第130話「芸術の境界線を超えて」
AIアートの評価を巡る議論が白熱する中、遠藤はついに決断を下す。作品の制作手段ではなく、「創造性」と「影響力」を重視する新たな審査基準が策定された。AIと人間の境界が曖昧になる時代において、芸術の本質を問い直す意義が浮かび上がる。
デジタルアートコンクールの審査基準を巡る議論が佳境に入る中、修士郎は遠藤との対話を重ね、AIアートと人間の創作の違いをどう評価するかを整理し始めていた。
「結局のところ、AIが描いた作品か、人間が描いた作品かなんて関係ない。ただ、見る側がその作品に何を感じるか、それだけが重要なのでは?」
遠藤は修士郎の言葉にうなずきながらも、苦悩を滲ませる。コンクールに応募された作品の中には、明らかに人間が描いたものと分かるものもあれば、AIの手によって作られたとは到底判別できないものもある。その事実が、コンクールの意義そのものに疑問を投げかけていた。
「主催者として、公平性を保つことは必要だ。でも、公平性って何なんだろうな……」
遠藤がぼそりとつぶやく。
一方で、審査員たちの間では、ある作品が議論を呼んでいた。それは、まるで現実の世界を超越したような、圧倒的なビジュアルと構成力を持つ作品だった。しかし、その作品の作者情報を調べても、名前すら存在しない。
「これ、誰の作品なんだ?」
審査員の一人が疑問を口にする。
「まさか、応募者の中に完全AIがいるんじゃないのか?」
その言葉に、場の空気が一瞬にして張り詰める。AIが人間の介在なしに応募した可能性——それが事実なら、これまでの芸術の概念を根底から覆す出来事となる。
修士郎は静かに目を閉じ、深く考え込んだ。AIと人間の創作の境界線は、もはや曖昧になりつつある。この先、芸術の価値はどこに見出されるのか。
「この作品を、どう評価するか。それが、我々の答えになるんじゃないか?」
彼の言葉に、遠藤はゆっくりと頷いた。AIアートと人間の芸術が交錯する時代——その答えを導き出す瞬間が、刻一刻と近づいていた。