燕尾ゾンビと赤髪幼女
洒落にならんほど怖い話集めてみない? その21
19:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:25:49 ID:KbyCCIXymh
お前ら燕尾ゾンビと赤髪幼女って知ってるか?
20:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:29:22 ID:BuwrEs9j30
あーなんか子供たちの間で流行ってる都市伝説だろ
21:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:35:18 ID:rsA9c4uhym
赤い髪をツインテールにした黒いマスクの幼女を連れた燕尾服着たつぎはぎだらけの男だっけか
22:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:39:31 ID:HF32FkNzfI
子供の前に現れて気に入った子は連れて行って
気に入らない子は食べてしまうんだっけ?
23:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:42:46 ID:8NymjvIkZT
大人は問答無用で食われるらしい
24:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:48:03 ID:h3kC8YaoFV
ゾンビってそんな知性あるか?
25:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:51:29 ID:CibRMnTiFB
ないな
26:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 13:56:56 ID:IBuhGjEzhC
まあ子供が考えた都市伝説で可愛いじゃねぇか
27:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 14:02:52 ID:kL2697biGu
都市伝説っていうか、どっちかてとクリーピーパスタっぽいよな
28:ほんまにあった怖い名無し 2019/11/2 14:08:09 ID:FzdvrA4JDB
そんなところもガキが好きそうだよなー
「なぁなぁ、燕尾ゾンビって知ってるか?」
「あれってただの都市伝説だろ?お前信じてんの?だっせー」
「え、お前知らないの。隣のクラスの岬が見たって言ってたって」
「岬って美術部の?あいついつも視えただのなんだの言ってんじゃん。こないだもこっくりさんやって騒ぎ起こしてたし」
大きな児童公園を二人の男子中学生が通り抜けている。時刻は夜の21時。少年たちは塾帰りは近道になるからと毎回、この公園を通り抜けていた。人気があまりない公園は危ないから入るなと親や塾講師に言われているが、バレなければ大丈夫の精神で少年たちは今日も言いつけを破っている。
二人が話題にしているのは、子供たちの間でまことしやかに語られている都市伝説だ。けらけらと笑いながら歩く少年たちの視界に、ナニカが映る。
それは街灯の下に立つ、長身痩躯の男性と彼に抱き上げられた少女だった。こんな時間に子供連れの男がいるだけでも異常なのに、青年の肌は青白くつぎはぎだらけで、まるでハロウィンのゾンビの仮装の様。ちなみにハロウィンは先日終わったばかりだから、浮かれた若者でしたというオチはない。
「……なぁその燕尾ゾンビって……」
「緑の髪につぎはぎだらけの青白い肌に、燕尾服……」
「赤い髪の幼女を連れてるんだよな……?」
「うん……幼女の服装はまちまちだけど……黒いマスク着けてるって……」
「おや、こんばんは少年たち、いい夜ですネ。デモ、こんな時間に出歩くのは感心しませんヨ」
少年たちに気付いた燕尾服の男はにこやかに笑う。その口からは肉食動物のように鋭利な歯が覗いていた。
「ぎゃー!!出たー―――!!!!!」
「置いてくなって、おい!!!!」
明らかに人間とは違う姿に少年たちは悲鳴を上げて、一目散に公園から駆け出す。
少年たちが帰宅後に自分たちが見たものを親に訴えても、言いつけを守らなかったことを叱られたのは言うまでもないだろう。
「……ヒトの姿を見て逃げるなんて失礼なお子様たちですねェ」
燕尾ゾンビと呼ばれた青年の名はアルジャーノン。本人曰く決してゾンビではないらしい。彼が抱えている赤髪の幼女はイサドラといい、アルジャーノンと共に暮らしている。
