第9話「新たな挑戦、刻まれる一歩」
修士郎らが数値と現場の情熱のギャップを議論し、保守派の不安を払拭するための具体策を模索。AI導入の真意が問われる一日だった。
朝の始業前、修士郎は昨夜の会議の振り返りに没頭していた。先日のミーティングで、現場と保守派の双方の意見をまとめ上げた提案案は、数字と情熱のバランスを意識したものだった。だが、その後も各部署からは「数字だけではなく、現場の温度感をどう維持するか」「急激な自動化が従来の技術者のモチベーションを奪うのではないか」という懸念の声が届いていた。
真鍋は早朝から現場の担当者と直接ヒアリングを行い、現場の生の声を記録していた。彼の報告には、最新の生成AIが提示した予測数値に対し、実際の作業効率や安全面での不安が交錯しており、具体的な改善策が求められているという事実が浮き彫りになっていた。修士郎は、真鍋の正直な意見と高梨の経験に基づくフォローアップを重ね、提案内容の再構築を急いだ。
昼過ぎ、再度クライアント先の会議室に呼び出された修士郎は、保守派の管理職と再び対面することとなった。担当役員は前回の議論を踏まえ、「現場の意見を反映した新たなプランを具体的に示してほしい」と要求する。緊張感の中、修士郎は自信を持って、生成AIで作成したシミュレーションデータと、現場で直接聞き取った改善点を織り交ぜた新提案をプレゼンテーションした。
「我々は、AIが算出した理想値にそのまま依存するのではなく、現場のリアルな状況と照らし合わせながら、人的スキルと融合させた最適解を見出すことが可能です」
修士郎の熱意ある説明に、役員の一部は眉をひそめながらも次第に納得の様子を見せ始めた。若手社長も、オンライン越しに映る顔で「このアプローチなら、現場の反発を最小限に抑えられる」とコメント。
その後、会議はさらに白熱し、管理職たちの中には「以前の計画では無視されがちだった現場の不安を、具体的な数値と改善策で埋め合わせる提案は新鮮だ」と評価する声も上がった。高梨は、これまでのデータだけではなく、各部署の実情調査結果を加味した報告書を補足資料として配布し、より客観的な裏付けを示す。
一方で、帰社後、修士郎は自室で家族との時間を持つ。妻からは、今日の会議での新提案に対する上層部の反応が好意的だったとの連絡が入り、少し安心した様子だった。揚羽も、学校で行われたAI活用ワークショップの模様を楽しげに報告してくれる。彼女は、以前から「AIはただの道具ではなく、自分の創造性を引き出すパートナー」として積極的に活用しており、同級生との意見の対立もあるものの、独自の視点を磨いていた。
「今日の一歩は確かに小さな成功だった。しかし、まだまだ多くの課題が残っている。数字と現場、技術と情熱の両輪で、未来を切り開く必要がある」
修士郎は窓の外に広がる夜景を見ながら、明日への決意を新たにした。各部署の意見をまとめ、現場との信頼関係を築きながら、AIと人間が共に歩む新たな道を模索する――その挑戦は、彼にとっても、家族にとっても、そして企業にとっても避けられない未来への一歩となるのだった。