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道徳

「民を支えてきたのは最初の国王ではありませんかな? どこの王国も最初の王は唯一の存在だったのですぞ。先進しただけでは飽きたらず、不死の国とまで言われているエリクシア王国は、先代の血なくしてここまでの国にならなかった。なのに、王の意志は国民の意志ではないというのですか? まったく分かりませんな」


「分からぬか……そうであろうな。国民の血税を自らが生んだ富と主張する貴様ら人間は何も分からぬだろう。貴様らをもてなしている品物はこの国の職人が作った物だ。ここまで上質な品物を造れる者たちが禁断の森の深くまで引っ越すとなれば、今後の貿易にも支障が出る」


 母が言うと王の間は静まった。まるで王様がいないような空気だ。


「土地の交渉は以上で終了とする」


 うん、今回も時間の無駄だった、と言う感じで人間たちは城から出ていった。


 そこで「女王陛下」と言い出したのは血啜人の男傭兵だった。


「あのような無礼な口を利く王国とは貿易を停止するべきです」


「そうなることを願って口汚く罵っていたのだが、上手くはいかないものだ」


「でしたら――」


「いいや、我々から貿易凍結を持ちかけたらあの王国は『戦争だ』と言うぞ。パリス王国はエリクシア王国に一番近いのだから、戦闘奴隷を使っていつでも戦争できるように準備さえしておけば明日にでも血吸いの森に火を放つだろう。我々が他の王国に応援を呼ぶ暇もなく開戦ということだ」


「であれば、我々暗殺(アサシン)部隊があの王国の人間共を皆殺しにしてみせましょう」とマスク姿の血啜人は低い声を響かせた。


「――ならぬ。『人間を殺すことは無駄だ』と、わたしだけでなく歴代のアサシンもそう言うだろう。アサシンは無意味な殺しをしないのだからな」


「分かってはおります! しかし陛下、人間の親は自分の子を食料としてしか見ておりません。先ほどの王国の話を聴く限り、奴隷は民の食料で、民は貴族の食料になっている。人間は食人種よりも野蛮な生き物です」


「『人間を殺してもまた別の人間が歴史を繰り返す』先代のアサシンたちはそう学んだのだ」


「血吸いの森の恩恵をこんなにも受けながら人間共は何も学んでおりません」


「問題は森と山のようだが、その森を切り拓くことも山を崩すことも許されぬ。永続させるべき問題もあるのだ。生命管理種族の頭の中は空っぽになったが、我々もまた生命管理種族なのだ。血吸いの森がある限り、神秘の滴が生成される限り、わたしたちの国は永続するさ」


 わたしの母が言うと、場の熱が一瞬で消えたようだ。


「女王陛下、軽はずみな発言を謝罪します」


「申し訳ありません、命の重みを再確認いたしました」


「うむ、皆熱くなり過ぎたようだ。冷静に物事を考えるには時間がかかる、今日のところは家に帰って休もうではないか」


 どれどれ、わたしはバレないようにひっそりと去るとしよう。


「ルビア! そこにおるのであろう」


 うん、いつものことながらわたしの隠密は母にはバレバレのようだ。


「はいはい、なんでしょう女王陛下」


「先ほどの話を聞いていたか?」


「いえいえ、わたくしルビアが耳に入れた言葉などは小鳥のさえずりだけでございます」


「そうであったか。ならば我が娘にこう言ってやろう――『お前が心配する必要はない』とな」


「別に心配なんてしてないよ。でも血吸いの森は今日も不安定だったよ。草木の元気がなかったから、神秘の滴が少ししか取れなかった」


「そうであったか。それでも大勢のヒトは救える」


 救えたとしてもセカイは救えないよ。


 と、反抗期のわたしはプイっと顔を背けて足早に城から出ていった。


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