Side - 16 - 20 - がくさい -
今日投稿を予定していた「スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜」の執筆が少し遅れていますのでこちらの方を先に投稿しました。
Side - 16 - 20 - がくさい -
私の名前は久露鬼猫介39歳、警視庁公安部に勤務する警察官で階級は警部補だ。
だが警視庁には私の席は無いし名簿にも載っていない。
私の仕事はとある人物より任務を命じられ遂行する事、もちろんその中には殺人も含まれる、私は日本国のいかなる法律にも縛られない・・・つまり超法規的な立場を与えられている。
今私は住居兼オフィスのある東京都心を離れ某所に向かっている、今日は仕事ではなく休暇・・・プライベートで用事があるのだ。
移動手段は私の愛車、赤のマツダ6だ、ありふれた4ドアセダンで最上級モデルでもなければ改造もしていないノーマル仕様・・・。
よく映画などで主人公・・・政府のエージェントが高級外国車やスポーツカーを乗り回しているのを見るが、私に言わせれば馬鹿だ。
あんなのに乗っていたら目立って仕方がないだろう、我々の仕事は目立たず任務を遂行する事なのだから。
それにこの車は私の雇用主である薄刃重慶に買い与えられたものだ、前に乗っていた車は崖から転落炎上して廃車になった、次の車は何がいいか聞かれたから適当に目立たない車・・・軽自動車でもいいと言ったのだが結局この車が納車された・・・私は最近の車についてあまり詳しくない。
こいつにはもう3年乗っているが意外と快適だ、アクセルを踏めば気持ちよく加速するしハンドリングも安定している、昔の刑事ドラマのように毎週銃撃されたりカーチェイスをする訳でもないからこれで十分なのだ。
車のスピーカーからは私が厳選して作ったプレイリスト、’80年代のヒット曲が流れている、今日は邦楽だがもちろん洋楽編も作ってある。
私は実体験世代ではなかったが’80年代・・・いわゆるバブル時代の文化や娯楽が好きだ。
オフィスでは補佐官の薄刃沙霧くんが居るので格好を付けて洒落たジャズやフュージョンを流しているが自分の車の中では好きな曲を遠慮なく聞く事ができる。
今流れているのはレベッカで、次はパーソンズだ、思わず一緒に歌ってしまう・・・ちなみに私は歌が下手だから人前では絶対に歌わない。
「・・・おっと・・・もうすぐ目的地だな・・・ふっ・・・調子に乗って13曲も歌ってしまった」
キィッ・・・がちゃ・・・
ざっ・・・ざっ・・・
雑草の茂った舗装されていない駐車場に車を停め、スーツの襟を整えてレイバンのサングラスをかける、昔のドラマで渡哲也や舘ひろしが使っているような通称「タレサン」だ。
ここでタバコを出して吸えば絵になるのだろうが私はタバコが吸えない、吸うと激しくむせるし大嫌いなのだ、それに健康にもよくない。
雨に濡れた小道を通り手入れのされていない山門を潜る・・・。
じゃりっ・・・
「去年より更に荒れているな・・・」
山門に掲げられた名前は風雪にさらされ読めないが、この寺の名は「是津林寺」という・・・。
鬱蒼と茂った木々に覆われた長い石段を登ると立派な本堂が見えて来た、ここは山門に比べたら荒れていないようだな・・・。
私は気配を消し靴を脱ぎ本堂の中に忍び込む、今日ここに来たのはとある人物に用があるからだ。
人の気配がするからここだろう、障子をそろりと開けて中の様子を伺う、正面にはこの寺の本尊である薬師如来、周りを囲むように置かれた十二の像・・・それと対峙するように目的の男が座っていた。
蝋燭の灯りだろうか、薄明かりに照らされた後ろ姿には隙が全く無い、畏怖すら感じるその背中、私は数多くの修羅場を潜り抜けて強くなった筈なのにこの男に全く勝てる気がしない・・・。
「・・・猫介か」
背を向けたまま男が低く威圧的な声で私に話し掛けた、まだ男とは距離が離れているのに・・・何故私が背後に居るのが分かるのだ!、完全に気配を消していた筈なのに!。
30畳の広さがある本堂の入り口から奥に向かって私は答えた。
「・・・はい、ご無沙汰しております」
「・・・」
私はゆっくりと男に近付き言った。
「さすがですね岳斎師匠、気配を消していたのですが」
「・・・最近物騒での・・・通販で監視カメラを買うた、小型で高性能、わいはい?、よんけぇ?と書いておったな、どこにでも付けられるそうでな、本堂の入り口に付けてある筈だが気付かぬとは・・・お前もまだまだじゃのう(ニタァ)」
「・・・」
前言撤回する、私の驚きを返してくれ!、そう・・・私の師である脇岳斎はこんな奴だった!、いつも私をおちょくって楽しんでいる、それに蝋燭の灯りだと思ったのはノートパソコンか!。
「師匠が・・・パソコンですか?」
驚いたな・・・昔、ビデオの予約録画ができないと私に泣きついてきたほどの機械音痴の師匠がパソコンか・・・。
