスに腰を落ち着けた俺はそれなりに自由な職業である冒険者組合に所属した。まあ犯罪者一歩手前ってのが世間一般のイメージだけど、それでも自分の好きな時に依頼を受けて、気ままに暮らせる組合員ってのが今では気に入っている。当然俺の実力がバレると面倒な事になりそうなので、3級組合員として実力を隠して生活している。


 ちなみにこの街で話題のチビ髭長耳金髪ドルーフ仮面おじさんとは俺の事だ。この街に来た一番最初に魔道具で変身して、逃げてる最中に手に入れた赤竜の素材を言われるままに売ったらあっという間に街で話題になった。


 倒した魔物の素材は国に全部取り上げられて赤竜がどれくらいの価値なんて分かって無かったから、言い値で売ったのは仕方がない。ただ、世間知らずの俺が今後カモられる事を警戒して魔道具で変身していたのはいい判断だった自分をほめてやりたい。まあ、俺の存在を悟られないように種族特徴マシマシにしたのは目立ち過ぎて失敗だったかなとは思っている。


 ドワーフみたいな低い身長と長い髭、エルフの特徴の長い耳に金髪、白い肌を持ち、また白い仮面も被っているのでどっちの種族か分からん!‥‥なら合わせてドルーフでいいじゃねと誰かが言いだして、チビ髭長耳金髪ドルーフ仮面おじさんの呼び名が爆誕し有名人になったからな。まあ長いのでドルーフおじさんって言われているけど。


 俺としては種族なんてどうでもよくね?って思うけど、国によっては結構重要な事らしい。ドルーフおじさんみたいに判断が難しいパターンは珍しく、ハーフだろうと基本どちらかの種族の特徴に偏るらしい。モレリアなんてドワーフの血が混じっているが見た目はもろにエルフの特徴を持っているので種族はエルフになっている。


 ただこの女、ドワーフの特徴の良いところはしっかり受け継いだらしく一部エルフらしからぬ所があるが、それはまあ男なら見ているだけで楽しめるので文句はない。本人は「こんな肉の固まりの何がいいんだろうね。肩が凝るだけなのに」とか言っているけど。


 逆にモレリアの所属するパーティ『ちょっと賢い』のリーダー、シリトラもドワーフの血が入っているが見た目エルフなのに背が小さく、胸はない。種族の悪い特徴が出たパターンだ。……いや、それもまた良しとする人もいる。好みは人それぞれだ。まあ、それを口にすると「殺しますよ?」とマジで怒りだすから言わないけどな。


 ちなみにゲレロは蜥蜴人、トレオンは獣人の血が一部入っているらしい。俺は孤児だから何の血が混じっているかはしらねえ。見た感じ何かの種族の特徴はない。


 まあ、そうして別々のパーティだけど気の合うこの4人で暇な時は酒を飲んでだらだら過ごす事が多い。元々こいつらも俺と同じ時期にドルーフおじさん目当てでコーバスに移籍してきた連中だからパーティメンバー以外知り合いのいない者同士固まっていたら自然と仲良くなった。

 最初はパーティメンバーと仲良くしてろよって思ったけど組合員ってのはオフの時にまでパーティメンバーと一緒にいるのは嫌らしい。日本だと会社の同僚と休みの時まで一緒にいたくはねえって言われると納得できるだろう。


 ドルーフおじさんが現れた頃は赤竜の素材目当てで色んな連中がこの街に集まり人で溢れていたが、あれから5年、今ではたまに偽物が現れるぐらいで、特に特徴という特徴もないこの街も大分落ち着いてきた。


 そうしていつものように4人で話をしていると、組合の扉が開いた。組合員ってのは職業柄組合に入ってくる人間を気にするので、俺も例に漏れず扉に目を向ける。



 そこにはしみったれたその辺の奴らとは明らかに違う希望に顔を輝かせた若者4人が立っていた。



 これが後に各地で戦争を引き起こし暴虐の限りを尽くす俺の故郷サンクガラート国を滅ぼす英雄達との出会いであった。

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