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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第2章「知の進化――教育とAIの共存戦略」
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第27話「試験導入の決断、揺れる教育現場」

橘自身がAIとの対話を体験。AI渋沢栄一との議論で「教育の本質」を問われ、さらにAI悠真との対話を通じて「AIは考える力を奪うのか?」と自問する。AI悠真の「AIは便利な道具」という言葉に揺さぶられ、ついに学習塾での試験導入を決意。AIと学びの関係が、新たな段階へと進む。

創慧ホールディングスの会議室で行われたAIとの対話セッションを終え、橘沙織の中に確かな変化が生まれていた。


「AIは思考を奪うものではなく、使い方次第で学びを深めるツールになるかもしれない…」


AI渋沢栄一との議論を通じて「教育の本質」を問い直し、さらにAI悠真との対話を経て、「AIは考える力を奪うのか?」という長年の疑問に直面した。その結果、橘はついに学習塾でのAI活用の試験導入を決意した。


だが、これはあくまで第一歩に過ぎない。塾の講師陣や保護者たちが、この決断をどう受け止めるのかが問題だった。


翌日、修士郎のもとに橘から連絡が入った。


「試験導入の具体的な計画を立てたいわ。できれば来週には関係者向けの説明会を開きたい」


「分かりました。試験導入の範囲や対象生徒、評価基準を整理して、説明会までに準備を進めます」


橘は少しため息をつきながら続けた。


「正直なところ、講師たちの反発は避けられないと思うの。今までのやり方に誇りを持っている人ほど、AIを敵視しがちだから」


「ええ、その点は覚悟しています。でも、AIを導入することで何が変わるのかを、実際のデータと事例を示しながら説明できれば、反対派の意見も和らぐはずです」


「そう願いたいわね…」


橘の声には、一抹の不安がにじんでいた。




説明会当日。学習塾の主要講師陣、運営スタッフ、そして一部の保護者たちが会議室に集まった。


修士郎はAI活用の目的とその効果についてプレゼンを開始した。


「今回、AIを活用する目的は、生徒の思考力を奪うことではなく、むしろ思考を深めるサポートをすることにあります。従来の暗記中心の学習に加えて、AIとの対話を通じて、より実践的な思考力を養う仕組みを作ります」


スライドには、AIを活用した探究型学習の成功事例が示されていた。


「例えば、総合型選抜入試では、従来の知識の暗記ではなく、自分で課題を見つけ、解決策を考え、それを論理的に説明する力が求められています。その過程でAIを活用することで、情報収集の幅を広げ、深い思考を促すことができます」


会場内の一部の講師が首をかしげた。


「しかし、結局はAIに頼ることで、生徒たちの努力が減るのではないでしょうか?」


そう発言したのは、塾のベテラン講師の一人だった。彼は20年以上にわたり、厳格な受験指導を行ってきた人物で、従来型の学習方法に強い信念を持っている。


修士郎は落ち着いた声で答えた。


「その懸念はよく分かります。ですが、AIは単なる答えを提供する道具ではなく、思考の補助として活用することができます。例えば、生徒が自分の意見を論理的に整理する際に、AIが多様な視点を提供し、それをもとに議論を深めることができます」


「でも、AIが生徒の代わりに考えてしまう可能性もあるのでは?」


別の講師が疑問を投げかけた。


「だからこそ、重要なのは“AIの使い方”です。今回の試験導入では、単なる解答の提示ではなく、生徒自身がAIをどのように活用し、どのような問いを立てるかを重視します。つまり、AIに正しい質問を投げかけ、得た情報を整理して、最終的な結論を自分で導き出す訓練を行います」


会場が少しざわついた。


すると、橘が静かに口を開いた。


「私自身、最初はAIが思考力を奪うのではないかと考えていました。でも、自分で試してみて分かったのは、AIは問いを深めるツールになり得るということです。思考の主体はあくまで人間であり、それをどう活用するかが鍵なのだと」


橘の言葉に、一部の講師が考え込むように頷いた。


「もちろん、すぐに全員が納得するとは思っていません。でも、実際に試してみて、その効果を見ていただければ、考え方も変わるかもしれません」


修士郎は、最後のスライドを表示した。


「ですので、まずは試験導入として、希望者を対象にAIを活用した探究型学習を行い、その成果を評価したいと考えています。成功事例が出れば、より多くの生徒に広げていくことが可能になります」


講師たちは互いに顔を見合わせながら、慎重に言葉を選んでいたが、最終的に橘が締めくくった。


「試験導入を進めます。ただし、途中で問題が発生した場合には柔軟に調整することを前提とします」


会場に小さなざわめきが起こったが、最終的には了承の空気が流れた。


説明会が終わり、会議室を出ると、レイラが修士郎の隣に並んで歩きながら笑った。


「やっぱり、まだまだ壁は厚いわね」


「当然だ。でも、少しずつ前に進んでいる」


「そうね。でも、次は実際の試験導入…ここからが本番よ」


修士郎は深く頷いた。


AIと人間の学びの融合は、まだ始まったばかりだった。これから、本当の試練が待ち受けているのは明らかだった。

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