「うむ、孫に教わりながら暇つぶしにやっておる、なかなかに楽しいものだのぅ」
「何をされているのです?」
私は師匠の前にあるパソコンを覗き込んだ。
「み・・・見るでない!」
ぱたん!・・・
師匠が慌ててノートパソコンを閉じた・・・エロ画像でも見ているのかと期待したのだが、閉じる寸前ピンク色の服を着たアニメのキャラクターのような幼女が見えた・・・厳しい鍛錬の結果私の動体視力は人間離れしているのだ。
ふと目を向けると師匠の前に置かれた高価そうな撮影機材・・・。
「師匠・・・わっきぃ・・・とは何なのです?」
「見られてしもうたか・・・あれほど見てはならぬと・・・」
「いえ、見るなとは一言も聞いておりません」
「チッ・・・」
「で、わっきぃとは・・・」
「忘れるのじゃ」
「ですが・・・ピンク色の・・・」
「師の言う事が聞けぬのか!」
「あ、はい・・・」
私は仕方がないのでスマホを取り出し「わっきぃ」を検索した。
「えーと、「わっきぃ」は日本のVチューバー、若者を中心に人気を集め・・・」
しゅっ・・・
「うわ危なっ!、今の手刀、完全に殺しに来てましたよね!、私じゃなきゃ死んでましたよ!」
「検索するでない!」
「師匠・・・まさかいい歳して副業でVチューバー・・・」
「しゃぁぁ!、死ねやぁぁぁ!」
「喰らえ!、是津林寺拳法秘奥義、剛脚翔斬!」
「なんですかその中二病くさい名前の秘奥義?、私はそんな技教わっていません!」
「当然であろう、奥の手まで全て伝授する馬鹿かどこにおる!、弟子であるお前が暗黒面に堕ちた時、師である儂の手で始末せねばならぬからの!」
「映画の見過ぎですよ師匠!、またスターウォーズでも見てたんですか?」
「えぇい黙れ!、確かに昨日見ておった!、きぇぇぇぇ!」
しゅっ・・・
ぶぉん!・・・
「ふははは!、この動きお前に見切れるかの?、儂はダースベイダーより強いのじゃ!」
しゃっ!・・・
「ひいっ・・・拳速っ!、師匠やめてください本気で私を殺す気ですかぁ!」
「止めて欲しければわっきぃの事は忘れるのじゃ!」
「あんな衝撃的な物を見て忘れられる訳ないでしょう!」
「なら死ぬがいい!」
「はぁ・・・はぁ・・・参りました・・・師匠・・・もうやめましょう」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・儂の拳を全て避けるとは・・・」
今私と師匠が使い戦ったのは是津林寺拳法という、中国古武術を祖とし、空手、柔道、躰道、合気道など様々な武術を取り入れ今日まで進化してきた恐るべき暗殺拳だ。
全身に「気」を込める事により肉体を鋼と化し、変幻自在の突きや蹴りで攻撃する、現継承者である師匠の脇岳斎は素手の一撃で瓦30枚を叩き割る・・・神速の突きは人の肉体など簡単に引き裂き、貫通できるのだ。
「はぁ・・・はぁ・・・師匠は全く衰えていませんね・・・」
「・・・流石に今日ほど動けば翌日腰に来るようになったわい、そういうお前は少し鈍ったか・・・」
「あれだけ動いておいて腰だけですか?、化け物ですね師匠」
「人を化け物扱いするでないわ、して・・・今日は何用かの、いや!、待て!、言わずとも分かっておるぞ、薄刃の家・・・重慶の奴から聞いた、お前、先頃アメリア様に会うたそうだの、儂が察するに己との力量差を感じ再び修行をする為に儂の元を訪れた・・・そうじゃろ!」
「・・・」
「違うのか?」
「師匠が年に一度の誕生日には儂に会いに帰って来い、寂しいと泣いて頼むから今日わざわざ東京から車を走らせてやって来たんです、自分の誕生日や言った事も覚えてないなんて、遂にボケたんですか?」
「ぐぬぬ・・・ボケてなどおらぬ」
ささっ・・・
「はい、これあげますから機嫌直してください、誕生日おめでとうございます、ハッピーバースデー師匠!」
「そうか・・・十二天将の一人、天空様が出て来られたか、儂も十二天将の御方は三人しか会うた事が無いのぅ」
「突然影から現れたり、人の背後に転移したり・・・私ではとても敵いません、いくら修行しても無理でしょうね」
「当然よ、あの御方達はアメリア様が使役しておられる式神・・・人ではないからの、儂ら生身の人間が勝てる相手では無い」
「そうなのですか?、実際にお会いした感じだと普通に人間でしたけど・・・昔、師匠は血が出る相手なら殺せるわいと自慢していたではないですか」
「普段は異界に住んでおられるようじゃな、アメリア様の召喚に応じてこの世界に降りて来られると聞いている、時折ここにある十二の像に勝手に降りて来る事もあるぞ、儂が話した事があるのは青龍様、六合様、そして天空様よ」
「・・・」
「今は誰も降りて来られてないようじゃの・・・で、猫介、今日は泊まっていくのか?」
「はい、一晩お世話になろうかと・・・それから夜は街に降りて焼肉でもどうかと思いまして、もちろん師匠の誕生祝いなので私の奢りです」
「おぉ!、そうかそうか、いい弟子を持って儂は幸せだの」
とたとた・・・
ばん!
