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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第5章「AI医療の未来ーー医師は進化か淘汰か」
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第83話「医師たちの反発」

AIセカンドオピニオン導入プロジェクトが本格始動。厚生労働省の三浦からプロジェクトの全体像が共有され、各メンバーの役割が決定した。レイラは医師会との交渉、修士郎は大学病院での実証実験を担当。日本医師会の強い反発が予想される中、現場の医師たちの反応を探るべく、修士郎は病院へ向かう。

修士郎は、大学病院の実証実験に向かうため、医療関係者との初顔合わせに臨んでいた。今回の実験は、実際の診察にAIセカンドオピニオンを組み込むことで、医師の診断とAIの診断の一致率を検証するものだ。厚生労働省の三浦の計らいもあり、受け入れ側の大学病院は協力的な姿勢を見せていたが、実際の医師たちの意見はどうかは別の話だった。


「お世辞にも歓迎されてるとは言い難いですね……」


修士郎は、病院の会議室に通されながら、壁越しに聞こえてくる医師たちの会話に耳を澄ませた。


「AI? そんなもので俺たちの診断を評価されるなんて、バカにされてるとしか思えん」

「結局、行政のご機嫌取りだろう? 現場を知らない役人が、また何か始めたんじゃないのか?」

「それに、医療ミスを防ぐどころか、AIが間違えたらどうする? 責任は誰が取るんだ?」


修士郎は苦笑しながら、会議室へ足を踏み入れた。すでに数名の医師が座っており、彼を迎える視線は冷ややかだった。プロジェクトの説明は既に事務局から行われていたが、やはり実際に話を聞いてみなければわからないことも多い。


「初めまして。本日より、AIセカンドオピニオンの実証実験を担当させていただきます、ライジング・ストラテジー・パートナーズの鳳です」


自己紹介を終えると、医師の一人が腕を組みながら皮肉っぽく言った。


「で、我々の診断が間違っていると証明する実験を始めるというわけですね?」


「いえ、そうではありません」修士郎は落ち着いた表情で答えた。「AIはあくまで、医師の判断を補完するものです。診断の正確性を高めるためのツールであり、医師の価値を損なうものではありません」


「そう聞こえればいいですけどね。実際には、診断が間違っていればスコアが下がる仕組みなんでしょう? つまり、患者にとって『この医者は当てにならない』と烙印を押されるリスクがあるわけだ」


医師たちの懸念はもっともだった。このプロジェクトが進めば、医師ごとの診断精度が可視化され、評価の格差が生まれる。それは医療の透明性を高めるという点では理に適っているが、当の医師たちにとっては、自分のキャリアを左右する問題でもある。


「このデータが一般に公開されたらどうなると思います?」別の医師が口を開いた。「患者はスコアの低い医師を避けるようになる。そうなれば、一部の医師に患者が集中し、負担が増える。スコアの低い医師は診察を避け、最終的には医療の質が下がるだけです」


修士郎はその言葉に一瞬、返答を考えた。しかし、この懸念はプロジェクト立ち上げ時から議論されていた問題でもある。


「その点については、私たちも考えています」修士郎は真剣な眼差しで医師たちを見渡した。「目的は医師をランク付けすることではなく、より精度の高い診療を促すことです。そのためには、AIと医師が互いに補完し合う関係を作る必要があります」


「結局、現場を知らないコンサルタントの言葉ですね」医師の一人が冷たく言い放つ。「理想論はわかりますが、そんな簡単に現場が変わるとは思えませんよ」


その場の空気が張り詰める中、ドアが開いた。中年の医師が入ってきて、場の空気を一変させた。


「おや、ずいぶんと賑やかですね」


周囲の医師たちが一斉に視線を向ける。「教授……」


大学病院の教授、坂本が姿を現した。彼はAI技術にも理解のある、比較的オープンな立場の医師だった。


「鳳さん、ですね。実証実験について詳しく聞かせていただけますか?」


修士郎は静かにうなずいた。この場をどう収めるかが、今後のプロジェクトの方向性を決定づける重要なポイントとなる。

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