アルジャーノン本人からしたら、意思なくただ徘徊する死体であるゾンビと同じにされるのは大変不名誉なことらしい。だが、彼が訂正する間もなく、『燕尾ゾンビ』の通り名が浸透してしまった。そもそも、訂正しようとしても、大体は今のように逃げられるか、もしくはアルジャーノンの逆鱗に触れ殺してしまうため、今のところ成功はしていない。
「全く嫌になってしまいますネ……。動く死体呼ばわりされるわ、食料が中々手に入らないわデ……」
ブツブツと一人で文句を言うアルジャーノンの長い髪をイサドラが引っ張った。遠慮なく中々の力で髪を引っ張られたアルジャーノンは、小さく悲鳴を上げる。ぐいぐいと引かれる髪に首がほぼ直角になりつつもイサドラを落とさないアルジャーノンは保護者の鑑なのかもしれない。
「チョットチョット……なに?なんですカ、イサドラ……ちょ……手を離してもらって……ああもう、禿げる禿げる!!」
ギャーギャーと一人で騒ぐアルジャーノンの耳に、ぐううという盛大な音が聞こえた。その音はイサドラの腹から聞こえているようで、顔を隠す重たい前髪越しでも彼女が空腹を訴えているのがわかる。
「ふむぅ……仕方ないですネ。司さんのところにご飯をタカり……こほん、ご飯を分けていただきましょうカ」
髪の毛数本を犠牲にしながら、アルジャーノンはその場を立ち去った。
ひどく廃れた黄昏時の公園にアルジャーノンはやってきた。いいエモノはいないかとあたりを巡らす彼の目に、ブランコに座る少女の姿が映る。伸びっぱなしの髪に、もう冬に大分近づいたというのにボロボロのTシャツ姿の少女は明らかに異質だった。俯いて力なくブランコを揺らす彼女を見て、骨と皮で可食部が少なそうだなぁと中々に失礼なことを考えているアルジャーノンの腕からイサドラがぴょんと飛び降りる。そして、少女の元に小走りに近寄って行った。
滅多に自分から人間に接触しないイサドラが少女に興味を持ったことにアルジャーノンは面食らう。ぽかんとするアルジャーノンに構わず、イサドラは座る少女の膝に手をかけてじっと彼女を見上げる。
「え……だ、だれ……」
「ああ、すみません。イサドラ、ちょっと離れなさいナ。驚いてますでしょウ」
呆けていたアルジャーノンだったが、少女の声に我に返り慌てて駆け寄りイサドラを抱き上げた。当のイサドラは何か言いたげにアルジャーノンの腕をバシバシと容赦なく叩いている。
「やめなさいってバ」
「……」
「降ろしたらアナタまた彼女に突撃するでしょウ?」
いさめられたイサドラは心底不服だとばかりに、ぷいとそっぽを向いた。異様な見た目なのに、あまりにも普通過ぎるやりとりをする二人に少女の警戒心はどこかに行ったらしい。
おずおずと少女はアルジャーノンに声をかける。
「お兄さん……もしかして燕尾ゾンビ……?」
「アナタが仰っているのが都市伝説の『燕尾ゾンビ』なら小生のコトで間違いないですヨ。心底不服でなりませんガ」
「不服?」
「ええ、小生はゾンビではないのですヨ。あんな物理的に脳みそ腐っている者たちと同じにしないでイタダキタイ」
「ゾンビって脳みそ腐ってるんだ……」
「そうですヨ。まあ、お世辞にも鮮度はよろしくないカト」
あいつらの肉くっさいんですよネとアルジャーノンはブツブツ言う。まるで食べたことがあるかのような口ぶりだが……。ナニカを思い出して苦虫を嚙み潰したような顔をしていたアルジャーノンだったが、我に返りいつもの優し気な笑みを浮かべる。そして片手でイサドラを抱えなおし、少女の隣のブランコを指差した。
「隣に座ってモ?」
「あ、どうぞ」
「どうも。ああ、申し遅れましタ。小生、『燕尾ゾンビ』コト、アルジャーノンと言いマス。この子はイサドラ……都市伝説で言うところの『赤髪幼女』ですネ」
ブランコに座りながら、胸に手を当て優雅に一礼するアルジャーノンはまるで貴族のような風格がある。見た目はどう見てもゾンビだが……。イサドラもアルジャーノンの言葉を理解しているようにペコリと頭を下げた。
まさか名乗られるとは思っていなかったらしい少女は、目をぱちくりと瞬かせる。
「わたしはヒカル……えっと、小五です」
「ヒカルちゃんは家に帰らなくていいんですカ?もう、夜になりますヨ?」
「……家に帰っても誰もいないから」
そういったヒカルの横顔は全てをあきらめたような笑顔が張り付いていた。年齢のわりに発育が遅い身体やボロボロの服からヒカルの事情をアルジャーノンは察する。察したからと言って、踏み込むつもりは毛頭ないが……。
