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エリクシア王国

//舞台はここ、日の光届かぬ森にある大きくも小さくもない王国。


//そして主役はルビアことわたし


//今日。血吸いの森は血に飢え、わたしの地獄耳が冴えわたるこの頃、


 わたしはエリクシア城に来ていた。


 この場所に足を運んだ理由は簡単、外界というのか外国というのか……まあこの国――エリクシア王国――に人間族が来ていると小耳に挟んでしまったからだ。そんな理由じゃ物足りない? いやいや、人間族が来たのは大変なことだよ。


「――赤死病により我々人間族だけでなく田畑も汚染されてしまっています!」


 と、喧騒のような訴えをするのは人間族の上流階級者だった。


「三年後にはパリス王国の民は飢えでばたばたと倒れてしまうのです!」


 論に論を重ねてくるのも人間族だ。


わたしの耳には、「土地をよこせ」、と交渉に来たであろう人間の声がはっきりと聞こえている。回りくどい言い方で血吸いの森を切り拓くと言っているのだ。


そんな人間に慈悲を与えるのが国と国の良好な関係の成立。しかし女王陛下(エリクシア王)――わたしの母――といえば、


「他国の事情なんぞ知らぬ。勝手気ままに増えたのはどの種族であろうか? 何より、貴様らから見た王国の民とは奴隷のことであろう。労働奴隷が死んでは困るからそのような交渉しに来たのだろう。恥曝しどもめ」


 そう返事をすると思ったけど、とても攻撃的ではありませんかお母さん、わたしでも耳を疑うほどの発言ですよ。


「どの王国でも奴隷は貴重だ。エリクシア王国にも奴隷はいますでしょう?


「はっ、奴隷? 我が王国に所有物となる血啜人は誰ひとりとしておらぬぞ。奴隷貿易などと吠えているのは汚らわしい人間共だけだ――特にお前らのような容姿も頭の中も穢れてしまった見るに堪えない人間のな」


「なっ――無礼であろう!」「それでもエリクシアの国王なのか!」


「そなたらを死ににくくしているのはこの森の恩恵であろう。お高くなって何が悪い。いのちがかかっておるなら尚更高くつくであろう」


 エクリシア王国の医療技術と血吸いの森の草木からしか採れない――【神秘の滴(ヒュギエイア)】。それが無ければ人間たちの病――赤死病――を治せないらしい。


「簡単なことだ、重病患者に薬を渡さなければよいのだ。そうすれば飢えで死ななくなるであろう。どうせ死ぬのは奴隷なのだろう」


「血吸いの森を独占している王国が神秘の滴で他国を脅すなどあってはならぬことだ!」


「独占なんぞしておらぬ。血吸いの森に愛されなかった者たちは神秘の滴がどう現れるかを見ることすらできない、つまり森に愛された者だけが神秘の滴を受け取れるのだ。分かるか? 貴様らが森を独占すれば更なる鮮血を見ることになるのだ」


「それが脅しではないか! そちらの言い分はいつも同じで、『森を切り拓けば血吸いの森の霧が徐々に晴れて、いずれ神秘の滴は採れなくなり、血啜人は太陽に晒され死んでしまう。自然と共に生きてきた我らを人工淘汰する気か、それとも人間は血啜人を虐殺したいのか』と、我々はそこまで多くの土地を要求していないというのに」


「事実であろう。史実通り、大昔にエリクシア王国は広大な森を貴様らの王国に分け与えた。そこで開墾した結果、神秘の滴の採取量が減り貴様らの王国だけでなくセカイ中で病気に苦しむ者が増えたのだ。貴様らの王国で生まれた特産品は結構だが、その特産品を生む奴隷を買いすぎて食料がなくなるなら、まずはパリスのバカ王子に『人間を人工淘汰させてはいかがですか』とでも提案すればいい」


 うわぁ、いつものことながらお母様は言い過ぎだよ。でも他国の事情に割り込まないと奴隷は消えない。お母様は正しいことをしているはず。


「そちらにはまだ禁断の森がありましょう? なぜそちらの森で神秘の滴を採取せぬのですかな? 侵入が禁忌とされていると言えど、世界のために禁忌に触れられないのですか?」


「今まで住んでいた土地を捨て、禁断の森の奥深くに引っ越せと……そう申すのか」


「ええ、そうなれば我々の王国だけでなく近隣の王国も協力してくれます。一つの禁忌を捨てればもっと楽観的な世界になるはずです」


「わたしは女王であるが、夫亡き今はエリクシア王国の国王なのだ。わたし一人の決断で今の国を捨てるなんぞ出来ぬ」


「一国の王であるのに決断できないとは情けない。これだから女の国王は優柔不断なのだ」


「どう言われようと構わん。しかし、今まで造ってきた道も街もこの城も、国民がいたから造れたのだ。道は他国との貿易のため、街は衣食住を満たす場であり国民が自由な競争をする場でもある、城は他国の役人や王を招き入れる場であるが、この城の本質は災害に遭った国民の避難場所なのだ。つまり、国王のわたしひとりが国を支えているわけではない」


「分かりませんな」「ええ、まったくです」「王族でありながら民を法で縛れぬとは」


 法で縛られているから血啜人は禁断の森に入れないんだよ。その森に何があるか分からないしわたしも気になるけど、入ってはならない森なんだよ。


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