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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第2章「知の進化――教育とAIの共存戦略」
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第28話「AI導入初日、現場の葛藤と期待」

橘は学習塾でのAI活用の試験導入を決断。しかし、説明会では講師陣から「AIが思考力を奪うのでは?」との懸念が噴出する。修士郎は「AIは問いを深めるツール」と説き、橘も自身の体験をもとに理解を促す。慎重な空気の中、試験導入が正式に決定。だが、本当の試練はここから始まる。

試験導入が決定し、いよいよ学習塾でのAI活用がスタートする日がやってきた。橘沙織の決断により、まずは希望者を対象にした小規模な試験運用が行われることになった。


「今日から、AIを活用した探究型学習を試してみます」


橘が集まった生徒たちに説明すると、教室には緊張感と好奇心が入り混じった雰囲気が漂った。


「AIを使うってことは、勉強がラクになるの?」


ある生徒が率直に質問した。橘は微笑みながら首を横に振った。


「いいえ。AIは答えを教えてくれるものではなく、考えを深めるためのツールとして使います。みんなが自分で考え、問題を解決する力を身につけることが目的です」


「じゃあ、AIってどんなことができるんですか?」


別の生徒が興味津々な表情で尋ねた。


修士郎が前に出て、タブレットを持ち上げた。


「例えば、今日は歴史の授業で使ってみましょう。単に出来事を暗記するのではなく、歴史上の人物の思考を追体験することで、より深く理解できるようになります」


タブレットの画面には「AI坂本龍馬」と表示されていた。


「みんな、坂本龍馬ってどんな人だったか覚えてるかな?」


「えっと…幕末に活躍した志士で、薩長同盟を結んだ人!」


「その通り。でも、どうして彼は薩長同盟を結ぶことが重要だと考えたのか?」


「えっ…」


「ここで、AI坂本龍馬に聞いてみよう」


修士郎がタブレットに「あなたは坂本龍馬です。どうして薩長同盟を結ぼうと考えたのですか?」と入力すると、画面に返答が表示された。


「わしは、日本がこれからの時代に取り残されぬよう、強き国を作る必要があると考えた。そのためには、薩摩と長州という対立する勢力を一つにまとめ、新たな時代を築くしかなかったんじゃ」


生徒たちは驚いた様子で画面をのぞき込んだ。


「なんか、本当に坂本龍馬が話してるみたい!」


「こうしてAIと対話することで、歴史の出来事をただ暗記するのではなく、その人物がどんな考えで行動したのかを深掘りすることができるんだ」


生徒たちの目が輝き始めた。


「じゃあ、自分で質問してみてもいいですか?」


「もちろん。大事なのは、自分で“どんなことを聞けば理解が深まるのか”を考えることだよ」


一人の生徒が「もし幕府が倒れなかったら、坂本龍馬はどう思っただろう?」と入力した。


AI坂本龍馬はこう答えた。


「幕府が続いたならば、日本の近代化は遅れたかもしれんのう。わしは、新しい時代を作るために命をかけたが、それがなければ列強の圧力に負けてしまっていたかもしれん」


生徒たちはますます興味を持ち、自発的に次々と質問を入力し始めた。


「なるほど…こういう使い方なら、AIは単なる便利ツールではなく、考える力を養うものになるかもしれないわね」


後ろで見守っていた橘が、つぶやくように言った。


しかし、一方で講師たちの間では、依然として懸念の声が上がっていた。


「これでは、生徒たちが考えずにAIに頼りきりになるのでは?」


ベテラン講師の一人が橘に詰め寄った。


「確かにその可能性はあります。でも、大事なのはAIをどう使うかです。生徒たちはただ答えを聞いているのではなく、問いを考え、仮説を立てるプロセスを学んでいます」


「しかし、受験に必要な知識の詰め込みとは異なりますよね? これは本当に役立つのでしょうか?」


橘はしばらく考え、修士郎のほうを見た。


「ここで、試しに“AIなし”のグループと“AI活用”のグループに分けて、思考力の違いを比較してみてはどうでしょう?」


修士郎は頷いた。


「いいアイデアですね。AIを活用することで、どれだけ理解の深さが変わるのかを検証できます。1週間ほど試験的に実施して、比較データを取ってみましょう」


講師陣は慎重な表情を浮かべながらも、試してみる価値があると判断したようだった。


その日の授業後、生徒たちが帰った後に橘は深いため息をついた。


「やっぱり、すぐに受け入れられるものではないわね」


「そうですね。でも、今日の生徒たちの反応を見る限り、AIは十分に学習の補助として機能する可能性があります」


レイラが肩をすくめながら笑った。


「でも、データが揃わないと反対派は納得しないわね。慎重派の講師たちも、受験結果に影響があると感じれば、また意見が変わるかもしれない」


「だからこそ、次の一週間が勝負ですね」


修士郎は静かに息を吐いた。


試験導入の初日、AIの可能性を感じた生徒たちと、それを疑問視する講師陣。


AIが本当に学びを変えるツールになるのか、それとも単なる一時的な流行で終わるのか。


答えを出すための検証が、これから本格的に始まろうとしていた。

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