Side - 16 - 27 - おたんじょうびかい -
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がちゃ・・・
「お・・・お母様、お誕生日おめでとうございます」
「わぁ・・・コナンきゅんそのお洋服かわいいな、本物の女の子みたい!」
私の名前はアーノルド・シェルダン、ここローゼリア王国の筆頭貴族シェルダン家の当主だ。
今夜は私の妻、マリたん・・・いやマリアンヌの誕生日を祝うパーティーだ、時間になり子供達がパーティ会場となる我が家の食堂に入って来た、すでに会場には私と妻、妻の親友であり専属メイドのカーラさんが揃っている。
娘はドレス風のワンピースだが続いて入って来た息子を見て私は固まった、黒のフリルが付いたドレス・・・だろうか?、あまり見た事のない形をした服を着ている。
いつもは後ろで束ねている長い銀髪を解いているからどう見ても女の子だ・・・しかもとても可愛い、それにしてもなぜ息子は女装しているのだろう?。
「コナンザ・・・日本で何があったのだ・・・」
「お父様、コナンザは最近女装にハマっちゃって・・・これは日本で買ったお気に入りのドレスなのです!」
娘が私の疑問を察し先に答えた、いや似合っているのだが本当にそれでいいのか我が息子よ・・・。
話が逸れたな、この部屋に集まった私達家族は部屋着のような楽な格好をしている、知らない人間が見ればとても上級貴族の開くパーティとは思えないだろう・・・。
これは参加者が身内だけというのもあるし、派手だったり堅苦しい行事が苦手なマリアンヌの嗜好に合わせて毎年改善しているうちに自然とこのような誕生日会に落ち着いたのだ。
「お母様、お誕生日おめでとうなのです!」
「リゼたんもありがとう!、さ、お料理を食べましょう!」
「あ、お母様ちょっと待って、今年は特別にお客様を招待してるの、ちょうど約束の時間だから今から連れて来るね」
そうなのだ、娘からの提案で今年はマリアンヌの為に客を招待する事になった、だから今年の料理はかなり豪華で量がある。
しゅっ・・・
「あ・・・行っちゃった、パパ、お客様って?」
マリアンヌが私に尋ねた。
「それはみんな揃ってからのお楽しみだよ、リゼたんが転移魔法を使えるようになったから普段来れない人達にも来てもらおうと思ったのだ」
ぱぁっ!
「うわ眩しっ!」
「マリアンヌさんお誕生日おめでとう」
「ノルドに呼ばれてね、今日は友人のエルとして来た」
「私も来ちゃった!、マリアンヌちゃんお誕生日おめでとう!」
「わぁ・・・お姉様ぁ!、それからみんなまで・・・」
目の前に現れたのは我々と同じような服装の男女が3人、久しぶりに会えて余程嬉しかったのかマリたんが涙目になっている、やはり来てもらって正解だったな。
「これで親友6人が揃ったな」
「・・・何で私も数に入ってるんですかぁ?」
「何言ってるの、カーラちゃんも親友でしょ」
ここに揃った奴等は私の友人でもある、エルとアリーは我が国の国王と王妃だ、それからインフィーはラングレー王国の女王陛下、この名前を使う時はお互いの身分を気にせず友人として接するという約束を交わしている。
みんな忙しいから全員揃うのはおよそ10年ぶりだ、特にインフィーは娘の転移魔法陣を使わなければ気楽に会う事など出来ない距離に住んでいるし身分的にも簡単に入国できない。
「今夜はみんなここに一泊でいいのか?」
「それでいいわ、私は重要案件について考えたいから部屋に籠る、明日の夜まで誰も近付くなって言ってあるの」
インフィーが貧弱な胸を張って言った。
「私達も久しぶりに夫婦でのんびりしたいから部屋に来るなと城の者に言ってあるぞ」
エルが楽しそうに言った・・・そうだよなぁ、膨大な政務の上に旧デボネア帝国絡みの案件で最近忙し過ぎて顔が土色になっていたから心配だったのだ。
「もう一回行って来るのです!」
「え、まだ誰か来てくれるの?」
しゅっ・・・
ぱぁっ!
