Side - 16 - 16 - せいじょさま? -
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「今日の配給始めまーす!、聖女様の配給でーす、中央広場にお集まりくださーい」
俺の名前はマーチン・コアラーノ、この帝都で祖父の代からレストランをやっている。
遠くで騎士の声が聞こえる朝、俺は仕込みの手を止めた。
仕込みといっても帝国は長く食糧不足が続いていて碌な食い物が無い、俺の店もほとんど開店休業状態だった。
だが最近は他国・・・ローゼリア王国の騎士達がやって来て街の住民に食料や薬を配っている、俺にしてみれば営業妨害もいいところだ。
そこで俺は普段から良いものを食っているであろうローゼリアの騎士達相手に一儲けしてやろうと思い、食糧難のこのご時世でも可能な限り店を開ける努力をしている、高い金を出して猟師から魔物の肉を買い、裏稼業をやってる連中からも香辛料や食材を手に入れた。
「・・・おじさん、私、配給貰ってくる」
「あぁ、気をつけてな」
俺に声をかけて店から出て行った少女はロッテ・ヴァニラバァ、彼女がうちに転がり込んで来てから結構経つが相変わらず愛想が無いし覇気も無い、彼女はある日路地裏で男達に弄ばれていたところを俺が助けた。
泣いている彼女を抱え、野郎どもに汚された身体を綺麗に洗って飯を食わせたら俺に懐きやがった・・・幸いと言っていいのか・・・妊娠はしてなかったが心に傷は残っただろう。
この物騒な世の中だ、街に放り出しても小さな女の子が一人で無事に生きていける訳が無い、仕方ないからうちに住まわせている・・・べ・・・別に変な事はしてないからな!。
「さて、終わったぞ」
俺は今日の分の仕込みを終えた、昨日も一昨日も客は10人来るかどうかといったところだ、だが去年は客なんて一人も来なかった、偶然この店を見つけたローゼリアの騎士達が街の見回りのついでに食事をして行くようになったから・・・、俺の計画通りだ。
おかげで帝国がこんな状態になってから長く開店休業状態だった俺の店は辛うじて営業を続けられている。
支払いはローゼリアの貨幣だ、味には自信があるし帝都の一等地に長年店を構えているというプライドもあるから強気の価格設定をしている、この辺の住民が気軽に払えるようなものじゃなくなってしまったが・・・食材の仕入れ価格が高騰しているから仕方がない。
聞いたところによると皇帝一族と上級貴族どもが全員死んでデボネア帝国はすでに国の体裁を成していない、今後はローゼリア王国の手で復興してここは王国の一部になるそうだ、ローゼリアの金を持っていて損は無いだろう。
どうやら店に来てくれるローゼリアの騎士達は俺の知る騎士とは違うようだ、礼儀正しいし支払いもきちんとしてくれる。
俺は正直貴族や騎士が嫌いだった、これまで散々税金を搾り取られたし、あいつらのせいで帝都の大通りでまともに営業を続けられている店はうちを含めて5軒ほどしか残っていない。
他の店は客が来なくて潰れたか野盗に襲われて店員が殺されたか、或いは食う物がなくて餓死した。
俺だって貯えていた金をほとんど使って裏組織から食材を買ってなければ飢えて死んでいたかもしれない、こんな事もあろうかと親父の代から金は床下に貯めていた。
ガチャ・・・
「おう、戻ったか、今日は何だ?・・・パンに干し肉を挟んだやつと野菜のスープか」
「うん・・・これ、おじさんの分」
「ありがとよ」
この店のすぐ近くにある中央広場では毎日ローゼリアの騎士達が食糧の配給をしている、それぞれの家に人数分の配給券が配られ、それを持って行けば貰えるようになってる。
何でもローゼリアに住む貴族令嬢が金を出して飢えや病気に苦しむ俺達に薬や食料を配っているんだと・・・。
しかも家の金じゃなくて自分が働いて得た金・・・騎士達を魔法でここまで転移させている報酬を使っているらしい、よく出来た令嬢だな。
すでに帝都の住民からは「聖女様」なんて呼ばれている、俺はローゼリアが勝手に作り上げた噂話に過ぎないと最初は思っていた、だがここから2つほど離れた街が野盗に襲われた時、初老の護衛を連れた聖女様が現れて野盗どもを皆殺しにしたらしい。
街に住めなくなったからと帝都に移住して来た連中が口々に言う、野盗から我々を救ってくれた聖女様、帝都では困っている住民の為に食料を分けて下さる・・・まるで女神様だ・・・と。
帝都に長く住んでる奴からも聞いた、子供達が攫われようとしていた時、どこからか現れた聖女様と護衛の男が助けてくれた・・・と、もちろん誘拐しようとした男達は全員死んだ。
