第72話「水瀬りおと南條カレンの対比」
黒崎舞は営業効率を最大化するため、AI活用の秘訣を修士郎から引き出そうと接近。営業メールの自動化や太客選定を合理的に活用しつつ、自分の接客スタイルを維持する方法を模索する。AIに頼りすぎず、データを活かしながら柔軟に対応する重要性を学び、実践に移すことを決意する。
LUX ROUXの営業支援AIが本格的に稼働し始めてから、キャストごとの適応度に差が出てきていた。AIを全面的に受け入れたキャストの中でも、その活用方法には違いがあり、特に水瀬りおと南條カレンの対照的な姿勢が際立っていた。
「最近、カレンの売上すごいですね」
営業終わりのバックオフィスで、りおはモニタに表示された営業データを見ながらつぶやいた。カレンはAIの指示を忠実に実行し、無駄のない営業スタイルを確立。結果、売上は急上昇し、トップキャストの座も目前に迫っていた。
「カレン、すごいわね。AIをここまで完璧に使いこなすなんて」
美咲が感嘆の声を上げると、カレンは自信満々に微笑んだ。
「AIが最適解を示してくれるんだから、それに従うのが一番効率的でしょ?」
「確かに。でも……」
りおは何か言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
「でも、何?」
カレンが興味を持ったようにりおを見つめる。
「ううん、ただ……すべてをAIに頼るのは、ちょっと怖いなって思っただけ」
「怖い?」
「うん。だって、もしAIが間違った判断をしたら?それに、お客様の気持ちって、必ずしもデータ通りじゃないでしょ?」
カレンは少し考えた後、肩をすくめた。
「でも、それは私たちも同じじゃない?完璧な接客なんて、人間には無理。でもAIは、膨大なデータを分析して最適な対応を教えてくれるの。むしろ、私たちが余計なことを考えずにAIを信頼することが、これからの時代の“新しい人間らしさ”なんじゃない?」
カレンの言葉に、りおは少し戸惑った表情を見せた。
「うーん、私は逆かな。AIを活用するのは賛成だけど、結局のところ、最終的に判断するのは私自身でありたいって思うの」
「へえ、それはどうして?」
「だって、お客様一人ひとり違うし、データだけじゃ見えないこともあると思うの。AIの提案を参考にするのはいいけど、完全に頼り切るのは危険かなって」
カレンは少し考え込んだ。
「つまり、AIをツールとして使うか、それとも信頼して従うか……ってこと?」
「うん、そんな感じ」
「でもね、りお。AIを信じられないっていうのは、結局のところ、データを信じられないってことなのよ」
カレンはAIの示すデータを指しながら続けた。
「AIが提案するのは、すべて過去の成功例に基づいてるの。感覚に頼るよりも、AIの判断のほうが確実なことが多いわ」
「それは分かるけど……」
りおは苦笑しながら頷いた。
「でもね、カレン。お客様って、いつも論理的に動くわけじゃないでしょ?」
カレンは少し考え込んだが、すぐに自信ありげに答えた。
「だからこそ、AIが人間のバイアスを取り除いて、最適な接客を導き出すのよ。人間の感覚に頼ってミスをするより、AIに判断を任せたほうがいいと思うわ」
「……そうかもしれない。でも、私はまだ、AIにすべてを委ねるのは抵抗があるな」
そのとき、修士郎がオフィスに入ってきた。
「どうした?何か議論してるのか?」
「修士郎さん、私とりおで意見が分かれたんです」
カレンが説明し、修士郎は少し考え込んだ。
「なるほど。AIを信頼して従うか、ツールとして活用するかってことか」
「修士郎さんはどう思います?」
カレンが尋ねると、修士郎は少し笑いながら答えた。
「どっちも間違ってはいない。ただ、AIにすべてを委ねることのリスクも考えておくべきだな」
「リスク?」
「たとえば、AIはデータのパターンを分析するけど、データには表れない人間の感情や直感的な判断は反映されない。カレンの言うことも正しいけど、それがすべてじゃないんだ」
「でも、それを言ったら、人間の判断も完璧じゃないですよね?」
「その通り。でも、AIに頼りすぎると、自分で考える力が失われる可能性がある。AIはあくまで補助。最終的に判断するのは、人間自身であるべきだ」
カレンは少し納得したように頷いた。
「なるほど……確かに、何も考えずにAIの言うことを鵜呑みにするのも問題ですね」
りおは安堵したように微笑んだ。
「私も、やっぱりバランスが大事かなって思う。AIを活用しながら、自分の感覚も大切にしたい」
カレンはしばらく考えた後、頷いた。
「分かったわ。でも、私はAIを信頼するスタイルを貫く。私は私のやり方で、新しい時代のキャバ嬢としてNo.1を目指すわ」
「うん、お互い頑張ろうね!」
こうして、りおとカレンの考えの違いは明確になった。それぞれの営業スタイルの違いが、今後のLUX ROUXの未来をどう変えていくのか——それは、次第に明らかになっていくだろう。