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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第2章「知の進化――教育とAIの共存戦略」
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第32話「AIが導く問いの思考、人間の役割を問う」

AI活用の新たな指導法として、生徒が仮説を立てたうえでAIと対話する手法を導入。AIの答えを鵜呑みにせず、自分の考えと比較しながら学ぶことで、思考の深さが増していく。一方で、AIが“最適な答え”を導くことに依存するリスクも浮上。人間が問いを立て続けることの重要性が問われる。

AIを活用した探究型学習が定着しつつある中、修士郎は新たな可能性に気付き始めていた。それは「問いを立てる力」そのものにAIを活用するという考えだった。


「問いの質を評価する仕組みを導入したのはいいが、そもそも生徒たちが最適な問いを立てるために、AIの力を借りることはできないだろうか?」


人間が問いを考えることの重要性は当然として、それと同時にAIがどのように思考し、どのように推論を展開するのかを学ぶこともまた価値があるのではないか?AIの推論プロセス——いわゆるChain of Thought(思考の連鎖)を活用すれば、生徒たちはより高度な思考法を身につけることができるのではないか。


「仮説の立て方、結果との比較、その過程にAIを組み込んでいけば、AIと人間が共に思考を深める新しい学びの形が生まれるかもしれない」


修士郎は、このアイデアを実際に試してみることにした。


授業が始まり、いつものようにAI活用グループの生徒たちは仮説を立て、AIと対話することで自分たちの考えを深めていた。しかし、今日は一つ新しいプロセスを導入した。


「今日は、新しい試みをしてみよう」


修士郎が生徒たちに説明する。


「これまでは、みんなが自分の仮説を立ててからAIに質問していた。でも、今日はAIと一緒に問いを考えてみる。AIがどのように思考を組み立てるのかを観察し、それを学ぶことが目的だ」


生徒たちは少し驚いた様子だった。


「AIに問いを考えさせるんですか?」


「そうだ。AIは、思考の連鎖を通じて論理的な問いを作り出すことができる。今日は、AIがどのように問いを組み立てるのかを見て、それを参考にしながら自分の思考を磨くんだ」


修士郎は、タブレットの画面をプロジェクターに映し出した。


「例えば、『戦国時代の経済政策が現代に応用できるか?』というテーマを考えてみよう。まず、AIに“このテーマを深掘りするための適切な問いを作ってほしい”と依頼する」


AIが即座に回答を示す。

1.戦国時代の商業政策は、現代の自由市場とどのように異なっていたか?

2.戦国大名が経済発展のために実施した施策には、現代の地方経済活性化に応用できるものがあるか?

3.信長の楽市楽座は現代の規制緩和政策と類似する部分があるか?


生徒たちは食い入るように画面を見つめた。


「おお…こんなに整理された問いが出てくるのか」


「これ、僕たちが考えるのと全然違う角度から来るな」


「すごい! AIの思考プロセスって、こういうふうに組み立てられてるんだ」


修士郎は微笑んだ。


「このプロセスがChain of Thought(思考の連鎖)と呼ばれるものだ。AIは、一つの問いを掘り下げるために、いくつかの段階を経て思考を展開していく。今日は、この思考の流れを観察し、みんなの問いの作り方とどう違うかを比べてみよう」


生徒たちは各自、AIが作った問いと自分たちが考えた問いを並べ、違いを分析し始めた。


「僕の問いはすごく単純だったな…。AIの問いは因果関係を意識して作られてる」


「私はもっと直感的に問いを作ってた。でも、AIは論理的に段階を踏んでいる感じがする」


修士郎は頷く。


「そう、ここが重要なんだ。人間は感覚的に問いを作ることが多い。一方、AIは体系的に論理を組み立てながら問いを深めていく。この二つを融合させれば、より質の高い思考ができるようになるはずだ」


授業後、橘と講師陣がこの試みについて話し合っていた。


「AIに問いを考えさせるなんて、正直、思ってもみなかったわ」


橘が率直に言うと、他の講師たちも頷いた。


「でも、確かにこれは有効かもしれません。AIの推論を学ぶことで、生徒たちは自分の思考の欠点や足りない部分に気づける」


「ただ、ここで気になるのは、AIの問いに依存しすぎるリスクです。問いを考えるのがAIの仕事になってしまったら、本末転倒になります」


修士郎はゆっくりと頷いた。


「その通りです。だからこそ、このプロセスは“AIを参考にする”ことに重点を置く。AIが出した問いをそのまま使うのではなく、“なぜこの問いが良い問いなのか?”を考えさせることが重要なんです」


橘は少し考え込みながら言った。


「問いを立てる力は、やはり人間にしかできないこと…そう思っていたけれど、AIのChain of Thoughtを観察することで、その力を磨くことができるかもしれないわね」


修士郎は微笑みながら答えた。


「そうなんです。AIの推論プロセスを学ぶことで、問いの立て方をより高度なものにする。そして最終的に、人間はAIの問いを超えた新しい視点を持つことができるのか? これこそが、この実験の本当のテーマです」


AIが問いを生み出し、それを学ぶことで人間の思考力をさらに高めることができるのか。


この新たな試みは、AIと人間の知性の境界を探る重要なステップになろうとしていた。

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