その令嬢・・・聖女様とやらはまだ13歳ほどの少女らしい、左目に眼帯をして足が不自由なのか杖を使って歩いているそうだ、名前はリーゼロッテ・シェルダン、目撃した連中によって似顔絵まで作られた。
最近では略奪に遭い廃墟になっている教会を使って彼女の功績を称える為、街の住民が協力して整備を進めているようだ、まるで神でも祀るように・・・石像まで作ろうとしているようだが流石にやりすぎだろ!。
余談だがこの国の人間は教会も嫌っている、皇帝と共に我々平民から金を搾り取り、悪事の限りを尽くしたからだ。
だがこの国の人間には救いを求める為の偶像が必要だ、俺の予想では彼女が神の代わりに崇拝されるかもしれない、俺達は新しい宗教の誕生を目にする事になるだろう、神扱いされて聖女様は迷惑だろうがな。
「あむあむ・・・美味しい」
ロッテの奴が配給されたものを食い始めた。
食い方は綺麗だし彼女の所作は洗練されている、最初は貴族令嬢かと思ったが・・・顔や身体に刻印が無いし首輪も付けられていない、貴族ではないのならどこかいいところのお嬢さんか・・・気になるが聞いてしまえば面倒ごとに巻き込まれそうだからあえて聞いていない。
「確かに美味いな、調味料はローゼリア・・・エテルナ大陸のものか・・・興味深い」
「そういえば騎士様がね、明日からお薬の中毒で苦しんでる人に効果のある食べ物を配るって言ってたよ」
「何・・・そんな食い物があるのか?」
「うん、配給のところで申し出たら貰えるみたい、この国の人達の為に聖女様が作ってくれたんだって」
バン!
「ヒャッハァ!、金と食い物よこせぇ・・・」
ザシュッ・・・
どさっ
また野盗か、最近は数日おきに来やがる、何故なら俺の店はレストランだ、営業もしている、なら当然食い物があるだろう・・・そう考える馬鹿どもが店を襲うのだ。
こいつはいきなり扉を蹴破って入って来た、客かどうかを一瞬で判断した俺が手元に置いてあった弓を放つと綺麗に眉間に命中して倒れた。
「ロッテ・・・悪いが騎士を呼んで来てくれ、危ないから大通り以外は歩くなよ」
「うん・・・」
ごそごそ・・・
「お、こいつ結構持ってやがるな、さては誰かを襲った帰りか、迷惑料として貰ってもいいが被害者が生きてるなら返さないとな」
俺は野盗のポケットを漁り中身を床に並べた。
「わぁ・・・また派手にやられましたねマーチンさん」
蹴破られた扉を見ながら騎士が2人、ロッテに連れられて店に入って来た、カタコトで訛りが強いが俺との会話は帝国語を使ってくれる、この店は頻繁に襲われるから騎士達とも顔見知りだ。
「あぁ、すまないが死体の処理を頼む」
「はいはい、帝都治安維持のご協力感謝します、・・・あれ、いい匂いだ、もしかして今日のランチはチキンのスパイス煮込みです?」
「あぁ、そうだよ、いい肉が入ったからね」
「やった、おいエルボー、今日の昼はこの店で食おうぜ!」
「そうだなドリュー、ここの料理は美味い、デボネア帝国でまともな飯が食えるのここだけだもんな、マーチンさん、昼飯2人分予約頼めるかな?」
「分かったから早く死体を引き取ってくれ、2人には肉を多めにしておいてやるからよ」
俺は帝都に店を構える一流レストランの店主だが言葉遣いが悪い、接客係として雇っていた奴はみんな辞めたか死んじまった・・・。
ありがたい事に騎士達はそんな俺の粗暴な態度に怒る事もなく普通に会話してくれている。
「死体と所持品、確かに受け取りました、これが預かり証です、所持品の持ち主が見つかれば金額の3割、居ない場合は全てがマーチンさんのものとなります、20日後に騎士団仮本部・・・ユーキ邸まで取りに来て下さい」
「分かった」
俺は死体を袋に詰めて持ち帰る騎士達を見送り、呟いた。
「さてと・・・デボネア帝国7つ星レストラン「コアラーノ」、今日も開店だ」
カラカラ・・・ひゅぃーん・・・ひゅぃーん
こんにちは、リーゼロッテ・シェルダン16歳です。
今私は近衛騎士団長さんに連れられてデボネア帝国のユーキ邸からお城に馬車で移動しています、陛下からデボネア帝国にあるお城の掌握が完了したので転移魔法陣を設置して欲しいと依頼があったのです。
予定よりかなり遅れたのは私がこの前倒れたのと、お城の中に隠し部屋や隠し通路が沢山あって安全確保に時間がかかったからなのだとか。
2台の馬形四足歩行魔道具が引く馬車に乗っている私の隣には近衛騎士団長のアルフレッド・ホークト様、相変わらずラオウに似ています。