「おじいちゃん、今週のわっきぃの生配信、時間過ぎてるけどまだ?、お母さんが機材トラブルか、無いとは思うけど倒れてるのかもしれないから様子を見て来いって」
「露里ちゃん、久しぶりだね」
「あ、猫介おじさん、来てたの?」
師匠と話していると障子が開いて女の子が入ってきた、この子は童女露里ちゃん14歳、このお寺の近くに住んでいる師匠のお孫さんだ。
「樹里さんは元気?」
樹里さんというのは師匠の一番下の娘で私の姉弟子だ。
「うん、お母さんは元気過ぎるくらいだよ、あ、そうだ、今夜うちでおじいちゃんの誕生パーティやるんだけどおじさんも来る?」
「ま・・・待つのじゃ露里ちゃん!」
「へー、師匠は樹里さんの所でパーティですか、なら焼肉はまた日を改めて・・・」
「待て猫介!、焼肉はパーティーの後で・・・」
「師匠、そんなに食べて血糖値大丈夫です?、それから血圧も・・・」
「あ・・・明日なら・・・」
「明日は私、昼前には東京へ帰りますけど」
「では朝はどうじゃ!」
「朝から焼肉ですか!」
チュン・・・チュン・・・
「ふぁぁ・・・よく寝た、昨日のパーティ、料理が美味かったから食べ過ぎたな」
昨日の夜、師匠と一緒に樹里さんの家に行ったら天井に張り付いていた彼女が襲い掛かってきた。
久しぶりに私と勝負がしたかったらしいが・・・不意を突かれて危うく頸動脈を引き裂かれそうになった・・・この父娘は何でこんなに血の気が多いのか・・・。
ガタン・・・
昨夜私は寺の客間に泊めてもらった、昔、師匠と修行していた時に私の部屋だった所だ。
「師匠は・・・本堂かな・・・」
顔を洗い本堂に向かう・・・昨日言っていた監視カメラは・・・あそこか、うまく隠してあるじゃないか。
靴を脱ぎ中に入る、今日は気配は消していない・・・そして・・・。
「!」
本堂の障子を開けると師匠が倒れていた。
仰向けになり胸に手を当てて・・・。
「・・・」
「・・・」
「師匠、倒れてるのなら仕方ないですね、焼肉は無理そうだ・・・」
がばっ!