「それは大変ですネェ。ああ、すみませんどうしても気になってしまっテ」
自分の言葉にびくりと肩を跳ねさせるヒカルにアルジャーノンは一瞬動きを止めた。家の事情を踏み込んで聞かれるのではないかと警戒する彼女にアルジャーノンは、Tシャツの破れた部分を指差す。
「職業柄、どうしても洋服の状態が気になってしまうんですヨ」
小生に直させていただけませんか?とアルジャーノンは柔らかく笑った。
学校指定のジャージに着替えたヒカルの隣で、アルジャーノンは凄まじいスピードでTシャツに針を通す。裏地を当て、縫って、小さな穴を塞ぎ……みるみるうちに、ボロボロだったTシャツは補強されていく。
アルジャーノンは手元を動かしながら、時折遊具で遊ぶイサドラにも気を使い、危ないですヨーと声もかけている。
「ヨシ、できましタ」
じゃんと見せられたTシャツは新品とまではいかないが、着ていても恥ずかしくない状態になっていた。
「あまりにも大きい穴は、アップリケで隠していまス」
「アルさん、すごい!魔法みたい!」
「魔法じゃないですヨ。小生、これでも仕立て屋なのでこれくらいお茶の子さいさいデス」
タイミングを見ていたらしいイサドラが小走りで駆け寄ってきて、自分が着ているグリーンの中華風ワンピースをヒカルに自慢げに見せた。表情はマスクと前髪で隠されているのに、誇らしげにしているのが手に取る様にわかる。
「そのお洋服もアルさんが作ったの?」
「そうですトモ!イサドラの服は全て小生の作品なのですヨ。いやぁ、イサドラは何着ても可愛らしいから腕がなるのデス」
イサドラのワンピースに施された刺繍はとても細かくて、アルジャーノンの技術の高さが伺える。人間ではないかもしれないが、ヒカルにとってアルジャーノンからの愛情を一身に受けているイサドラがとても羨ましく、同じくらい眩しかった。
「いいなぁ……」
「なにか仰いましタ?」
「え、ううん……なんでもないよ!」
思わず漏れたヒカルの本音はアルジャーノンの耳には入らなかったらしく、不思議そうに首を傾げている。ヒカルは咄嗟に誤魔化すも、アルジャーノンはいまいち納得できないらしく、じっと彼女を見つめた。本当になんでもないと言葉を重ねようとしたヒカルの腹から大きな音が鳴る。そして、そのすぐ後にイサドラの腹からも同じ音が聞こえ、アルジャーノンの意識はそちらに向いた。
「ああ、もうこんな時間ですカ……。小生たちは行くとしまス。ヒカルちゃんも気を付けて帰るのですヨ?」
「アルさん、わたし毎日ここにいるから……また会いたい!洋服もありがとう!」
ヒカルの言葉にアルジャーノンは軽く手を振り闇に消えていった。
ヒカルと出会った翌日、アルジャーノンは律儀に公園に来ていた。ベンチに座り、ヒカルを待つアルジャーノンは大きなあくびを漏らす。それだけ見ると暇を持て余しているように見えるが……。黒いマスクを外したイサドラにアルジャーノンの腕は思い切り齧られている。ジャケット越しとはいえ、鋭い牙に噛まれ続けているというのにアルジャーノンは顔色一つ変えない。イサドラが可愛らしいゴスロリ系のワンピースを着ているのが異様さを引き立てている。
「よかったアルさんたちいた……って、どういう状況なの……?」
「おや、ヒカルちゃんこんにちハ」
腕をかじられたままアルジャーノンはにこやかに挨拶を返す。その瞬間、ごとりと音を立ててイサドラが齧っていたアルジャーノンの腕がベンチに落ちた。つぎはぎだらけであまりにも生気のない青白い腕に、一瞬それは作り物のように見えてしまう。しかし、手にはアルジャーノンが着けているのと同じ黒手袋が見えるので否が応でも本物の腕だと理解させれらる。
「アルさん、腕が……!」
「ああ、またこの子ハ。小生の腕を食べても美味しくないし、お腹は膨れないんですってバ」
中々ショッキングな光景を作り出している本人たちはのほほんとしてるせいで、ヒカルは騒いでいる自分がおかしいのか、と錯覚してしまいそうになる。
ため息を付きながらアルジャーノンは自分の腕を手に取った。そして、ヒカルに座るように示す。ヒカルはおずおずとアルジャーノンの隣に座った。
「驚かせてすみませんネ。良くあることなのでお気になさらズ」
「えぇ……」
やれやれとため息を付きながら、一言断りを入れたアルジャーノンはジャケットを脱ぎ、シャツも左側だけ脱ぐ。顔や腕の例に漏れず、その体もいろんな皮膚を寄せ集めたようになっていた。取れた方の腕からも身体の方からも、血の一滴も流れていないからヒカルはまじまじと見てしまう。そんな彼女の目の前でアルジャーノンは昨日使った裁縫セットを取り出す。左腕を持ったアルジャーノンは困ったように笑いヒカルを見下ろした。
