第80話「AIと人間の共存、そして新たな挑戦へ」
優奈は最終報告の準備に苦戦し、修士郎の指導を受けながら資料を仕上げた。徹夜の作業の末、ようやく完成。だが、優奈のラフな姿と「ご褒美ですよ!」の一言に修士郎は動揺。さらに、高梨の突然の来訪で誤解を招く。最終調整を終えた二人は、いよいよ藤崎への報告に向かう。
藤崎への最終報告の場は、LUX ROUXのVIPルームで行われた。優奈は深呼吸をして、プロジェクターに映し出されたスライドを見つめる。
「では、AI活用プロジェクトの最終報告を始めます。」
藤崎は腕を組みながら頷いた。他の幹部たちも静かに資料に目を通している。
「本プロジェクトでは、キャストの営業支援、太客育成、セクハラ検知の三つの主要な目的に焦点を当てました。まず、キャストの営業活動についてですが、AIを活用することで、お客様ごとの最適なアプローチが可能となり、結果として指名数の増加が見られました。」
優奈はスライドを切り替え、具体的なデータを示した。
「特に、AIの提案に従って接客スタイルを変えたキャストは、指名客の定着率が大幅に向上しました。一方で、完全にAIに依存するキャストと、AIを参考にしつつ自分なりの工夫を加えたキャストを比較すると、後者の方がより長期的に安定した関係を築けていることが分かりました。」
藤崎が鋭い視線を向ける。「それは興味深いですね。つまり、AIのサポートを受けつつも、人間らしい対応を残すことが重要だと?」
「その通りです。」優奈は自信を持って続ける。「AIの活用は業務効率を高めるだけでなく、キャストがより自分らしい接客をするための支援ツールになり得ます。」
さらに、セクハラ検知機能についての成果も説明した。
「AIを活用したセクハラ検知システムにより、キャストが不快な状況に陥る前に黒服が対応できる体制が整いました。特に、接触レベルの分類を細かく設定することで、過剰なアラートを防ぎつつ、必要な場面では即時対応が可能になりました。」
藤崎はゆっくりと頷く。「なるほど。では、今後の運用については?」
「まずはこのシステムを正式に導入し、全キャストと黒服に徹底的なトレーニングを実施する予定です。その上で、AIの運用データを蓄積し、さらなる改善を加えていきます。」
優奈が話し終えると、室内にはしばしの沈黙が流れた。そして藤崎がゆっくりと口を開く。
「素晴らしい報告だったわ。AIの活用は、LUX ROUXの新たな成長戦略の鍵になるでしょう。あなたたちには感謝している。」
優奈は安堵の表情を浮かべ、修士郎と視線を交わした。
報告を終えた後、修士郎はキャストへの挨拶回りを始めた。プロジェクトの完了を告げるため、一人ひとりに感謝を伝えていく。
「お世話になりました。」
「またいつでも来てくださいね!」
キャストたちは笑顔で応じる。最後にひなたのもとへ向かうと、彼女はいたずらっぽく微笑んだ。
「修士郎さん、目の上にゴミがついてますよ。」
「え? どこですか?」
「取ってあげますから、目を閉じてください。」
修士郎は素直に目を閉じた。その瞬間、くちびるに温かい感触が触れた。
驚いて目を開けると、ひなたは少し照れたように微笑んでいた。
「これ、お礼です。」
修士郎は言葉を失った。ひなたは小さく手を振ると、すっと背を向けた。
LUX ROUXのAIドリブン改革は、新たな段階へと進もうとしていた。
藤崎への最終報告を終えた修士郎と優奈は、LUX ROUXでのAIドリブン改革の成功を実感しながらも、新たな課題への挑戦に備えていた。
キャストたちへの挨拶を終えた後、修士郎は事務所へと戻った。オフィスに入ると、すでに高梨が待っていた。
「お疲れ。次の案件の話をしよう。」
高梨が手渡した資料には、「厚生労働省 AI医療セカンドオピニオン制度導入プロジェクト」と書かれていた。
「医療分野へのAI導入……か。」
修士郎が資料をめくると、その下には「日本医師会との調整、法改正に向けたステークホルダー対応」という厄介なキーワードが並んでいた。
「今度はコンフリクトマネジメントが肝になる。準備はいいか?」
修士郎は息を整え、資料をじっくりと読み込んだ。そして、静かに頷く。
「やるしかないですね。」
こうして、彼の次なるプロジェクトが幕を開ける。
次なるプロジェクトの舞台は厚生労働省。AIセカンドオピニオンの法制化を巡り、日本医師会との衝突は避けられない。医療の未来を左右する一大プロジェクトに、修士郎はどのように挑むのか。コンフリクトマネジメントの極限に立たされる新章が始まる。