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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第1章「変革の夜明け――AIエージェント元年への道」
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第3話「交錯する未来予想」

大手メーカーのAI導入をめぐり調整に奮闘する修士郎。現場の抵抗と企業文化の衝突に向き合う一方、娘・揚羽もAI学習で波風が立つ。AIと人間の共存に迷いながら模索する姿が浮き彫りになる。

翌朝、おおとり 修士郎しゅうしろうは早めにオフィスへ向かった。昨日の大手メーカーとの打ち合わせ後、社内メールには関連部署からの問い合わせが相次ぎ、資料の確認や補足説明の準備で深夜までかかったのだ。エレベーターを降りると、すでに高梨柊一たかなし しゅういちがパソコンに向かいキーボードを叩いている。


「おはよう、高梨。随分早いな」

「鳳さんこそ早いですね。例のメーカー案件ですけど、社内でAI導入に積極的なチームと、慎重派の対立が激しいらしくて……。朝から情報が飛び交ってます」

高梨はそう言いながら、スクリーンに映し出されたチャットログを示す。そこには、「AI任せは社員のモチベーションを損なう」「世界の競合に遅れをとるかもしれない」など、まるで綱引きのように相反する意見が並んでいた。


修士郎はコーヒーを一口飲み、落ち着いた声で言った。

「じゃあ、短期導入と長期的な効果測定を切り分けて提案しよう。あと、職人気質の技術者たちへの説明会も必要になるだろう」

「了解です。ところで鳳さん、昨日は娘さんのことで連絡があったんですよね? 大丈夫でした?」

「ああ……揚羽あげはがクラスメイトと衝突してな。AI学習が気に入らない子たちもいるみたいで」


揚羽の通う小学校では、従来型の私立中学受験を目指す生徒の親が多数派だという。詰め込み型学習を嫌う揚羽は、AIでイラストや作文を作るのが大好きだが、その姿勢に対して「変わり者扱い」されることもあるらしい。もっとも、揚羽自身は気丈に振る舞っており、「パパ、私ぜんぜん気にしてないよ。AIは私の味方だもん!」と笑っていた。


「正直、娘のほうがよっぽどAIを活用してるんじゃないかって思うこともあるよ」

修士郎が苦笑すると、高梨は少し考え込むように眉を寄せる。

「子どもは順応が早いですからね。でも、学校や家庭が古い価値観にしがみついてると、大人になる頃には大きな溝ができるかもしれません」

「まさに企業と同じ構図だな。旧来のやり方を変えたくない層と、AIで一気に飛躍しようとする層……その中間をどう取り持つかが俺たちの仕事だ」


そう言いながら修士郎はスマートフォンを取り出し、常用している生成AIアプリを立ち上げる。最新のモデルを試し、プレゼン資料のアイデアを整理するのが彼の朝の日課だ。かつてはシステムエンジニアとしてプログラムを書いていたが、あまり得意ではなかった。しかし今では、こうしたAIツールでクリエイティブな部分を補い、自身は“経営の視点”や“人間同士の調整”に注力するスタイルを確立している。


「ところで鳳さん、今日の午後イチに新規クライアントとの打ち合わせが入りました。先方は若い社長で、AI活用にむちゃくちゃ積極的らしいですよ」

高梨がカレンダーを確認しながらそう言うと、修士郎はうなずきつつ興味を示す。

「いいね。そっちのほうがやりがいがありそうだ。新しい発想を持ってる人と仕事すると、俺たちも刺激を受けられる」


午前の時間が過ぎ、昼前になるころ。メールをチェックしていた修士郎は、揚羽の担任から連絡が入っていることに気づいた。

『揚羽さんがクラスでAIアプリを利用して自主学習している件について、一部保護者から心配の声が上がっています。学校としてもどのように対応すべきか検討していますので、一度ご相談できればと思います』


そこには「AIはラクを覚えさせる」「子ども本来の力が育たないのでは」という批判がある旨も書かれていた。揚羽の自由な発想を認めてくれる教師だと思っていたが、保護者たちの声は無視できないらしい。

「まあ、そういう意見もあるよな……」

思わず独り言が漏れる。自分も企業のコンサルをしていて痛感するが、新技術への賛否は必ず現れ、意識の違いから衝突するのは珍しくない。ここでも親がどう動くかが試される。


昼休み、修士郎は一瞬だけ時間を取り、妻に電話をした。

「今朝、担任からメールが来てた。ママも見た?」

「うん。正直、どう対応したらいいのか……揚羽はまったく悪気がないし、先生も理解は示してくれるけど、一部の保護者が強く反対してるみたい」

妻の声は少し不安げだ。揚羽はAIを使うことで、苦手な漢字や計算も楽しく覚える工夫をしている。しかし、旧来の中学受験の考え方を信じる親には「ズルい」「学習の本質から外れる」と映るのかもしれない。

「俺も仕事が落ち着いたら先生と直接話してみるよ。揚羽が自分の才能を伸ばせる環境は確保したいし、クラスメイトと対立ばかりじゃ可哀想だから」

そう告げて電話を切ると、胸の中に“企業とAIの摩擦”と“学校とAIの摩擦”が重なって見えた。いずれも、変化を積極的に受け入れる人とそうでない人の温度差が根深い。それを埋める術を見つけるのが、ビジネスプロデューサーとしても父親としても、修士郎の使命のように思える。


午後になり、新規クライアントが来社した。30代前半の社長はガラス張りの会議室に通されると、開口一番こう言った。

「鳳さん、うちは製造業の古い体質をぶっ壊して、AIでガンガン新事業を作りたいんです。コンサルの型に縛られずに、攻めてほしい」

その言葉に修士郎は一瞬眉を上げる。やる気があるのはいいが、急激な改革は既存社員との摩擦を生む可能性が高い。しかし、そこにこそビジネスプロデューサーの出番だろう。AIの導入と同時に、人材育成や組織統合の仕組みをどう設計するかが鍵になる。

「面白いですね。AIが出す答えを、人間の持つ経験や感情とすり合わせるプロセスが大事です。そこをきちんとマネジメントすれば、最小限の混乱で大きな成果を得られる可能性があります」


社長は満足そうにうなずく。高梨も横でメモを取りつつ、新しい戦略案を頭の中で組み立てているようだった。

「企業でも家庭でも、AIに対するスタンスは本当にいろいろだな」

そう思いながら修士郎は、手帳に「揚羽の担任との打ち合わせ日時調整」と書き込んだ。仕事だけでなく、家庭の課題も見据えつつ突き進む彼の日常は、ますます慌ただしくなりそうだ。


「AIの躍進は止まらない。でも人間だって、立ち止まるわけにはいかない」

会議が始まる前のわずかな時間、修士郎はそう心に言い聞かせる。企業変革と娘の学び、その両面で“新旧の価値観”がせめぎ合う。そんな時代だからこそ、AIと人間の未来を描くビジネスプロデューサーとしての腕の見せどころだ。話し合いの準備を整え、修士郎は会議室の扉を静かに閉めた。

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