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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第2章「知の進化――教育とAIの共存戦略」
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第21話「教育の未来、揺れる価値観」

DXプロジェクトが最終承認を得て、無事にクロージング。保守派も慎重ながら受け入れ、火種は沈静化した。しかし、次なる挑戦は教育業界。有名学習塾の次世代スキル養成型への変革支援が始まるが、AI導入に猛反対する“お受験ママ”との対立が予想される。

DXプロジェクトのクロージングから数日後、新たなクライアントとの打ち合わせのため、鳳修士郎たちは会議室に集まっていた。


「今回のクライアントは、創慧ホールディングス。彼らは有名大学輩出で名高い学習塾を買収し、次世代スキル養成型へ移行する計画を進めています」


シニアマネージャーの高梨柊一がプロジェクト概要を説明する。


「時代の流れですね。総合型選抜の割合が過半数を超え、年々その傾向が強まっていますし」


デジタルネイティブの若手コンサル、真鍋航がタブレットを操作しながらデータを表示する。


「一般入試の枠が縮小し、有名大学が総合型選抜入試を増やす中で、学習塾も従来型の教育では立ち行かなくなってきたわけですね」


「でも、伝統的なお受験層の反発は避けられないわね」


完璧な美貌を持つコンサルタント、藤堂レイラが微笑みながら言う。


「そのとおりです。今回のプロジェクトオーナーはたちばな 沙織さおり氏。彼女は買収された学習塾の前経営者であり、プライベートでは典型的なお受験ママでもあります」


高梨の言葉に修士郎が軽く眉を上げる。


「元経営者がプロジェクトオーナーか」


「ええ。もともと彼女の学習塾は有名大学輩出率の高さで受験生に支持されていました。しかし、総合型選抜の割合が増え、一般入試の枠そのものが少なくなり、合格者数が減少。そんな中、創慧ホールディングスから買収提案を受け、変革のために舵を切ることになりました」


「でも、彼女自身は詰め込み教育で育ち、東京大学に首席合格。上の子は私立中高一貫校に通い、奨学金を得る優等生で、志望校は総合型選抜で有名な慶應SFC。一方、小学6年生の下の子は都立中高一貫校受検を視野に入れつつも、従来型の私立中受との狭間で迷っている。学習塾の変革は、自分の教育観にも影響するから葛藤があるようです」


「なるほど……」


修士郎は静かに息を吐いた。


「単なるDX導入じゃない。教育の根本をどう変えるか、その価値観の転換がテーマになるな」


クライアント企業の会議室に足を運ぶと、創慧ホールディングスの幹部たちとプロジェクトオーナーの橘 沙織が待っていた。彼女は洗練されたスーツを着こなし、鋭い眼差しでこちらを見据えていた。


「初めまして、本プロジェクトを担当する鳳です」


修士郎が名刺を差し出すと、橘は受け取りながらも、どこか冷ややかな視線を向けた。


「学習塾のAI導入プロジェクト、と伺いましたが……正直、不安しかありませんね」


「不安、ですか?」


「当たり前でしょう?」


橘は腕を組み、まっすぐに修士郎を見つめる。


「私は、子供の思考力は鍛えられるものだと信じています。AIなんかに頼ってしまったら、考える力がどんどん衰えてしまうのでは?」


「あら、AIってそんなに恐ろしいもの?」


レイラが微笑みながら問いかけるが、橘は動じない。


「あなたたちは、“AIで便利になる”とか“効率が上がる”とか言うかもしれないけど、私は基礎学力こそ最も大事だと思っています。特に読み書き算盤の習熟なしに、応用なんてできるはずがないでしょう?」


「確かに、基礎力は重要ですね」


修士郎は静かに頷く。


「私たちも基礎力を軽視しているわけではありません。ただ、時代の変化に合わせて、学習方法も進化させる必要があるのではないでしょうか?」


「変化、ね……」


橘はため息をつく。「でも、結局は『受験で有利かどうか』が大事なんですよ。現実問題として、AIを使うことで本当に受験に勝てるのか、その保証はあるんですか?」


「それは重要なポイントですね。では、実際に総合型選抜が増えている理由をご存知ですか?」


「……もちろんです。大学側が個性や思考力を重視し始めたからでしょう?」


「そうですね。しかし、それだけではありません。企業が求める人材像の変化も大きな要因なんです」


修士郎はスライドを開き、最新の採用データを見せる。


「現在、多くの企業が『自ら課題を発見し、解決する能力』を重視し始めています。暗記型の勉強だけでは対応できない時代になってきているんです」


橘は何か言いたそうだったが、すぐには反論できないようだった。


初回の会談は、双方が自分の立場を主張する形で終わった。帰り道、レイラがふと呟く。


「橘さんも、本当は気づいてるんじゃないかしら」


「気づいてる?」


「ええ。たぶん、“今のやり方が本当に正しいのか”って、どこかで思ってるはず。でも、長年信じてきたものを否定するのは、簡単じゃないわ」


「確かに……親としては、自分の選択を疑いたくないだろうな」


修士郎は小さく頷いた。


「でも、彼女が完全に納得するには時間がかかりそうだ」


「だからこそ、あなたの巻き込み力と閃きが必要なんじゃない?」


レイラが悪戯っぽく笑う。


「またプレッシャーをかけるなよ」


修士郎は苦笑したが、新たな戦いが始まったことを実感していた。


「Future Minds Project」――教育の根幹を揺るがす挑戦が、ここから始まる。

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