それから護衛のために馬車の前後にもアイヴォウに乗った騎士様が居ます。
「あの・・・何故この馬車は屋根が無いのです?」
「・・・特に意味はありませんよ」
「あれ?・・・あの教会みたいな建物の前に人が集まって石像が・・・」
「見てはいけません!」
「ひぃぃっ!」
大きな手で目を覆われてしまいましたぁ!、近衛騎士団長さんとは普通にお話しが出来るくらいに慣れたけどまだ男の人に触れられるのは怖いのです!。
「失礼しました!・・・男性が苦手でしたよね、咄嗟に手が出てしまい申し訳ありません!」
「いえ、・・・突然でびっくりしただけなのです」
近衛騎士団長さんに謝られてしまいました・・・怖くてちょっとだけ漏れちゃったけど黙っているのです。
「あの・・・何故住民の人達がこんなに集まっているのです?」
「ははは・・・気のせいでしょう」
「・・・」
そうなのです!、馬車の周りには帝都に住む人達が沢山集まって私達に手を振っているのです、まるでこの前ラングレー王国で見せ物になっていたリィンちゃんみたいに・・・。
「・・・リーゼロッテ嬢、一つお願いがあるのですが」
近衛騎士団長さんが遠慮気味に私に話しかけます。
「なんでしょう・・・」
「皆に手を振ってもらえないでしょうか・・・」
「え・・・何故なのです?」
「・・・陛下からリーゼロッテ嬢にそうお願いせよと命じられております」
まぁ・・・手を振るくらいなら別にいいけど・・・私は不思議に思いつつも集まった皆さんに向けて手を振りました。
ひらひら・・・
「うぉぉぉぉ!」
「手を振ってくださったぞぉ!」
「こっち見たぞ!」
「聖女様だぁ!」
「きゃぁぁぁ!」
「お薬と食べ物ありがとうございまぁぁす!」
「ありがとぉぉぉ!」
「エテルナ大陸共通語で聖女様ってどう言えばいいんだっけ?」
「「セイジョサマ」っていうらしいぞ」
「セイジョサマ!」
「セイジョサマ!」
「セイジョサマ!、セイジョサマ!」
「うぉぉぉ!セイジョサマァァァァ!」
皆嬉しそうに歓声を上げています、それにデボネア帝国語に混ざって「聖女様」という言葉も・・・。
「あの・・・これはどういう・・・それに聖女様って・・・」
「・・・気のせいです」
「あ・・・はい・・・でも聖女様って・・・」
「ぬぅっ・・・こ・・・この街では「こんにちは」という意味の「セイジョ・サマァ」という言葉がありまして・・・」
「・・・でも・・・何でみんな私達に挨拶をするのです?」
「さて、リーゼロッテ嬢、お城に着きましたよ!」
話を誤魔化された気がするのですが無事に・・・いえ、住民の大歓声を浴びながら私と近衛騎士団長さんはお城の門を潜りました。
・・・きっと近衛騎士団長さんは悪の魔の手から街の人達を救って、皆に感謝されてるのでしょう、先ほどからのおかしな態度は照れているのかも?。
「・・・近衛騎士団長さんって・・・凄い人気なのです」
私がそう言うと何故かとても気まずそうな顔で近衛騎士団長さんが私に言いました。
「ははは・・・お恥ずかしい・・・」
門を入ってかなりの距離を進むと木々の隙間から荘厳な姿のお城が視界に入りました、デボネア帝国のお城だから魔王城みたいなのを想像していたのですが、実物はとても綺麗な・・・フランスのシャンボール城っぽい感じがします。
お城の前には数十名の騎士様が整列しています・・・ローゼリアの騎士服とは違う?・・・全員首輪を付けて頬に刻印が・・・。
「紹介します、彼らは元デボネア帝国騎士です、皇帝一族が皆死亡した後も野盗や民衆の暴動からこの城を守っていました、ローゼリア王国の傘下に入る事を条件にこの城を守る騎士として再雇用されました、なので今はローゼリア騎士団所属になります」
「デボネア帝国の?」
「上級貴族はほとんど皇帝と共に死亡しました、今ここに居るのは皇帝とは関係の無い下級貴族です、新しい「主人」が来るまで歴史あるこの城を守っていたそうです・・・では中に入りましょう」
私は近衛騎士団長さんに連れられてお城の中に入りました。
読んでいただきありがとうございます。
初小説です。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
趣味で空いた時間に書いている小説につき不定期投稿です、ストックがあるうちは頻繁に更新しますが、無くなれば週1投稿になる予定です。
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