「申し訳ないですが、ちょっとコレをこう持ってもらっていいデス?」
「あ、うん……」
当たり前のようにアルジャーノンが取れた腕を差し出したので、ヒカルは思わずソレを受け取ってしまう。受け取った腕は半袖を着てるヒカルの手よりも温かい。というか、こんな状態でもこの腕が生きているという事態にヒカルは混乱しそうになるが、都市伝説になるような存在だからと自分を納得させた。ちなみに腕を取り上げられたイサドラは不服そうにアルジャーノンの膝に顎を乗せて、彼の腹をぺちぺちと叩いている。
「こっちの傷口……?にくっつけて持てばいいの?」
「はい、まさニ。イサドラに任せると高確率で齧られるんですよネェ」
ブツブツと文句を言いながらも、アルジャーノンは慣れた手つきで自分で腕を縫合する。その手際は昨日ヒカルの服を繕った時と同じで、体中のつぎはぎは彼自身の手によるものだと察することが出来た。身体を縫うという、普通の人間なら痛みが伴う行為なのにアルジャーノンは鼻歌交じりに手を動かしている。痛みなんてもの感じていないようなアルジャーノンにヒカルは疑問を投げかけた。
「アルさん腕噛まれてた時から思ったんだけど、痛くないの?」
「ええ、小生痛みを感じないのですヨ。まあ、痛くはなくてもあまり気持ちがいいモノでもないですガ」
「そうなんだ……痛くないのってなんだか羨ましいな」
「そうでもないですヨ?痛みは生存には不可欠なものですかラ。例えば小生は足を骨折しても痛みを感じませんカラ、歩き続けてエライことになるんですヨ」
「……あんまり想像しないことにするよ」
「懸命ですネ」
喋りながらもアルジャーノンは丁寧に腕を縫い合わせる。ただ、丁寧過ぎて、ヒカルは少々退屈そうにしているし、沈黙が耐えられないらしい。
「ねえ、アルさん。都市伝説はどこまで本当なの?」
「ン~……ヒカルちゃんの知ってる都市伝説ってどんな感じデス?」
「んと……子供の前に現れて、気に入った子供は連れて行っちゃうけど、気に入らない子は食べちゃうとか……」
「ア~……それならほとんど嘘ですネ。小生たちは子供は食べませんし、自分から人を殺したりはしませんヨ。まぁ、殺すだけの理由があれば別ですガ」
「そうなんだ……」
「ヒカルちゃん、もしかして小生たちと仲良くなって連れていかれたいと思ってましタ?」
「え!?あ……それは何も考えてなかったや。本物だーって思ったけど……」
「ふ……ははハ。そうですかそうですカ……と、できましタ。お手伝いありがとうございまス」
その言葉と共に、アルジャーノンは糸切狭で腕から伸びた糸を切った。数度手を閉じたり開いたりを繰り返し、特に異常がないことを確認したアルジャーノンはニコリと笑う。
「どういたしまして」
「ああ、そうソウ。さっきの小生の言葉でわかったと思うのですが、噂なんてあてにならないんですヨ」
「そうだね。アルさんはこんなに優しいのに……なんであんな都市伝説が生まれたんだろう」
「……ヒカルちゃん、小生たちは人ならざるモノなのは事実デス。だから、あまり小生たちのコトは信用しすぎちゃダメですヨ?」
ネ?と小首を傾げるアルジャーノンは何かしら含ませた笑みを浮かべた。だが、ヒカルにはただの優しそうな笑みにしか見えていない様子。アルジャーノンの言葉に不思議そうにするヒカルだったが、木枯らしが吹いて小さく震えTシャツから露出した腕を擦る。
そんなヒカルにアルジャーノンは脱いだままだったジャケットを彼女の肩に掛けた。アルジャーノンの膝で暇そうにごろごろしていたイサドラが起き上がり、ヒカルのところに移動する。そして、イサドラはヒカルの膝によじ登りそのまま座った。
「やはりアナタのコト気に入っているみたいですネ」
そういうアルジャーノンは微笑まし気に少女二人を見下ろしている。イサドラは甘えるようにヒカルの肩に頭を擦り付けた。どうすればいいのかと困惑するヒカルがアルジャーノンを見ると、頭を撫でてあげてと言われる。その通りにしたら、イサドラは機嫌よさそうに足をパタパタさせた。
「イサドラが誰かに懐くなんて珍しいこともあるものデス」
眦を下げたままアルジャーノンがイサドラの頭を撫でようと手を伸ばす。だが、イサドラは情け容赦なく手袋越しにアルジャーノンの指に噛みついた。
「チョット!?」
あまりにもギャグのようなやり取りに我慢できず噴出したヒカルに、アルジャーノンは何か言いたげにするがイサドラの口から指を引き抜くことを優先させる。力尽くでイサドラの口をこじ開けたアルジャーノンは指を引き抜いて、すぐさまいつもの黒いマスクをつけさせた。
