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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第1章「変革の夜明け――AIエージェント元年への道」
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第16話「進む加速と、深まる火種」

第15話では、保守派と若手社長の狭間で、部分導入策を提示した修士郎の閃きが奏功し、DX拡張の方向性が明確に。レイラや真鍋も連携を強化し、プロジェクトは次の段階へ進む兆しを見せる。

朝の光が差し込むオフィスで、おおとり 修士郎しゅうしろうは珍しく早めに出社していた。昨日までの動きで、試験的に導入されたDXラインはどうにか形になりつつある。保守派からは依然として強い警戒感が残る一方、若手社長はこの成功を引き金に“さらなる加速”を模索している。まるで、まだ完全に消えていない火種にガソリンを注ごうとしているかのようだ。


「鳳さん、おはようございます」

軽快な声の主は、デジタルネイティブの新卒コンサル・真鍋まなべ わたるだ。昨夜も自宅で遅くまで作業をしていたらしく、早くも最新のデータやグラフを用意していたらしい。画面には、試験ライン導入後の生産性向上率が色分けされて表示されている。

「おかげで部分導入の成果がこれだけ可視化できました。ユーザーの満足度も高梨さんが集めたアンケートで上向き傾向です」

「いいね。これで若手社長にアピールする材料が増えるし、保守派にも“効果はある”と示せる。でも……」

修士郎は画面を指しながら、少しだけ曇った表情を見せた。「導入部分以外の不満がむしろ増えてる。『結局、自分の部署は置き去りか』とか『全体を変えないと意味がない』とかね。若手社長が全部門導入を急いでるのも、そういう声を気にしてるからかもしれないけど……早すぎるよな」


一方、シニアマネージャーの高梨柊一たかなし しゅういちはすでに別室でミーティング中。保守派の管理職らが「試験ラインは上手くいったが、だからといって全面リプレイスに納得できない」とくぎを刺しているらしい。妥協点を探る段階でも、まだまだ衝突の芽は残っているといえそうだ。


「やっぱり大掛かりなアクションは慎重にしないと、また爆発しそうですね」

真鍋が呟いたところへ、完璧な美貌を携えたレイラ・藤堂とうどう れいらが軽やかな足取りで現れる。MIT仕込みのデータサイエンティスト思考と、“エモロジカル”とも呼べる感情操作が得意という、少し特異なコンサルタントだ。彼女は真鍋に軽い微笑を向けると、すぐに修士郎へと目を向ける。


「おはよう、鳳さん。昨日の部分導入のレポート、ざっと見たわ。成功したからって気を抜いてると、若手社長が『次は一気にやろう』って言い出すわよ。保守派が黙ってると思う?」

レイラの言葉に修士郎は苦笑する。「あんたの言う通りで、朝からいろいろ火種を感じてるよ。高梨は今、保守派管理職をなだめてる最中だ。こっちも若手社長へのアプローチを考えないと」

「ふふ、結局“運がいいだけ”って言いそうだけど、こんなときこそあなたの閃きが必要でしょ?」

からかうような口調に真鍋が少し羨ましそうな顔をする。彼もまたレイラにほのかな憧れを抱いており、時折冗談まじりの“筆下ろし”発言をされてはドキリとしているようだ。


そこへ若手社長からオンライン会議の招集連絡が入り、「部分導入が成功したから早期に全面展開を」という声が出ているとのこと。さっそく修士郎と真鍋は対応に入る。画面に映る若手社長は上機嫌で、「思ったよりスムーズに成果が出た。この機を逃す手はないですよ」と勢いを見せる。しかし修士郎は慎重に意見する。

「確かに、今の成功が追い風なのは間違いない。ただ、保守派はまだ“様子見”ってスタンスだし、現場にも“やるなら一気にやってほしい”と“あんまり急がないで”の両極端の声があります。ここはもう少しデータを固めて、導入スピードの段階的プランをアップデートするほうがリスクが少ないですよ」


若手社長は少し不満げに唸るが、レイラが横から口を挟む。「今度の拡張版ロードマップでは、感情面をどうケアするかが焦点になりそうですね。単に数字のグラフじゃ動かない層もいる。そこを押さえれば早期展開も可能かも」

