第135話「芸術の未来を決める瞬間」
AIアートと人間の創作の境界線が曖昧になる中、遠藤は審査の公平性について再考を迫られる。修士郎は、作品の価値を決めるのは技術ではなく、その「影響力」だと指摘。議論が白熱する中、コンクールの方向性が大きく揺れ動く。
遠藤のオフィスには、コンクールの最終審査員たちが集まっていた。AIアートの台頭により、審査の基準が揺らいでいる中、修士郎も立ち会い、審査員たちの議論を見守る。
「今回の応募作品の中で、最も評価が高かったのは、AIが生成したものです。」
審査員の一人が、候補作品をスクリーンに映しながらそう告げた。そこに映し出された作品は、圧倒的な完成度を誇っていた。構図、色彩、筆致——すべてが洗練され、完璧に近い。しかし、それを見たある審査員がため息をついた。
「確かに素晴らしい。でも……これが人間の手で描かれていたら、もっと感動したかもしれない。」
その言葉に、会場がざわめいた。AIアートの技術的な優位性は疑いようがない。しかし、そこに人間の「手仕事」や「感情」はどこまで宿っているのか?
「技術の優劣を語る場ではない。」修士郎が静かに言った。「重要なのは、作品がどのような影響を及ぼすかだ。AIであれ、人間であれ、その作品が何を伝え、何を生み出すのか。そこに審査の焦点を置くべきでは?」
審査員たちは互いに顔を見合わせた。これまでの芸術の評価基準は、手仕事の精緻さや独創性だった。しかし、AIによって生成された作品もまた、強いメッセージを持ち、鑑賞者に何かを感じさせることができる。
「この作品がAIによるものだと知った上で、それでもなお評価するのか?」
遠藤が問いかける。
沈黙が支配した後、一人の審査員が意を決したように口を開いた。
「……結局、芸術とは何かという問いに戻るのかもしれないな。」
コンクールの審査は、従来の「人間の創作」という枠を超えた議論へと突入していた。修士郎は、遠藤の表情を見た。どこか複雑なものが浮かんでいる。
「結論を急ぐことはない。」修士郎は続けた。「今後のコンクールの在り方をどうするのか、今日の議論はその出発点にすぎない。」
その言葉に、審査員たちは深く頷いた。AIと人間、両者が共存する新たな芸術の時代が、すぐそこまで来ている。