「マリたん!、来たよ」
「マリアンヌ、誕生日おめでとう」
「わぁ・・・お父様とお母様、それにパトリックまで来てくれたの・・・うぅ・・・ぐすっ・・・嬉しいよぅ」
私の義父母、ドルフ・ボッチとリリアンヌ・ボッチだ、それから義弟のパトリック・ボッチ、義父は旧デボネア帝国の帝都まで出向き支店の再開作業で忙しそうだ。
義母は最近研究室で何やら怪しげな錬金加工を、義弟は今も勢力を拡大し続けているボッチ商会の代表として多忙な日々を送っている。
「あの・・・お母様、僕ちょっと着替えて来るの・・・」
「え、コナンきゅんどうして?」
「この格好じゃ陛下達に失礼だし・・・恥ずかしい」
「あら、君がコナンザくん?、リゼちゃんやマリアンヌちゃんとよく似てて可愛いわぁ!」
ぎゅぅぅ
「あぅ・・・女王陛下・・・」
「そのお洋服すごく似合ってて可愛いから着替えるなんて言わないで!、それに今日の私は女王陛下じゃなくてマリアンヌちゃんの親友のインフィーよ!、リゼちゃんともお友達になったからコナンザくんも私とお友達になりましょう!」
「あぅ・・・は・・・はい・・・」
「それじゃぁみんなお料理を食べましょう!」
「それで、僕に給仕のお仕事を教えてくれてる苺さんって人がね・・・」
皆で食事を始めてから少し時間が経ち、私は息子から日本での暮らしを聞いている、どうやら向こうで楽しく過ごせているようで安心した、近いうちにタナカケ?の家族に礼をしに行かなければいけないな・・・。
息子の話を聞きながら私は他の連中の話も盗み聞きしていた。
「・・・そうなのよ、お城のメイド達に好評で・・・」
「お姉様が喜んでくれて嬉しいです・・・」
「・・・お嬢様は色を決めるのに徹夜して・・・」
マリたんとアリーは久しぶりに会ったから話が弾んでいる、少し前に贈った「リーゼ」の新作ドレスがアリーのお気に召したらしい、カーラさんも話に入って3人とも楽しそうだ。
「・・・買収は全面禁止と言われるかと思いましたが向こうから3割も買って良いと・・・失礼ながらまだまだ甘いですなぁ・・・」
「報告を受けたから知っているよ・・・確かに奴は経験不足で詰めが甘い、悪いのだがもう少し手加減を・・・」
「・・・商船団の貸出しについては・・・」
エルと義父のドルフ・ボッチは仕事の話か・・・旧デボネア帝国で復興の指揮をしている王太子殿下を掌の上で転がしているようでエルが頭を抱えている。
義父は帝都にある商業施設や土地不動産を3割も買い占めたらしい、王国としては大損だ・・・相変わらず容赦無いな。
「リィンちゃんは毎日退屈だーって不満そうだけどルナ殿下は知らない街や綺麗な景色を見て楽しそうに・・・」
「・・・寂しくて泣いてるかと思ったけどそれなら大丈夫ね・・・それと前に言ってた大規模転移網の件は・・・」
「あ、セフィーロと隣町の間では成功したって博士が・・・あの街を中心にこれからもっと距離を伸ばして魔導士がいなくても転移できるような転移網を構築・・・でもまだ場所の確保が・・・」
「・・・安心して・・・の辺りの土地を提供できるわ・・・」
リゼたんはインフィーと話している、大陸横断巡業中?の王女様達・・・リィンフェルド殿下とルナ殿下の近況報告だ、明後日にはオースター帝国のシーマの街に到着か。
それから大規模転移網?の試験状況?・・・何だそれは!、私はそんな話初めて聞いたぞ・・・あ、エルや義父にも聞こえたのか慌てて会話に加わったな、奴等も知らなかったようだ。
「義息殿、今日はお招きいただきありがとう、それにコナンザちゃんもドレス似合ってるね」
