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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第1章「変革の夜明け――AIエージェント元年への道」
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第8話「数値と情熱の交錯」

真鍋の現場ヒアリングで浮かび上がる「AI導入の不安」。若手社長は完全自動化を視野に入れ、修士郎は攻めと守りのバランスに苦慮する。

午前中、修士郎は再び会議室に集まったチームと、新たなプロジェクトの詳細打ち合わせに臨んでいた。先日のオンラインミーティングで、若手社長が提示した「完全自動化プラン」は、社内外で大きな反響を呼び、現場の意見も複雑な様相を呈していた。プロジェクトの成功には、AIが算出する数値だけでなく、現場の感情や企業文化の理解が不可欠であると、修士郎は改めて痛感していた。


会議室では、デジタルネイティブの真鍋が最新の生成AIアプリで作成したグラフやシミュレーション結果を提示し、「これが現状の予測数値です」と冷静に報告する。一方、保守派の管理職からは、「現場の熟練技術者は、こうした理想値では実際の作業効率や安全性が担保できない」との意見が飛び交う。修士郎はその両論を聞きながら、両者の橋渡しを図るための戦略を模索する。


「数値だけでは伝わらない、現場の“温度”もある。皆さん、直接現場の意見を聞いた上で、AIの結果にどう補正を加えるか一緒に考えませんか?」

と、修士郎は提案すると、会議室内に緊張した空気が流れ始めた。議論は次第に白熱し、数値と情熱が交錯する中、プロジェクトの方向性が次第に固まっていく。


その頃、オフィスの片隅では、高梨がシニアマネージャーとして新たな視点を提供していた。彼は、最新のAIツールを使いながらも、現場の状況や人間の感性を踏まえたアプローチが重要だと力説する。「我々は数字の羅列に終始するのではなく、人間ならではの直感や経験を併せ持つことで、現実的な改善策を打ち出せるはずです」と、冷静に分析する姿勢を見せた。


午後、保守派管理職の一人と個別にヒアリングを行った修士郎は、彼らが抱える不安や疑問を細かく記録して回る。古参社員の中には、「AIにすべてを任せれば、自分たちの技能が軽視される」との懸念が強いことが分かり、修士郎は「技能伝承×AI活用」という新たな提案を温め始める。若い世代と経験豊富な世代が共に成長できる仕組みを構築することこそ、企業改革の鍵になると確信したのだ。


その一方で、修士郎のスマートフォンには、妻からのメッセージが届いていた。外資系監査法人での新たなプロジェクトに関する連絡と共に、「本日も忙しい中、家庭のことは任せてくれてありがとう」という感謝の一言が添えられていた。彼女は都市銀行のシステム企画部出身で、転職後も数字と論理で組織を牽引する頼れる存在だ。互いに多忙な中で、家族への想いを忘れずにいることが、修士郎にとって大きな励みとなっていた。


会議が終盤に差し掛かる頃、若手社長からの追加依頼が飛んできた。「現場の意見を基に、再度数値シミュレーションと改善案の試案を早急にまとめてほしい」というもので、修士郎は「このプロジェクトは、数字と情熱のバランスが勝負だ」と自分に言い聞かせた。


帰社途中、タクシーの窓越しに夜景が広がる中、修士郎は今日の議論を思い返していた。保守派と革新派の対立は依然として根深いが、両者をつなぐ「人間の調整力」が新たな価値として見直されつつある。若手の真鍋やシニアマネージャーへの昇格が近づく高梨、そして家族で支え合う妻と揚羽――彼らの存在が、確実にこの変革の時代を前進させているのだ。


「次のステップは、現場の声をもっと取り入れて、具体的な改善策を打ち出すことだ」

修士郎は静かに誓い、明日への準備を進めながら、夜の街を見渡した。数字と情熱、そして人間の温かさが融合する未来への一歩が、今まさに動き出そうとしていた。

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