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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第5章「AI医療の未来ーー医師は進化か淘汰か」
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第89話「医師たちの葛藤」

医師がAIの診断を活用する難しさを実感した修士郎。人間とAI、どちらの診断を患者が信頼するか、次の課題が浮き彫りになった。

修士郎は大学病院の医局に足を運び、これまでの検証データをもとにAIセカンドオピニオンの診断結果を医師たちにフィードバックした。各診察ケースでの医師の判断とAI診断結果を並べ、医師ごとの傾向を示す。多くの医師が、その精度と明快さに驚きの声を上げた。


「こんなにも自分の判断がズレているとは思いませんでした」と若手医師の一人が戸惑いを見せる。ベテラン医師の中にも、自らの診察パターンに偏りがあることをデータで突きつけられ、沈黙する者もいた。


修士郎は続ける。「AIセカンドオピニオンは皆さんの能力を否定するものではありません。むしろ、より的確な診断を支援するためのものです。AIの意見を参考に、自らの判断力を磨いてほしいのです」


医師の一人が挙手し、不安そうに尋ねる。「私たちの診断結果がAIのデータとズレていた場合、それは即ち能力が低いと評価されることに繋がるのでは?」


修士郎は慎重に答えた。「現時点ではそう感じられるかもしれません。ただ、AI診断との乖離率をただ低くすることが目的ではありません。AIが示す可能性を認識し、自分の診断理由を明確に説明できるようになることが本質的なゴールです」


医師たちは口々に意見を交わし始めた。「もしAIの診断が絶対視され、患者が私たちを信用しなくなったら……」「AIが普及すれば、我々の立場がなくなる可能性もある」議論は白熱し、やがて感情的な論争にまで発展した。


その時、主任教授が静かに語り出す。「私は30年以上医療現場で働いてきました。AIの登場は確かに脅威にも見える。しかし、我々が恐れるべきは、AIではなく、医師が自分の判断に慢心することではないか?AIという鏡に、自分の姿を客観視するチャンスを与えられたと思えばいい。AIとの乖離を縮める努力は、我々の診療精度を高める良い機会ではないか」


主任教授の言葉が医局に響き渡り、その場の空気が一変した。修士郎は感謝の意を込めてうなずいた。「教授がおっしゃる通り、AIは敵ではなく仲間です。ぜひ、この機会を活かしていただきたい」


会議を終え医局を出た修士郎は、主任教授と並んで廊下を歩きながら話した。「教授はなぜ、AIに前向きなのですか?」と尋ねると、教授は静かに微笑んだ。


「医学は常に進化する。新しい技術に抵抗していては、進歩はない。AIが我々の過ちや盲点を明らかにするなら、それはむしろ歓迎すべきことだ。患者の命を救うという目的の前に、プライドや恐れなど意味がない」


修士郎はその言葉に強く心を打たれた。これこそが、AIセカンドオピニオン導入の真の価値であると確信した瞬間だった。


一方、プロジェクトチームのレイラは厚生労働省との調整に追われていた。AIセカンドオピニオンの導入基準や医師スコアの公開方法について、現場医師からの抵抗とメディアからの批判を最小限に抑えるための妥協案を模索していた。


レイラは、医師スコアの数値化に対して批判的な厚労省官僚に粘り強く説明を重ねる。「目的は医師を責めることではありません。患者がよりよい医療を受けられる環境作りが狙いです。そのためには、医師自身の納得と改善への動機付けが欠かせないのです」


厚労省担当者はようやくレイラの言葉に理解を示した。「なるほど、医師を説得するためには、AI診断の利点を強調し、抵抗感を払拭するアプローチが必要だということですね」


レイラはうなずきながら言った。「その通りです。AIは敵ではなく、医師がさらに進化するための味方だと理解してもらうことが鍵になります」


修士郎が医局を出ると、医師たちの声が漏れ聞こえてきた。「AIが示した診断データ、もう一度見直してみるか」「確かに、自分の診断の根拠をより明確に説明できるようにしなきゃな」


修士郎は確信を持って、次の段階へ進む決意を固めていた。AIセカンドオピニオンは、AIが人間を否定するのではなく、むしろ人間が自らを再評価し、成長する契機になるのだと確信を強めていた。

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