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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

明日終わる世界なら

ヴーヴー…

「んぁ?…んだよ、急に電話なんかしてよ」

ふわぁとあくびをしながら電話に出ると、光輝こうきは呆れたように笑った。

「急にって…ほんとお前はのんきな奴だな。……夜には世界が終わるというのに」

「あぁ…、それか。なんだ?別れの挨拶でもするためにかけてきたのかよ?」

「お前はほんと……。最後の日だぞ?なんかしたいとかないのか」

「やりたいこと?…ないな。強いて言うなら寝ていてぇわ」

もう一度あくびをすると光輝は少しの沈黙のあと、そうかと呟いた。

「お前らしいな。世の中のやつはみんな、今日で終わることをまだ受け入れられずにいる。俺も例外じゃない」

「そうかよ。どうだっていいわそんなこと。つか、そうやって騒いでる奴ら見てるとこっちまで狂っちまいそうだ。そんなのは御免だね」

俺はふっと鼻で笑うように言ってベットから這い出た。

「………ならさ、つばさ。ふたりで……ふたりで誰もいないとこに逃げちゃおうぜ」

「は?」

光輝の声は震えているようで、少し寂しいように感じた。

「何言ってんだお前、お前は家族と過ごすんじゃなかったのか?」

「翼はさ、誰かと過ごしたいとかないのか?」

光輝は質問には答えず、窺うような声色でたずねてきた。

「別に。なんもねぇよ、そういうの」

そもそも俺にゃ両親つーのはいない。

父親は遊びまくってどこかに逃げて、母親は数年前に他界した。

別にさみしいも何も思わない。

二人の世界に俺はいなかったから。俺がいる世界なんてどこにもありゃしない。

だから

「こんな世界がいつ終わろうが俺にゃ関係ないね。そもそも俺のもんじゃねぇし」

「そういうもんなのか。…なぁ、もうすぐ家着くからさ、開けてくれよ」

「は!?何で来てんだよ!?」

「いやぁ、俺は世界最後の日くらい大事な大事な親友と過ごしたいなぁって思っちまったからさ。あとちょっとの間なんだ。付き合ってくれよ」

ちょっとコンビニに付き合えよというかのような軽いノリで言うもんだから、俺は思わずあぁって頷いてしまった。


「翼と行きたい場所があるんだ」



「なんだ?ここは」

「翼!ここなら人はいないぜ!俺とお前の二人っきりだ」

前を歩いていた光輝はぱっと振り返ると満面の笑みを浮かべた。

「あぁ?俺、寝たいって言ったんだけどなぁ…」

「まぁいいじゃないか!俺の我儘きいてくれよ」

光輝はにやっと笑うと俺の腕をつかんで草むらへ走った。

「なぁ、翼。もうすぐ日が落ちるな」

「そうだな」

「もうすぐ、終わるな」

「…そうだな」

街全体が見渡せるくらいの高さの高台で、俺たちは草むらに寝転がった。

「翼、ほんとにやり残したこととかないのか?」

横から聞こえてくる光輝の声は、風の音で流れてくるようで心地がいい。

「ないんじゃないか?そんな思い入れのあるものがこの世界にあるわけでもない」

「翼は刹那主義者だもんな。…俺はさ、ひとつだけ。ひとつだけ、やりたかったことがあったんだ」

空はすっかり暗くなって、光輝がそこにいるのにいないような、不思議な感覚になった。

「……まぁ、もういいんだけどな」

なにも良くなさそうな、さみしくてたまらないといった感情が俺のほうまで溢れてくる。

こいつはほんとに、隠し事が下手だ。

「俺らに来世、あるのかなぁ」

「地球が終わるのにどうやって来世が始まるんだよ」

俺は笑って光輝のほうへ身体を向けた。

彼は、空のもっと向こうを、今から落ちてくる隕石のその先を見据えるような瞳をしていた。

「別の星でさ、俺らが人間とは違う形で出会えたらさ、そのときは俺ら、どんな関係なんだろうな」

非現実的すぎる。夢物語だ。でも、笑って一蹴する気は起きなかった。

「さぁな?今度は兄弟かもな」

「恋人かもしれないぜ!…現世よりもっと、近い存在だといいな」

光輝は囁くようにそう言って、空を指さした。

「近づいてきてるぜ。あれが、俺らの命を一瞬で吹き飛ばすんだ」

燃えるような大きな力が、確実に地球へ近づいてきていた。

「光輝。やり残したことは本当にいいのか」

「今かよ。もう遅いだろ」

光輝は眉を下げて笑うと、起き上がった。

「まぁ、親友に背中押してもらってやらないようじゃ、来世があっても合わせる顔ねぇしなぁ」

そう言った彼は、まだ寝ころんでいた俺の顔を覗き込み、手を差し出した。

後ろで燃えたぎる隕石が、彼に力を与えているようだった。

柄にもなく、綺麗だなんて思ってしまうほど。

彼は綺麗だった。

「失敗しても隕石が消してくれるってことだし。ほら、立てよ」

「あぁ…」

掴んだ手は、強く、柔らかかった。

「お前さ…最後までかっこつけんの?」

「え」

「震えてんだよ、手が」

そういうと彼はふにゃっと顔を崩して照れたように笑った。

「ばれたか。恥じぃな」

「ほら、手、握っててやるからよ。やり残したことってなんなんだ?」

「翼。こっち向いて?」

「え…」

親友だから、距離は近かった。元々近かったけど。

「好きだよ。翼」

あまりにも近すぎるだろ……。

地球のどこかがなくなっていくのを感じながら、俺たちはお互いを抱きしめあった。

「嫌じゃないなら、現世で俺と」




いつもいつも、遅いんだよ。でも、お前の嘘が最後まで見抜けなかった俺も悪かったよな。

なんで最後まで言い切らないんだよ。最後に、やり残したこと、俺もできちまったじゃねぇか……。


なぁ光輝。現世で恋人になったらさ、来世はどんなに近い存在になれるんだろうな。


楽しみだな。

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