「あ、リリアンヌおばあさまとパトリック叔父様!」
マリたんの母親・・・私の義母であるリリアンヌ・ボッチが義弟のパトリックと一緒に話しかけてきた。
彼女は凄腕の錬金術師だ、10年ほど前には国から大錬金術師の称号も得ている。
「お義母様、風の噂で最近何やら怪しい研究に没頭されていると聞きましたが?」
「あら、耳が早いですねー」
否定しないのは怪しい研究という自覚があるのか・・・。
「どのような研究を?」
「・・・永遠の命、不老不死・・・リゼたんの見つけた術?は国によって秘匿されて教えて貰えないから私独自の視点で研究を進めているの」
「・・・それは具体的にどのような?」
「魔石にね・・・人間の記憶や感情を移すの、生まれてから死ぬ直前までの情報を全部、その魔石を他の生き物・・・じゃなくてもいいのだけど人工生命体に入れたら・・・面白い事になると思わない?」
「ぶふぉっ!・・・げほっ!、えふっ!」
思わず飲み物を吹いた。
予想以上に危ない内容だったぞ!、この人の頭の中はどうなっているのだ!、またエルが頭を抱えそうな案件が出て来たな。
「これは私一人の発想では実現は困難だったのだけど、前にリゼたんから外部記憶媒体やバックアップっていう「向こうの世界」の技術を聞いて閃いたの」
「それは・・・どこまで進んでいるのです?」
「私や旦那様の記憶や感情を魔石に移す事には成功・・・あとはその魔石を入れる「入れ物」が問題かな・・・生きてる人間に入れる訳にはいかないでしょ、死体を使うのは気持ち悪いし腐敗するから無理、だから今は人工的に生命体が作れないか研究中・・・ふふっ・・・将来的には・・・」
教会関係者に聞かれたら大騒ぎになりそうな話だ!。
「もういいです・・・」
「これからが良いところなのに・・・最終目標は人の姿なのだけど今は両手で抱えられる大きさの白いモフモフが限界・・・私は「テッピー」と名付けたのだけど・・・」
「もう十分です・・・」
「えー・・・」
内容が危険過ぎて頭が痛くなってきたから私はこの話を聞かなかった事にした。
不穏な話を聞いてしまったがマリたんの誕生日会は滞りなく進んでいる、全員食事には満足しているようでテーブルの上の料理もほとんど無くなった。
コナンザが初めて自分で働いた給金で買った向こうの民族衣装を見てマリたんが感激のあまり泣き出したり、私からの贈り物・・・シェルダン領東部で新しく見つかった金鉱山の利権・・・を見たインフィーに「こんなの貰って喜ぶ女性が居るかぁ!」と張り倒されたり・・・色々あったが楽しい時間が過ぎていった。
誕生日会がお開きになり、マリたんはプレゼントを抱えて幸せそうに自室に戻った、今夜はアリーと一緒に寝て明日はインフィー達女性陣とお茶会をするそうだ。
私とエル、インフィー、それからドルフとリリアンヌ、パトリックのボッチ親子は今、リゼたんに先導されて屋敷の地下に続く階段を降りている。
先ほど話していた大規模転移網の話を聞いて不安を覚えたのだろう、エルの奴がリゼたんの研究室を見たいと言い出したのだ。
がちゃ・・・
「片付けをしてなくて恥ずかしいのですが・・・どうぞ」
「なんだこれは・・・」
「すごーい!」
貴族の屋敷の多くは捕まえた賊や罪人を入れておく地下牢が存在する。
我がシェルダン家の王都邸にも地下に広い牢獄や拷問・・・いや、お話を聞く為の部屋があった、だがこの平和なご時世だから先代の頃から使われる事なく放置状態だったのだ。
この地下牢の存在を知ったリゼたんから研究施設として使わせて欲しいと言われ、好きに使っていいと許可したのが2年前・・・それ以来私も存在を忘れていたし立ち入る事も無かったのだが・・・。
