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創造の砦:AIを超える思考とは  作者: Ohtori
第1章「変革の夜明け――AIエージェント元年への道」
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第15話「次なる火種、静かなる波紋」

保守派と若手が衝突必至のラウンドテーブルで、修士郎が先読みの提案を繰り出し、レイラと真鍋が後押し。混乱は収束したが、火種は消えず新たな波乱を予感させる。

翌朝、オフィスに足を運んだおおとり 修士郎しゅうしろうは、いつもより早く届いたメールの多さに苦笑していた。昨夜のラウンドテーブルを経て表面上の衝突は回避できたが、それがすぐに企業全体の安心へと繋がるほど簡単ではない。むしろ、潜在的な火種があちこちに転がっているように思える。


「鳳さん、おはようございます」

新卒コンサルの真鍋まなべ わたるが声をかける。彼はすでに大量のアンケートとチャットログを照合し、朝一番で新たなグラフを生成していたらしい。

「ラウンドテーブルを終えてから、熟練技術者の何人かが“話しても聞いてくれた”と評価してる反面、警戒が解けないって声も多いですね。特に“若手社長の本音はどこにあるのか”っていう疑念が根強いみたいで……」

「そうか……。昨夜は保守派と若手社長が一時的に落としどころを見つけたように見えたけど、実際にはまだ腹を割って話していない証拠かもな」

修士郎は画面を覗き込みながら小さく息をつく。多くの人にとっては“AI導入と熟練技能の共存”が理想とはわかっていても、本当に未来がそうなるのか確信が持てないのだろう。


デスクに戻ると、シニアマネージャーの高梨柊一たかなし しゅういちが差し入れのコーヒーを持ってきた。

「修士郎、昨日の続きだが、若手社長から“さらなるDX推進プロジェクト”の打診があった。既存工場のライン自動化を深く進めたいらしい。保守派との合意が充分固まってない段階で、さらに加速するんだとさ」

「まじか……早いな。向こうも攻めの姿勢を崩すつもりはないんだな」

修士郎は頭を抱える。保守派との摩擦がまだ完全に沈静化していないのに、若手社長がこれ以上の推進を急げば、新たな火種を生むのは目に見えている。しかし、高梨によると「他社がAI+ロボティクスを進めて先行している」という外的要因もあるらしい。


その時、レイラ・藤堂とうどう れいらが颯爽と現れ、表情を曇らせた修士郎の脇をスッとすり抜けるように歩み寄る。まるでAIが生み出した理想美のような容姿で、周囲を圧倒するのは相変わらずだ。

「高梨さんが言う追加プロジェクト、私も概要を聞きました。外部データから見ても、確かに他社は先に進んでます。ただ、内部の意識改革が追いついてないのにスピードばかり上げても、反動が大きい気がしますよね」

彼女はMIT仕込みの冷静なデータ分析で、リスクを的確に把握するのが得意だ。2年前も修士郎と組んで、土壇場を何度も救った実績を持つ。彼女の指摘に、高梨も深く頷く。真鍋は横で新たなシミュレーションの準備を始めていた。


「鳳さん、どうします? 若手社長は早く計画書を出してほしいと言ってるみたいですよ」

真鍋が小声で尋ねると、修士郎はデスクでメモを見つめながら「うーん」とうなる。自分の“閃き”が必要な場面だとわかってはいても、あまりに条件が複雑だ。保守派の不満、熟練技術者の不安、会社全体のバランス、そして外部競合の動向――それらをすべて考慮し、なおかつ巻き込まなければならない。


レイラが隣でクールに言葉を投げかける。「また“運がいいだけ”とか言わないで、ここでこそ何手も先を読んで何か妙案出してくださいよ、鳳さん」

挑発とも応援ともとれるその一言に、修士郎は苦笑を浮かべながらも頭を切り替える。

「……わかった。まずは既存ラインの部分自動化をテストベッドにして、結果が出たら徐々に拡大する案にしよう。いきなり全体を変えようとしたら大反発が起こるかもしれないから、ステップを細かく区切る。保守派も現場も“まずは小さく試してみましょう”で納得しやすくなるはず」


さっそくレイラと真鍋が反応し、追加のデータが画面に映し出される。高梨も「部分自動化のロードマップに、熟練技術者のフォロー体制を組み込めば、社長も納得するかもな」と提案を加える。修士郎は一通りの計画を頭でシミュレーションし、「これならイケそうだ」と確信を深める。


と、そこへ今度は保守派の管理職から「これ以上のAI導入を決めたって本当か」という確認連絡が飛び込んできた。高梨が急いで対応しながら、修士郎は「やっぱり来たか……」と心の中でつぶやく。若手社長が裏で動いている情報が漏れたのだろう。

「真鍋、早速さっきの資料をまとめて送ってくれ。レイラはグラフのビジュアル調整を手伝ってくれ。俺は高梨と一緒に、保守派の管理職へ説明に行く」


あわただしく動き出したチームの様子を見ながら、修士郎は安堵と焦りの混じった感情を抱く。スピード勝負が必要な場面で、確かに自分は多くの助けを借りて“何十手先”を視野に入れた策を思いつく。でもその一方で、突然のスロットルアップに対して現場がついてこれるか――不安は拭えない。


「鳳さん、私たちがついてますから、また上手くやりましょうよ。二年前も同じようなピンチ、何度も切り抜けましたし」

レイラの落ち着いた声が背中を押す。クールな美貌と冷静なデータ思考を合わせ持つ彼女は、からかい半分でも修士郎を信頼しているようだ。修士郎は小さく頷いて「頼む」と返事をする。


画面の中の数値やチャットログが、ひっきりなしに更新されていく。保守派と若手社長の板挟みはこれから益々激化するだろう。だが、その逆境こそが修士郎の“閃き”を引き出してきた舞台であることも、彼自身うっすらわかっている。謙遜しながらも、いつものようにピンチをチャンスへ変える策を見出すのか――。


「とにかくやるしかない。みんなを巻き込みつつ、この先何手分か予想して手を打つんだ」

意を決してスマートフォンを握りしめる修士郎。そのスクリーンには、妻からの「今夜は早めに帰れそう!」というメッセージが表示されていた。家族の支えを思えば、どんな苦境も乗り越えられるはず。いつもの“運がいいだけ”という言い訳に笑みを浮かべながら、彼はすでに次なる一手を模索し始めていた。

第16話予告:

若手社長のさらなるDX推進計画に保守派が再び反発。レイラの分析が示す新事実に、修士郎は「運がいいだけ」と謙遜しつつも、またも閃きを活かす時が来る──。

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