「本当に油断も隙もあったものじゃありまセン……」
「そのマスクって噛みつき防止なんだね」
「ええ、歯が痒いのか、口寂しいのか、この子隙あらば小生に噛みついてくるんですヨ」
「さっき外してたのはなんで?」
「自分から取ったんデス。いつもは大丈夫なんですけどネ」
はぁ、とため息を付いたアルジャーノンにヒカルは大変だねと声をかけた。その直後、ヒカルの腹から大きな音が聞こえる。
「元気なお腹の虫ですねぇ」
「……給食から何も食べてないから……」
「おやまァ……じゃあさっきお手伝いしてくれたお駄賃あげましょうカネ」
そう言ってアルジャーノンはどこからか白い箱を取り出した。でかでかとカタカナで店名が書かれた箱を空けるとマドレーヌやフィナンシェなどの焼き菓子が詰まっている。バターと砂糖の匂いに、ヒカルとイサドラの腹の虫が大合唱を始めた。
「知り合いが『食べられないから』と押し付けてきたんですが、小生もあまり甘いものは食べないので……お好きなだけどうぞ?」
ヒカルが遠慮しないように、アルジャーノンはフィナンシェをひとつ摘まんだ。フィナンシェを口に放り込んだアルジャーノンは甘いですネェ……と呟く。ヒカルはおずおずとマドレーヌを口にした。あまりのおいしさに目をキラキラ輝かせて、ヒカルは次の焼き菓子に手を伸ばす。それに負けじとイサドラも焼き菓子を口に運んだ。
「一般的な食材は小生たちにとってあまり燃費はよくないのですガ……だからってイサドラは食べすぎデハ?」
「二人ともお腹空いてるの?」
「ええ、まア……いつもお腹空いてますけどモ」
アルジャーノンの言葉にヒカルは何かを悩むような仕草を見せる。そして、おずおずとアルジャーノンを伺う。
「家に食材がたくさんあるはずだから、良かったらうちに来る?ママもまだ帰ってこないし」
予想外すぎる提案に、アルジャーノンは黄とピンク色のオッドアイを丸くした。この少女は自分が何を言っているのか理解しているのだろうか?
真っ直ぐな瞳で自分を見上げてくるヒカルにアルジャーノンはため息を吐いた。そして、ヒカルの頭を撫でる。
「いいんですカ?」
「……一人で家にいても寂しいし……二人が来てくれたら楽しいかなって」
「では、お言葉に甘えテ……」
どうやらヒカルの決意は固いらしく、引いてはくれないようだと察したアルジャーノンは了承した。その途端、ヒカルの顔はぱあっと明るくなった。
「どうぞ」
「お邪魔しまス」
ヒカルに連れられてやってきたのは、公園からほど近い一軒家だった。家の中はあまり生活感を感じられないが、ヒカルの話では家には基本的に誰もいないということだから仕方ないのだろう。アルジャーノンは物珍しそうにあたりをきょろきょろ見回すイサドラの頭を軽く撫でて諫めた。
廊下の中ほどにある二階に続く階段やいくつかの扉を通り過ぎ、一番奥の扉をヒカルは開ける。そこは対面型キッチンがあるリビングで、ヒカルが冷蔵庫の中身を確認していた。軽くリビングを見回してみるも、相変わらず生活感が無い。
「綺麗に片付いていますネ」
「散らかすとママが怒るから」
「そうですカ」
さらりと返したヒカルだが、アルジャーノンは眉を寄せ何とも言えない表情を浮かべた。
そんなアルジャーノンに気付かず、ヒカルは食材が無いかの確認を続けている。そんな彼女に、抱いていたイサドラをダイニングテーブルに座らせたアルジャーノンが近づく。
「チョット失礼しますヨ」
ヒカルの頭上から冷蔵庫を覗いたアルジャーノンは、思いのほか食材がパンパンに詰まっていることに面食らう。
「ママね、わたしが料理できると思って自分でどうにかしなさいって、お肉とか買ってきてくれるんだ。残ってると怒られちゃうの」
「ヒカルちゃんって料理ハ……」
「まだ家庭科でもそんなに習ってないんだ。だからいつもレンジでチンして食べたりしてるの。あ、お米は無洗米だから自分で炊けるよ」
「……仕方ない、小生が作って上げまス。イサドラと待っていてくださイ」
時間もないから簡単なモノでいいかと、呟いてアルジャーノンは消費期限ぎりぎりの豚バラの薄切りと少ししなびた玉ねぎを取り出す。ジャケットと手袋を脱いで、イサドラに渡したアルジャーノンは慣れた様子で米を炊飯器にセットする。
「親御さんの分は考えなくていいんですよネ?」
「うん、ママ帰ってくるかわかんないし」
「なるほド……まあ、イサドラも小生も結構食べるので多めに作りましょうかネ。余ったら明日チンして食べてくださイ」
