第132話 「AIが創る未来のアート」
AIアートを巡る論争は白熱し、遠藤は従来の芸術観に固執するか、新たな評価基準を受け入れるかの岐路に立たされる。修士郎は、AIが生み出す作品の「創造性」をどう定義するかを問う。技術の進化が価値観の変革を迫る中、コンクールの未来を決定づける議論が加速する。
遠藤はコンクールの新たな審査基準について、審査員たちと最終的な議論を重ねていた。AIアートの台頭を受け、単なる技術の巧拙ではなく、作品の「意図」と「影響力」をどのように評価するかが焦点となっていた。
一方で、修士郎は遠藤とのミーティング後、個別に審査員の意見を聞く場を設けた。従来のアート界の重鎮である画家の大槻は、AIを使うこと自体には否定的ではなかったが、「本当に感情を持たないものが表現と呼べるのか?」と疑問を呈した。対照的に、デジタルアートに精通した審査員の宮下は、「表現者の意図が明確であり、鑑賞者に強いインパクトを与えるなら、それがAIであろうと関係ない」と強く主張した。
「アートは時代と共に変わるものです。だからこそ、時代の流れに適応しながら評価軸を進化させるべきでは?」と宮下が続ける。
この意見に、大槻は渋い顔をしながらも、「AIが生み出したものでも、心に響くものはある……か」とつぶやいた。修士郎は、この会話から新たなヒントを得た。
「それなら、表現者の『意図』をどのように測るかが鍵になりますね。」
審査基準に「作品の技術的な完成度」「表現者の意図の明確さ」「鑑賞者への影響力」の三要素を加える案が浮上した。これにより、AIが生成した作品でも、制作者の意図や表現の工夫が評価の対象となる。
この議論の最中、コンクール応募者からの問い合わせが急増していた。中には、「AIを使った作品でも、作者の創意が伝わるなら評価されるのか?」という具体的な質問もあった。これは、応募者の中でもAIをどのように活用すべきか模索している証拠だった。
遠藤は審査基準の調整を急ぐよう修士郎に依頼し、コンクールの公式発表に向けた準備が本格化する。AIアートと人間の創作の境界が、改めて問い直される瞬間が迫っていた。