一番奥の牢獄を残して鉄格子が取り去られ広大な空間が広がっていた。
入り口近くにはソファやベッドが置かれてここで寝泊まりできるようにしてある、だが魔道具や本が散乱していかにも研究者の部屋といった印象だ。
ベッドの脇にある作業台には何に使うのか全く分からない魔道具が組み立て途中の状態で置いてあるな。
部屋の中央に目を向けると巨大な魔道具と無数の魔法陣が設置されていて、それを囲むように取り付けられた沢山の配管で繋がった魔道具・・・まるで禍々しい何かを呼び出そうとしているようなこれは何だ?。
「リゼたん、これは何かな?」
震える声で私はリゼたんに尋ねた。
「日本に居る家族に私の姿と声を伝える装置だよ、まだ転移で向こうに行けなかった時に使ってたのです・・・ここに座って・・・周りの魔道具で対象物を写すの、日本に設置した魔法陣を起動させると向こうに居る人に見える仕組み、日本の様子はすぐ横にある魔法陣に映し出されるの」
生贄を切り刻んだり、魔界から使徒?を呼び出す装置ではなくて私は心から安堵した。
「まだ試作品だからお部屋の大半を占有するくらい大きくなったけどそのうち小型化するつもり、でも忙しくて全然作業できてないのです」
「リゼちゃん・・・あの奥にあるのはアイヴォウ?、気味の悪い形してるけど」
インフィーが目ざとく部屋の隅に置いてある不気味な馬形歩行魔道具を指差して言った、我々全員が気付いていたが無視していたものを何故指摘するのだ!。
「アイヴォウMarkⅡを改造した多脚型アイヴォウ・・・通称タケミカヅッチィ君だよ、オーニィ商会に技術提供しようと思って作ったけどジェイムス社長って虫が大嫌いみたいで断られちゃった」
「・・・」
ジェイムス社長というのはオーニィ商会の代表で、先代のエース・オーニィから商会を引き継ぎ大陸一の商会に育て上げた大商人・・・ちなみに魔導ラディーオ放送局で若者に人気の「DJゲラッパ」ことゲラッパ・オーニィはジェイムス氏の息子だ。
リゼたんは先代とジェイムス氏にとても気に入られ娘同然に可愛がられているし、研究者同士気が合うのだろう、リゼたんも2人に懐いている。
「でもこれは6本の脚を使って階段を登れるし、崖も登るよ、ただ蜘蛛の脚を参考にして作ってるから動きがちょっと気持ち悪いだけ、遠隔操作できるから見ててね」
ぶぉん・・・
リゼたんが魔力を通すとアイヴォウの目が緑色に光った。
わさっ・・・
わさわさっ・・・
しゃかしゃか!わさわさっ!しゃかしゃか!
「いやぁぁぁ!気持ち悪ぅ!」
まるで虫みたいに動き回るアイヴォウを見たインフィーが叫んだ、そういえばこいつも虫が嫌いだったな。
一通り研究室の説明を聞き終えて私達は会場に戻った、幸い想像していた程やばそうなものは無かったな・・・研究室はここだけではないらしいが・・・。
「なぁ、ノルド、まだアリーも眠っていないだろうから前に頼んでた件、頼めるかな?」
「何か頼まれていたか?」
「ほら・・・この家で療養してるセシル嬢に・・・」
読んでいただきありがとうございます。
初小説です。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
趣味で空いた時間に書いている小説につき不定期投稿です、ストックがあるうちは頻繁に更新しますが、無くなれば週1投稿になる予定です。
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