表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第4章「夜の革命ーーAIに弄ばれる男たち」
61/140

第61話「破天荒なキックオフ」

Orion AIの市場浸透が進み、Human Evolutionキャンペーンは成功裏に終わった。AIは単なる業務効率化ツールではなく、人間の知的進化を促す存在として市場に定着。修士郎たちは次の挑戦へと進む。次なるクライアントはキャバクラ業界。AIを駆使した新たな経営改革が始まる。

ライジング・ストラテジー・パートナーズの会議室に、藤崎玲奈が静かに座っていた。テーブルにはキャバクラ「LUX ROUXリュクス・ルー」の売上データや、キャストごとの営業成績、AI導入に関する資料が並べられていた。


プロジェクトキックオフのために、修士郎と若手コンサルタントの川原優菜が同席していた。このプロジェクトは優菜が主担当であり、修士郎はフォロー役という立場だ。


「まず、今回のプロジェクトの目的ですが、AIを活用してキャストの営業活動を最適化し、安全性を高めつつ、売上を向上させることです」


玲奈が簡潔に説明を始める。


「これまで、データドリブン経営で試行錯誤してきましたが、成果は限定的でした。個々のキャストの営業スタイルが確立しており、そこに干渉しすぎると逆効果になりかねない。しかし、AIを使えば、個々の営業スタイルに適応しつつ、最適化を図れると考えています」


修士郎は資料に目を落としながら頷いた。


「データを見る限り、AI導入へのキャストの反応は分かれていますね。特にNo.1キャストの桜井ひなたは、従来型の営業にこだわり、AI活用に否定的なようです」


「ええ。対照的に、No.2の朝比奈美咲とNo.3の藤宮玲奈は、AI営業に積極的です。彼女たちはすでにデータドリブンの手法を活用し、売上を伸ばしています」


「それでも、ひなたの営業成績は頭一つ抜けている。つまり、従来型でもトップになれるが、問題は持続性ですね」


優菜が資料をめくりながら言った。


「その通りです。ひなたはトップに君臨しているものの、太客とのアフターが増え、体力的にも精神的にも負担が大きくなっている。それをAIで最適化し、負担を軽減しながら売上を維持・向上できる仕組みを作るのが今回の課題です」


玲奈の言葉に、優菜が頷いた。


「まずは、現場の状況をしっかり理解する必要がありますね。データだけでは分からない、実際の営業の流れや、キャストと顧客の関係性を分析するべきです」


「ええ。そこで、現場検証をお願いしたいのですが…」


玲奈が視線を向けたのは、修士郎だった。


「……俺?」


「修士郎さんには、模擬接客で“セクハラ常習客”役を担当してもらいます」


「……は?」


「キャストの対応力や黒服のフォロー体制、AIを使ったトラブル防止の有効性を検証するためです」


「ちょっと待て。俺、今“セクハラ常習客”って聞こえたんだけど」


「聞こえましたね」


優菜がさらっと言いながら資料を閉じる。


「待て待て、そんな役割、俺以外にいるだろ」


「セクハラ客を演じるのに適任な人材がいませんでした。役員クラスの方々には頼めませんし、黒服にやらせるわけにもいきません。修士郎さん、ここはプロジェクトのために割り切ってください」


「いやいやいや、俺、サポート役で来たはずなんだけど?」


「サポート役だからこそ、優菜の指示には従ってもらいます」


「おい、俺はお前の部下じゃないぞ」


「プロジェクト責任者は私ですので、私の指示が最優先です」


そう言われてしまえば、何も言えない。修士郎は肩を落とした。


「しかも、黒服の黒木直樹が“セクハラ指南”を担当します」


「……セクハラ指南?」


「修士郎さんが“良質なセクハラ客”を演じられるよう、黒木さんがイヤホンマイクを通じて指導してくれます」


「……ちょっと待て。良質なセクハラ客って何だ?」


「適度に不快で、キャストがどこまで受け流せるかを試す、ある意味リアルな客を演じるということです」


修士郎は絶句した。


「……これは、勉強代が高くつきそうだな」


玲奈は微笑を浮かべた。


「もうひとつ、修士郎さんには“同伴とアフター”の模擬体験もお願いします」


「……何?」


「客が同伴やアフターを求める際の流れを確認するため、修士郎さんには“強引に”キャストを誘ってもらいます。もちろん、黒木が影で同行し、適切なセクハラ指導をイヤホンでお伝えします」


修士郎は頭を抱えた。


「お前ら、俺を何だと思ってるんだ…」


「優菜、セクハラの範囲を超えたらちゃんと止めろよ」


「もちろんです。ただ、問題はその“範囲”の基準ですね。今回、基準を学ぶいい機会だと思います」


「……そうだな。もう諦めたわ」


修士郎はため息をついた。


こうして、真面目なキックオフから一転、修士郎は“セクハラ客役”を演じる羽目になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