そんなまるで親子のような会話をしながら、アルジャーノンは玉ねぎを細切りにし肉を食べやすい大きさに切っていく。ショウガをすりおろし、醤油などを合わせた液体に入れかき混ぜた。
フライパンにサラダ油を引いて、豚肉を入れて炒め火が通ったらそこに玉ねぎも加える。玉ねぎがしんなりしたら、作っておいた合わせ調味料を入れてさっと絡めると、とてもいい匂いがリビングにも漂った。
あまりにも空腹を刺激する匂いに、ヒカルとイサドラがいつの間にかキッチンを覗いていた。元気いっぱいになる腹の虫にアルジャーノンは思わず吹き出してしまう。
「もうすぐできますヨ。ヒカルちゃん、ご飯も炊けたのでお茶碗によそってもらえまス?」
「うん、まかせて」
キッチンに入ろうとするヒカルの手をイサドラが引いた。じっと自分を見上げているイサドラに不思議そうにするヒカルだったが、もしかして、とあることが思い浮かぶ。
「イサドラちゃん、食器棚の一番左の引き出しにお箸とか入ってるから持って行ってくれる?」
マスクと前髪で隠されているのに、イサドラが満面の笑みを浮かべているのがヒカルにはわかった。手伝いを指示されたイサドラは引き出しから子供用と大人用の箸とフォークを持っていく。とうやら自分だけ仲間外れにされたと感じていたらしいイサドラはご機嫌に席に座る。
その様子を見届けたヒカルは茶碗に白米を盛っていく。
「ヒカルちゃん、後ろ通りますヨ」
豚の生姜焼きが盛りつけられた皿三枚を器用に持ったアルジャーノンがヒカルに一声かけ、キッチンを出ていった。
「……どうやって持っていこう」
「小生たちの分は持っていきますヨ?」
茶碗を前にしてフリーズしていたヒカルの上からアルジャーノンが手を伸ばす。
「ありがとう。アルさんのはその青いお茶碗で、イサドラちゃんは赤い方ね」
「はいはイ」
ようやく食事の用意ができ、三人がテーブルに着いた。手を合わせて豚の生姜焼きを頬張ったヒカルはボロボロと涙を流す。
「え……お口に合いませんでしたカ!?ショウガを入れすぎましたかネ……?」
「ううん、違うの……とっても美味しい……家で誰かとご飯食べたのとっても久しぶりだから……なんか、嬉しくて……」
泣きながらも食べるのをやめないヒカルの涙を拭い、アルジャーノンは優しくぼさぼさの髪を撫でる。何とか口の中の料理を飲み込んだヒカルは、アルジャーノンの胸に縋り付き声を上げて泣いた。
イサドラも心配そうにヒカルの様子を伺う。アルジャーノンは食べててとジェスチャーでイサドラに伝え、少女のやせ細った背中を優しく撫でる。こんなになっているのに、この子の親は何をしているのだろうか。都市伝説通りヒカルを連れ去ってしまおうかという考えが浮かぶ。だがすぐにそんなこと、ヒカルは望んでいないのだろうと考えを打ち消した。
短い期間だが、彼女が母親を慕っているのは手に取るようにわかってしまった。
「……憎んでいたら、心置きなく助けたんですがネ……」
「アルさん……?」
「なんでもないですヨ。今は思い切り泣いていいんデス」
ポンポンと優しい手つきで背中を叩かれ、泣き疲れたヒカルはアルジャーノンの腕の中で眠りに落ちる。おやすみなさイ、と優しい声が聞こえた気がした。
翌朝ヒカルが目を覚ましたのは、二階の自室で。昨夜のことは夢だったのかと、落胆しつつリビングに降りたヒカルの目に映ったのは、ラップがかけられた豚の生姜焼きと茶碗に盛られた白米だった。キッチンには綺麗に表れた二人分の食器が水切りラックに置かれていて、生姜焼きのラッブの上には綺麗な手書き文字で書かれたメモが置かれている。
―起きたらチンして食べてくだサイ。これから、小生がご飯作りに来ますネ。ヒカルさんの部屋にあるベランダの窓をちょっと開けておいてくだサイ。お邪魔していい日の合図にしましょウ。 アルジャーノン
「……夢じゃなかった……!」
ヒカルの目からあふれた雫がメモ紙を濡らした。
それから、少女と都市伝説の二人の奇妙な交流が始まったのだった。
アルジャーノンとイサドラは夜の帳が下りた頃に訪れ、一品何か作り、食卓を囲み去っていく。たった数時間の交流でもお互いにとって大切なものになっていた。
半年近く経ったある日、アルジャーノンがヒカルに一着のワンピースを持ってきた。その日イサドラが着ていたワンピースと同じデザインのそれは、ヒカルの身体にピッタリとフィットする。
薄いオレンジ色のワンピースに袖を通したヒカルだが、困ったように笑う。
「お母さんに見つかったら怒られちゃう……わたしがおしゃれするのよく思ってないみたいなの」
