第128話「芸術の未来を問う審査会」
第127話のふりかえり:
AIアートと人間の創作が交差する中、審査員たちは評価の本質を見つめ直す。遠藤はAIを使うことへの抵抗を徐々に緩め、創作の「意図」と「独自性」に重きを置くべきだと認識。修士郎の提案を受け、審査基準の明確化が進む。コンクールの未来を決める重要な局面が迫っていた。
遠藤が主催するデジタル絵画コンクールの審査会が始まった。会場には審査員たちが集まり、各作品の評価を進めていた。しかし、今回の審査は従来のものとは違う。AIが生成した作品と、人間が生み出した作品が混在し、それを区別することなく評価を行う方針となっている。
審査会の冒頭、遠藤は参加者に向けてこう語った。「我々は、作品の背後にある技術ではなく、作品そのものの価値を評価するべきです。この審査は、AIと人間の境界線を超えた、新たな芸術の可能性を探る試みです」
修士郎も会場に足を運び、その様子を静かに見守っていた。彼が今回のプロジェクトで求められているのは、AIアートの位置づけを明確にし、審査基準が公平であることを保証することだ。しかし、審査が進むにつれて、予想外の事態が発生する。
ある審査員が、目の前の作品を見ながらこう呟いた。「この作品には、圧倒的な技術力を感じる。だが、これは果たして”人間らしい”作品なのか?」この疑問は、ほかの審査員にも波及し、議論が白熱する。
「人間が描いたものには、その人の生き様や感情が込められている。AIの作品にも、それと同じ価値があるのだろうか?」
「芸術とは、見る者に感動を与えるものだ。作者がAIか人間かは関係ない。重要なのは作品の力だ」
意見は真っ二つに割れた。審査員たちは、それぞれの価値観を持ち寄りながら、激論を交わした。しかし、修士郎は別の視点で事態を捉えていた。
「そもそも、“人間らしさ”とは何なのか?」修士郎は、遠藤に問いかけた。「AIが生み出した作品に”人間らしさ”を感じるのなら、それは人間が生み出した作品と同等に評価されるべきではないでしょうか?」
遠藤は一瞬、言葉に詰まったが、静かに頷いた。「確かに……。問題は、AIが人間の創造性を模倣することではなく、我々がそれをどう受け止めるか、なのかもしれないな」
こうして、審査会は新たな局面を迎えることになった。AIアートと人間のアートが対等に競い合う未来が、すぐそこに迫っていた。