「なるほど。それなら鳳さんやレイラさんの力で、もうちょっと踏み込んだプランを用意してもらえる?」

社長の要望に対し、修士郎は「了解しました。高梨にも相談しながら進めます」と応答。そのまま会議が終了する。


しかし通話を切ったあと、レイラが少し眉をひそめた。「あんな調子だと、保守派が逆に硬化するかも。“早くやってほしい”と“やめてほしい”の両者が強まると、真ん中で支えてる人が疲弊するのよね」

「ほんとだよ。ここで一気に加速したら、トラブルが起きる確率も上がる。俺も“運がいいだけ”じゃ済まなくなるかも」

修士郎が自嘲すると、真鍋は「またそれですか」と呆れ顔。レイラは苦笑して「まあ、運を味方につけるのもあなたの特技でしょ」と返す。


昼前には高梨が戻ってきて、保守派管理職とのやりとりを共有してくれる。「あっちも“成果は認めるけど拡大は早すぎる”と煮え切らない。どっちみち、若手社長は早期導入したいし、現場も二極化してる。全部まとめるなら、修士郎が何か閃くしかないんじゃないか?」

まるで期待を込めるように言われ、修士郎は苦笑する。「俺だって閃き頼みばかりはイヤなんだけどな……みんなで考えよう。数字と感情、両方を扱うプランが要る」

レイラはニヤリとして「データを使わず感情を揺さぶるのが私の真骨頂。具体的には私に任せて。真鍋は技術的根拠を固めて、保守派が納得できる“安全策”を提示すればいい」と素早く役割を割り振る。高梨は上層部への報告を引き受ける形で落ち着き、まるで即席の作戦会議が成立した。


午後は、そのまま作戦会議モードに突入。レイラは保守派管理職や現場リーダーの“感情の地図”を作るかのようにヒアリング結果を整理し、真鍋は拡張導入時の障害予測をシミュレーション。修士郎がそれらを総合し、一気にゴールまでの道筋を描こうと試みる。

「これでまたなんとかなればいいけどな。何十手先を考えてるって言われても、自分じゃそんなに考えてるつもりはないんだけど……」

「謙遜するわね。2年前もそうやって最後の最後で大逆転案を出して、みんな驚かせたじゃない。私も助けられたんだから」

レイラの口調は柔らかいが、どこか楽しげだ。真鍋は「また二人の世界だ」と嫉妬を滲ませ、高梨は苦笑い。事務所の片隅が少しだけざわつく。


やがて夕方近く、基本プランがざっと整い、高梨が若手社長への説明スケジュールを調整して終了。「次の会合で大筋合意を取り付けたいな」と呟くが、レイラは悪戯っぽく「スムーズにいったらつまらないわ」と返す。真鍋は彼女の言葉に軽くときめき、修士郎は苦笑しつつ「今度は本当に運だけじゃ無理かも」と心の中で呟く。


外はすっかり暮れて、修士郎のスマートフォンが鳴る。妻から「今夜は家で揚羽と待ってるからね。早く帰れる?」とのメッセージだ。ほっと安堵を覚え、「今度こそ早めに帰ろう」と決意する。

レイラはそんな彼を見て「お、愛妻家の時間ですね。じゃあ私は真鍋くんを捕まえて“筆下ろし”トークでもしようかしら」と冗談めかす。真鍋は顔を真っ赤にし、「レイラさん、またそれですか……」と慌てる。高梨は呆れながらも、事務所を見渡して「まあこれがいつもの光景だな」と苦笑する。


――翌朝には、若手社長が加速導入を正式発表する見込みで、保守派の管理職たちがどれだけ納得するかが最大の山場になるだろう。修士郎は「ここまでスムーズに来たら、あと一押しだ」と自分に言い聞かせるが、一方で違和感も拭えない。“火種は完全に消えていない”という直感が脳裏をかすめる。それでも、仲間と支え合いながらなら、思わぬ閃きがまた奇跡を呼んでくれるかもしれない。


「たまたま、運が良かっただけ」で済ませられるうちは、まだ大丈夫。修士郎はそう自嘲しながら、夜のオフィス街を急ぎ足で後にするのだった。

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