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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第1章「変革の夜明け――AIエージェント元年への道」
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第18話「静かなる不安、見え隠れする火種」

若手社長のDX加速方針に保守派が猛反発。修士郎は段階的導入策を閃き、両者の妥協点を見出す。レイラの“エモロジカル”が火種を和らげ、真鍋もデータで貢献。だが、くすぶる火種に修士郎は新たな不安を覚える。

DX加速計画の方向性が定まり、若手社長と保守派の間に一応の合意が成立した翌日、オフィスの空気は少し落ち着きを取り戻していた。しかし、おおとり 修士郎しゅうしろうは違和感を拭えないままデスクに座っていた。


「火種はまだ消えていない……」


段階的導入策が受け入れられたとはいえ、保守派の警戒が完全に解けたわけではない。そして、若手社長の焦りも沈静化したわけではない。表向きは均衡が取れたように見えても、その均衡がどれほど脆いものなのか、修士郎は誰よりも感じていた。


「おはようございます、鳳さん!」

元気よく駆け寄ってきたのは、新卒コンサルの真鍋まなべ わたる。彼は昨夜も遅くまでデータを分析し、現場の温度感を数値化していたらしい。

「昨日の合意を受けて、現場の意見をもう一度集めてみました。DX推進を歓迎する声と慎重な声の割合は、ほぼ半々ですね。でも、“どうせやるなら早く”という意見も増えてるんですよ」

「慎重派の反発が減ったわけじゃなくて、“どうせ変わるなら早くしてくれ”って声が出てきたってことか」

修士郎は画面に映し出されたデータを見ながら考え込む。現場は結局、"やるなら一気に"というスタンスを強めつつある。


そこへ、まるで場の空気を切り替えるかのように、藤堂 レイラ(とうどう れいら)がゆったりと現れた。

「おはよう、鳳さん。真鍋くんも相変わらず元気ね」

彼女は柔らかな微笑を浮かべながら、修士郎のデスクに寄りかかる。まるで周囲の空気を操るように、自然と人々の視線が彼女に集まる。


「火種は消えてないわね」

唐突な言葉に、修士郎は驚きつつも苦笑した。「やっぱりそう思う?」

「当然。昨日はとりあえず場をまとめたけど、保守派の不満はまだ残ってるし、若手社長は“やるなら早く”って方向にまた傾いてる。あとね……」

レイラは声を潜め、「現場リーダーの何人かが、“自分たちの意見が反映されてない”って不満を漏らしてるらしいわ」と続けた。


「そっちの火種もあるのか……」

現場のリーダー層は、トップの判断に左右される立場にある。しかし、彼ら自身の声が無視されていると感じれば、導入が進むにつれて不満が爆発する可能性もある。修士郎は新たな問題が浮上していることを直感した。


「さすが鳳さん、また“運がいいだけ”って言いながら、結局は何十手も読んでるんでしょ?」

レイラが冗談めかして言うが、修士郎は軽く肩をすくめる。「いや、俺自身、そんなに先のことを考えてるつもりはないんだけどな」


レイラがふっと笑い、「本当は考えてるくせに」と囁いた瞬間、真鍋が割って入った。

「レイラさん、僕にもその“エモロジカル”なやり方、教えてくれませんか?」

「えっ?」とレイラは目を瞬かせ、次の瞬間にはいたずらっぽい笑みを浮かべた。「ふふ、いいわよ。でも、年下の男の子には筆下ろしのほうが先かしら?」

「ちょっ……!?」

真鍋は顔を真っ赤にしながら言葉を詰まらせる。レイラはそれを楽しむかのように微笑み、高梨柊一たかなし しゅういちが横を通りかかるなり、「また職場でそういう話をしてるのか」と呆れた顔をした。


「話を戻すぞ。若手社長が、“次のステップを早めに具体化してほしい”と言ってきた」

高梨はため息をつきながら報告した。「経営陣の期待を背負っている手前、DX推進を成功させた実績を早く作りたいらしい」

「でも、現場リーダー層の不満を放置してたら、せっかくの導入計画が途中で頓挫する可能性もある」

修士郎は思案しながら、レイラの言葉を思い返す。火種はまだくすぶっている。今動かないと、次の会議では取り返しがつかなくなるかもしれない。


「……なら、一度、現場リーダーたちの意見をしっかり聞く場を設けるべきだな」

修士郎は閃きを口にする。「トップダウンとボトムアップのバランスを取るために、現場の意見を正式に反映させる場を作る。それなら、保守派も納得しやすくなるし、若手社長の焦りも抑えられる」


「さすがね、鳳さん」

レイラが微笑む。高梨も「それなら納得感が出るな」と頷いた。真鍋はまだ頬を赤らめたままだが、「早速、リーダー層向けのヒアリング項目を整理します!」と前向きだ。


午後には若手社長にも提案し、早速承認が下りた。「現場の意見を汲み取りながら進めるのは悪くない。俺も参加するよ」と前向きな返答だった。


こうして、次なる課題は“現場リーダーの声を形にする”ことへとシフトする。だが、それを進める中で、修士郎はさらなる火種が潜んでいることに気づき始める――現場のリーダー層の中にも、変化に賛成する者と強く反発する者が入り混じっているのだ。


「本当に運がいいだけ、で済むかな……」

修士郎は静かにそう呟きながら、次なる局面を見据えていた。

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