「おやまア……では、小生たちの前でだけ着て見せてくださいナ。見つからないように、タンスに隠すといいでショウ」
「うん、そうする。……ありがとう、アルさん」
「小生がしたくてしたコトですのデ」
ワンピースを着てヒカルはくるくるとその場を回る。それを見たイサドラもくるくるとその場を回り、まるで二輪の花が咲いたようだ。ベッドに腰掛けるアルジャーノンは二人を微笑まし気に見ている。
目が回ったらしいヒカルがアルジャーノンの隣に寝転んだ。それを真似するようにイサドラもアルジャーノンの逆隣りに寝転び、足をばたつかせる。ベッドが揺れるのにも構わず、ヒカルはアルジャーノンの腰に抱き着く。まるで縋り付くような動作に首を傾げつつ、アルジャーノンはヒカルの髪を優しく梳いた。
「あのね、今日ママが知らないおじさんを家に呼んだの。わたしの新しいパパになる人なんだって」
「おや、それは良いコトではないですカ」
「……アルさんがパパだったらよかったのに」
「そのお気持ちは嬉しいんですがネ」
「冗談だよ。それでね、ママが家にいる日が増えるかもしれないから……」
「ああ、あまり会えなくなるかもしれないんですネ」
「うん、入っていいときはいつも通りベランダの窓ちょっと開けとくね」
「ええ、わかりました」
アルジャーノンが優しくヒカルの髪を撫で続けると、小さな寝息が聞こえてきた。出会った頃よりもいくらかふっくらとしたヒカルの頬をアルジャーノンは撫でる。
「そろそろ潮時ですかネェ……」
アルジャーノンの独り言と空腹を告げる音はヒカルの耳に届くことはなかった。
その日、アルジャーノンはいつものようにヒカルの家の様子を伺っていた。以前ヒカルに告げられたように、ここ二週間はベランダの窓は閉められ、リビングや他の部屋に人の気配がしていた。
だが今日は人の気配もなく、電気もついていない。家族で出かけているのかと立ち去ろうとするが、ベランダの窓が開いていることに気付き足を止めた。いつもアルジャーノンを招くときはヒカルの部屋には電気がついていたが今日は暗いままで、違和感を覚える。
「閉め忘れ……なんてコトはないですよネェ」
イサドラを抱えなおしたアルジャーノンは、軽く跳んでベランダへ降り立った。相変わらず人気が全くない部屋を覗き込むが、カーテンが閉められていて中が伺えない。
「ヒカルちゃん。お邪魔しますヨー」
からからと窓を開け、カーテンを払ったアルジャーノンは室内に一歩足を踏み入れた。その瞬間、足元から呻き声が聞こえる。目線を下に下げると、ヒカルが倒れ込んでいた。明らかに様子の可笑しいヒカルに、アルジャーノンはイサドラを下ろし、彼女を抱き上げる。
顔中に痣や打撲痕が見え、口元から血が滲んでいた。明らかにひどい暴行を受けたような姿に、アルジャーノンは珍しく声を荒げ、イサドラも心配そうにヒカルの顔を覗き込む。
「ヒカルちゃん、ヒカルちゃん大丈夫ですか!?」
「う……アル、さん……?」
アルジャーノンの腕の中でヒカルは目を開けた。自分を抱き上げるアルジャーノンの姿を目にしたヒカルはほっとしたように微笑む。ヒカルの意識が戻ったことにアルジャーノンは肩の力を抜いた。そのままヒカルを抱きかかえベッドまで運ぶ。その時に、少しずつ肉付きがよくなっていた身体がまた痩せているのにアルジャーノンは気づいてしまった。それに、服の隙間から見えた胴体に痣が新しいものから直りかけのものまでたくさん見えた。
今までなかったこの傷が示すことに思い当たらないほど、アルジャーノンは鈍くはない。
「アルさん、ごめんなさい……」
「なにがデス?」
「せっかく作ってくれたワンピース、ボロボロになっちゃった」
怪訝そうにするアルジャーノンにヒカルはタンスの前に落ちている、オレンジの布を指差した。イサドラがその布を拾い上げると、それはアルジャーノンがヒカルに贈ったワンピースだったもので。ビリビリに引き裂かれてただの布切れになってしまっているが。
「せっかく作ってくれたのに……」
「またいくらでも仕立てますので気にしないでクダサイ」
「……一人で着てるときにおじさんとが部屋に入ってきて見つかっちゃったの。こんないいワンピース持ってるなんておかしいって言われて……。ママを呼ばれて、買った覚えがない、どこから盗んできたんだろって怒られたの。おじさんは悪い子にはお仕置きだって、いつもより殴られたんだ……」
「お母さまはなんト……?」
「色気づいてとか……お前はボロを着てればいいって……助けてくれなかった。アルさん、痛い……痛いよ……」
「……ヒカルちゃん……小生ハ……」
「……アルさん、たすけて……もう、痛いのはいや……」
