第70話「営業支援AIの初動分析」
営業支援AIの実証実験が始動。キャストごとの営業スタイルに応じてAIの活用度を調整し、最適な接客戦略を検証することに。美咲は積極的にAIを活用し、ひなたは従来の営業スタイルを貫く姿勢を示す。AIの活用がキャストの営業にどのような影響を及ぼすのか、実験の行方が注目される。
営業支援AIの導入から一週間が経過し、LUX ROUXの営業データが蓄積され始めていた。バックオフィスには修士郎、優菜、黒木、玲奈、そしてAI活用に積極的な美咲と、従来の営業スタイルを貫くひなたが集まっていた。
「さて、一週間のデータが出そろったな」
修士郎が画面を見ながら言うと、優菜がタブレットを操作し、結果を共有した。
「まず、AIを積極的に活用したキャストと、ほぼ使わなかったキャストの間で、営業成績にどのような違いが出たかを見てみましょう」
画面には、売上、指名数、リピート率などのデータがグラフとして表示されていた。
「おお、面白いな……」
黒木がデータを見ながらつぶやく。
「まず、AIを活用したキャストの指名数が全体的に増えてるな。特に美咲さん、先週比で指名数が15%増えてるぞ」
「まあね。でも、単純にAIを活用したからってわけじゃないわ」
美咲が腕を組みながら言う。
「AIが提案する会話の流れや、どんなアプローチをすればいいかのデータを参考にしたのは確か。でも、最終的にお客様との距離を縮めるのは私自身のトーク力や接客態度だと思ってるわ」
「なるほどな。AIはあくまでアシストであって、接客の主役はキャスト自身ってことか」
修士郎は頷きながら、データをスクロールした。
「一方で、AIをあまり活用しなかったキャストはどうなった?」
優菜が指で画面をなぞり、ひなたの成績を表示する。
「ひなたさんの売上や指名数は、ほぼ変わらず横ばいですね。でも、リピート率はやや減少傾向にあります」
「ほう……」
ひなたは画面を見ながら、冷静に受け止めていた。
「まあ、予想通りね。私はお客様との関係を長く築くタイプだから、短期間で大きな変化はないと思ってた」
「確かに。ひなたさんは太客との関係を重視する営業スタイルだから、即効性は少ないかもしれないな」
修士郎は分析しながら続けた。
「ただ、気になるのは、AIを活用したキャストのリピート率が全体的に上がってることだ」
黒木が画面を指差した。
「特に、美咲さんはリピート率も上昇傾向だな。何か変えたことはあるか?」
美咲は少し考え込んでから答えた。
「AIの提案を参考にして、お客様ごとに違う接客を意識するようになったのは確かね。今までは、ある程度同じ流れで営業してたけど、AIが“このお客様はこういう話題を好む”とか“特定のキャストに興味を示している”って教えてくれるから、それを基に会話を組み立てたのよ」
「なるほど。それがリピート率の向上につながったわけか」
玲奈が画面を見ながら分析を加える。
「一方で、ひなたさんのようにAIを使わなかったキャストは、既存の太客との関係は維持できているものの、新規顧客のリピート率が若干落ちているようですね」
「新規のリピートが減ってるのは少し気になるな……」
修士郎は腕を組んで考え込んだ。
「でも、単にAIを使えばいいって話じゃない。ひなたの接客スタイルにはひなたの良さがあるし、無理にAIを導入する必要もない」
「確かに。でも、このままではAIを活用するキャストとの成績の差が徐々に開いてしまうかもしれないわ」
優菜が慎重な口調で指摘する。
「だから、無理にAIを導入するのではなく、ひなたさんが活かせる形でAIを取り入れる方法を考える必要があると思います」
ひなたは少し考え込んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……じゃあ、私も少し試してみるわ。でも、あくまで私のスタイルを崩さない範囲でね」
修士郎は微笑みながら頷いた。
「いいな。それぞれのキャストに合わせたAIの活用方法を模索するのが、この実験の本質だ」
黒木も同意するように頷いた。
「じゃあ、次のフェーズとして、キャストごとに最適なAI活用法を考えていくか」
こうして、営業支援AIの運用は次の段階へと進むことになった。AIの活用がキャストの営業スタイルにどのような影響を与えるのか、さらに深掘りするフェーズが始まる。