第134話「審査基準の再定義」
AIアートがもたらす影響を前に、遠藤は評価基準の再定義を決断。修士郎は「創造の本質は変わらない」と説き、AIと人間の協働が新たな芸術の地平を拓く可能性を示唆する。議論が熱を帯びる中、コンクールの未来を決める重大な局面が訪れようとしていた。
遠藤を中心に、AIアートの審査基準を巡る議論が佳境を迎えていた。AIを活用した作品と人間が手掛けた作品をどう評価するのか。従来の芸術審査とは異なり、単なる技巧や美しさではなく、創造性や影響力が問われるべきだという意見が強まっていた。
「結局、作品の評価は何を基準にするのか?」
遠藤は会議の場で改めて問いかけた。参加者たちは静まり返る。修士郎は、これまでの議論を整理しながら口を開いた。
「作品の技術的な完成度、創造性、そして社会に与える影響。この三つの要素が評価基準になるべきです。AIアートか否かに関わらず、これらの観点を明確にすることで、公平な審査が可能になります。」
「しかし、それではAIが自動生成した作品が高評価を得る可能性が高くなるのでは?」と、審査員の一人が懸念を示す。
「その点については、“意図の明確化”を追加すればいい。」修士郎は即答した。「作品がどのような思想や意図で作られたのか、それが審査の重要なポイントになります。単なる美しさではなく、どのような考えが反映されているのかを重視するべきです。」
遠藤は深く頷いた。
「意図の明確化、か……。確かに、それならAIが作ったから評価が高くなるわけではなく、作り手の哲学が問われることになるな。」
審査基準は次第に形を成していった。技術的な完成度、創造性、影響力、そして意図の明確化。これらの要素を軸にした新たな評価方式が確立されつつあった。
しかし、この議論が決着したわけではない。参加者の中にはまだAIの関与自体に否定的な意見を持つ者もいた。特に、伝統的なアート界の関係者からは、「AIに芸術の価値を語らせるべきではない」との強硬な主張も出ていた。
「芸術とは、人間の感情や経験が生み出すものだ。AIがいくら技術的に優れていても、それが本当の意味での芸術と言えるのか?」
修士郎は反論しなかった。むしろ、議論が進むことが重要だった。
「その疑問こそ、この議論を深める鍵です。我々が定義する芸術の価値が、時代によって変わっていくことは歴史が証明しています。今、私たちが考えなければならないのは、AIが生み出す作品とどう向き合うかです。」
遠藤は考え込んだ様子で、議論の流れをまとめ始めた。
「まずは、我々が設定した評価基準を試験的に適用し、過去の受賞作品に照らし合わせてみる。その上で、AIアートの評価がどのように変化するのかを検証する。それで問題ないか?」
参加者たちは賛同の意を示した。
「では、次のステップに進もう。」
AIアートの評価基準を確立するための最終的な検証が、いよいよ始まろうとしていた。