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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第2章「知の進化――教育とAIの共存戦略」
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第23話「思考を奪うか、広げるか」

橘は「AIが子供の思考力を奪う」と懸念し、「大学からの活用で十分」と主張。しかし、AIネイティブとの差が広がる可能性には不安を抱く。修士郎は「AIは思考を奪うのではなく、広げる道具」と説き、橘の意識に変化が生じる。だが、決断にはまだ時間が必要だった。

橘沙織との二度目の会談を終えた翌日、鳳修士郎はオフィスの窓の外を眺めながら考え込んでいた。


橘はAIの導入に対して依然として慎重だったが、完全に拒絶しているわけではなかった。彼女の中には「AIを使うことで思考力が鈍るのでは?」という懸念と、「AIを使わないことで時代に取り残されるのでは?」という葛藤があった。


「彼女が本当に恐れているのは、子供がAIに頼りすぎて、自分の頭で考える力を失うことなんだろうな……」


そう呟いた瞬間、オフィスの扉が開き、デジタルネイティブの若手コンサル、真鍋航が入ってきた。


「鳳さん、昨日の橘さんの反応、やっぱり予想通りでしたね」


「そうだな。AIの価値を認めながらも、早期の導入には抵抗がある。でも、彼女自身も迷い始めているのは間違いない」


「ですよね。実は、AIを活用した探究型学習を行っている学校の事例をさらに詳しく調べました。AIを導入したことで、逆に**思考力が鍛えられた**という事例が増えているんです」


修士郎は画面を覗き込んだ。そこには、AIを活用したカリキュラムを導入した学校のデータが示されていた。


「AIを使うことで、単なる情報検索ではなく、「情報の関連性を考える力」や「自分の視点を深める力」が向上している、と」


「はい。例えば、AIを使ったディベートの授業では、生徒がAIを活用して多様な視点を得ながら、自分の考えを整理する訓練をしています。ただ答えを探すのではなく、AIの情報をどう活用するかを考えることで、より論理的な思考力が鍛えられるんです」


「橘にこれを見せたら、彼女の考えは変わるかもしれないな」


「ですね。でも、彼女が納得するには、データだけじゃ足りないでしょう」


そこへ、藤堂レイラがゆったりと歩み寄ってきた。


「また難しい顔してるわね、鳳さん」


「考え事をしてると、君が来るのはいつものことだな」


「ふふ、鳳さんの表情を見てたら、何か面白いことが起こりそうだって思うのよ」


レイラは画面を覗き込み、真鍋の資料を流し読みした後、ふと微笑んだ。


「でもね、橘さんが納得するには、データや理論だけじゃダメよ」


「どういうことだ?」


「彼女は母親でもあるのよ。データで納得するんじゃなくて、感情で納得しないと、本当には動かないわ」


「感情で納得、か……」


修士郎は腕を組み、考え込む。確かに、AIを活用した学習のメリットを示すデータは豊富にある。だが、それを示したところで、「それでも私は自分の頭で考える力を優先したい」と言われれば、それ以上の説得は難しい。


「つまり、彼女が“これは子供のためになる”と実感できる何かが必要ってことか」


「そういうこと。じゃあ、どうする?」


「……橘の子供に、実際にAIを使わせてみるのはどうだろう?」


「それ、いいわね」


レイラは満足げに微笑んだ。


「彼女が納得するには、子供が実際にAIを使って成長する姿を見せるのが一番よ」


「よし、次の会談で、橘の下の子にAIを活用した学習を試してもらう機会を提案しよう」


数日後、創慧ホールディングスの会議室。


「実際にAIを使った学習を、お子さんに試してもらえませんか?」


修士郎の提案に、橘沙織は眉をひそめた。


「それは、どういう意図ですか?」


「百聞は一見に如かず、ということです。AIがどのように学びをサポートし、思考力を鍛えるのかを、お子さん自身に体験してもらえれば、より具体的に議論できると思います」


橘は少し考え込んだ。


「……実験的なもの、ということであれば、考えてもいいかもしれません」


「ありがとうございます。ただし、我々はAIがすべてを解決するとは思っていません。あくまで人間の思考を支援するツールとして活用するのが目的です」


「……分かりました。でも、私の懸念が払拭されるわけではありません」


「当然です。だからこそ、実際に試してみて、AIがどう学習に貢献するかを見ていただきたいんです」


橘はしばらく沈黙し、ゆっくりと頷いた。


「では、試してみましょう」


会議が終わり、オフィスへ戻る道すがら、レイラが満足げに微笑んだ。


「やっぱり、子供のこととなると、橘さんも冷静ではいられないのね」


「親として当然の反応だろう」


「ええ。でも、これで彼女の視点が変わるかもしれないわ」


修士郎は小さく頷いた。


AIが思考力を奪うのか、それとも広げるのか。その答えを探るための小さな実験が、これから始まろうとしていた。

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