「大丈夫じゃ!、ちょっと脅かしてやろうと・・・いや!、寝転がっていただけだ!」
朝起きるとうちの師匠が死んだふりをしていた・・・。
がちゃ・・・
ばたん・・・
「ふぅ・・・師匠は相変わらずよく食うな・・・5人前・・・」
私達は朝から焼肉を食った後、満足そうな師匠と別れて東京のオフィスに戻って来た、時間は14時を少し過ぎた頃だ・・・今夜は会食を予定している総理の護衛で都内を移動するのだ。
焼肉を食ったから服や髪に匂いが付いた、まだ時間があるからシャワーを浴びて着替えよう、身だしなみは大事だ・・・そう思った私はシャワーを浴びる為バスルームに向かった。
しゃわわわぁ・・・
「くそっ・・・師匠の拳を受けた所が青痣になってる、本当に化け物じみてるな、この調子だと100歳超えても生きてるだろう・・・」
シャワーを浴びてさっぱりした後、髪を乾かし隣にあるオフィスに入ると補佐官の薄刃沙霧くんがソファの横で立ち尽くしている。
肩に少し掛かる長さに切り揃えられたサラサラの黒髪は今日もよく手入れされていて美しい、妖しく濡れた紅い唇は39歳童貞の私には目の毒だ。
だが今日はひどく動揺しているようだ、紅い唇が震えている、いつものような凛とした雰囲気も気だるそうな色気も感じないし顔色も悪い。
何かあったのか・・・そう思って近付くと・・・。
「わぁぁ!、久露鬼警部補ぉ!、お・・・お疲れ様でございましゅ!」
何か挙動不審だな・・・。
ソファのあるテーブルを見ると昨日師匠の所に向かう前に読んでいた文庫本小説が三冊置いてあり、彼女はそれをガン見している。
「ユンボー怒りの工事現場〜親方やめてください!あぁっそこは!〜」
「ちっちゃな悪役令嬢の逆ハーレム〜第三王子と公爵令息に溺愛されて膣内まで熱いの!〜」
「のじゃロリ魔王様の大冒険〜触手に捕まりさぁ大変、嫌じゃ嫌じゃ孕みとぅないっ!〜」
3冊とも成人向けの官能小説で著者は雌垣翔太先生・・・今私の目の前に居る薄刃沙霧くんのペンネームだ。
フルフル・・・
「ひぅ・・・久露鬼警部補・・・こ・・・これ・・・」
「あぁ、ちょうどよかった、一昨日書店で見つけてね、どれを選んでいいか分からなかったから店員さんのお薦めと表紙の絵柄が綺麗なものを選んで買って来たんだ、そのうちの一冊は最近出たやつかな、サイン本だったよ、あ、そうだ、残りの2冊にもサインお願いできるかな?これから全部集めてみようかなと思って・・・」
「こ・・・これっ・・・よ・・・よ・・・」
「よ?」
「よ・・・よままま・・・読まれ・・・ました・・・のでしょうかぁ!」
本当にどうしたのだ?、いつもはアナウンサーのような落ち着いた言葉遣いなのに今日は声が裏返っている・・・。
「2冊読み終わったよ、残りの1冊は今夜にでもゆっくり読もうと思ってる、とても面白かったし興味深かった、世の中にはまだ私の知らない世界があるのだな・・・って感じだね」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!」
謎の絶叫の後、沙霧くんが床に崩れ落ちた、両手で顔を覆ってイヤイヤと頭を振っている・・・。
「ど・・・どうしたんだい沙霧くん?、体調でも悪いの?」
両手の隙間から見える顔は真っ赤だな、耳まで赤いぞ・・・。
「今日これから仕事だけど・・・休む?」
フルフル・・・
沙霧くんは責任感があるから休みたくないのか頭を横に激しく振っているね・・・でも・・・。
「・・・今日は休みなさい」
「ぐすっ・・・ひっく・・・あぅ・・・あぅ・・・」
「ちょっと待ってね」
私は薄刃の家に補佐官の体調不良を報告し交代要員の手配をする為に懐からスマホを取り出した。
がしっ!
スマホを持った私の手をいきなり沙霧くんが掴んだ、息を呑むほどに細くて綺麗な指だ・・・だが何だろう、今日の彼女は少しおかしいな、情緒不安定というか・・・。
「待ってくらしゃい・・・きゅろきけいぶほ・・・ぐすっ・・・お・・・お仕事・・・ちゃんと出来ましゅから・・・ひっく・・・」
上目遣いで私を見る彼女の涙で潤んだ瞳を見て思わず眩暈がした・・・これはやばいな可愛すぎるぞ!、こんな沙霧くんは初めてだ・・・だがダメだ!、私はこれから仕事なのだ!。
「いや・・・その様子じゃ仕事は無理だ、何があったのか知らないけど今日はゆっくり休みなさい、帰るのがきついのなら隣の仮眠室を自由に使っていいから・・・では私は出かけるからね」
「ひゃぅ・・・あの・・・待って・・・」
バタン・・・
冷たいようだが私達の仕事はとても危険なのだ、情緒が不安定な状態で仕事をすると命を失いかねない・・・。
「沙霧くんも色々と悩みがあるのだろう、早く良くなるといいのだが」
私はスマホを取り出し、薄刃家に電話を掛けた。
読んでいただきありがとうございます。
初小説です。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
趣味で空いた時間に書いている小説につき不定期投稿です、ストックがあるうちは頻繁に更新しますが、無くなれば週1投稿になる予定です。
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