自分に縋り付く小さな手にアルジャーノンは悲痛な表情を浮かべる。迷うように彷徨うオッドアイが自分を見上げているイサドラと目が合った。何かを訴えるような視線を向けてるイサドラにアルジャーノンは小さく頷く。その横顔には覚悟が浮かんでいた。
「……小生にお任せヲ」
安心させるようにアルジャーノンはヒカルの背中を優しく撫でる。ヒカルは安心したようにゆっくりと目を閉じた。
鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いで目が覚めた。起き上がろうとしても、身体中痛くてうまく動けない。
「わたし、寝ちゃってた……?」
アルさんとイサドラちゃんが来てたと思うけど、あれは夢だったのかな。唇の端っこが突っ張る感じがして、触ったらガーゼが貼られてて……アルさんが手当てしてくれたんだってわかった。じゃあこのいい匂いはアルさんが何か作ってるのかな。
ゆっくり起き上がると、何かが身体から落ちた感触がする。それはママたちにスタボロにされたはずのワンピースだった。新品みたいに綺麗になってるけど、アルさんが直してくれたの?嬉しくて嬉しくて、身体が痛いのも忘れてTシャツからワンピースに着替える。ベッドから降りて、部屋のドアを開けた。すると、美味しそうな匂いがもっと強くなる。でも……なんだが学校の鉄棒みたいなニオイがするような……。なんでだろう。
「お腹、空いたなぁ。アルさんなに作ってるんだろ……」
手すりに捕まって転ばないようにゆっくり階段を下りる。一階に近づく度に美味しそうな匂いと鉄っぽいニオイが強くなっていく。それと同時に、何か料理をしている音も聞こえてきた。
やっぱりアルさんが何か料理してるみたいだね。
一階について廊下を進む。なんか、お風呂場からさっきからしてる鉄っぽいニオイがするけど、なんでだろう?アルさんに何か知ってるか聞かなきゃ。
そんなことを考えながら、リビングに続くドアを開ける。キッチンを覗くと、案の定アルさんが何か作っていた。私に気付いたアルさんがにっこりと優しい笑顔を浮かべ、頭を撫でてくれる。
「おはようございまス。やっぱりそのワンピースお似合いですヨ」
「ワンピース直してくれてありがとう」
「それくらいお茶の子さいさいですカラ」
「仕立て屋さんだもんね」
「そういうコトデス」
私のほっぺたを撫でたアルさんは、背中をそっと押してリビングへ行くように促される。ダイニングテーブルにイサドラちゃんのツインテールが揺れているのが見えた。ボリボリガリガリと何か固いものを噛んでいるような音が聞こえる。
「イサドラちゃん、何食べてるの?」
わたしの声にゆっくりと振り返ったイサドラちゃんは、マネキンの腕みたいなのを抱えていた。なんか、男の人の腕みたいでリアルなマネキンだなって思っていると、イサドラちゃんは大きな口を開けてソレに齧りつく。そういえばいつものマスクしてないね……。
「ねえ、それってマネキンでしょ?食べたらダメだよ」
もぐもぐと口を動かすイサドラちゃんに近づきながら声をかける。すると彼女は食べる?とばかりにマネキンを差し出してきた。
「え、わたしマネキンは食べないよ?」
差し出されたそれはマネキンのはずなのに、骨とか肉の感じが妙に本物っぽい。わたしが食べないとわかったイサドラちゃんはまたソレをかじり始める。本当にそれリアルだよね……指の感じとか……。
「あれ……?」
マネキンの指に、見慣れた指輪が嵌められているのに気付いた。これって、おじさんがいつも着けてる指輪……?よく見たら、手の甲におじさんと同じ位置にかさぶたがついてる。何日か前に、わたしを殴った時に歯が当たって切っちゃったんだよね……。その後、もっと殴られたから覚えてる。
見れば見るほど、ソレがマネキンではないと理解してしまう。美味しそうにおじさんの腕を食べるイサドラちゃんはわたしの知ってる子じゃないみたいで、とても怖い。ゆっくり後ずさって、イサドラちゃんから距離を取る。キッチンの入口付近まで来たところで、背中に何かぶつかった。
「おっと……大丈夫ですカ?」
頭の上からアルさんの柔らかい声が降ってくる。
「あ、アルさん……イサドラちゃんが……」
「ああ、あの子生肉が好きなんですよネェ。困ったモノですヨ」
深々とため息を吐くアルさんだけど、そうじゃないよ。確かに、前イサドラちゃんはアルさんの腕齧ってたけど……!いつも通りのアルさんが逆に不気味で見たくなくて、キッチンの方を見た。ちらりと見えたまな板の上にはママとおじさんの頭が置いてあって、開けっ放しの瞳と目が合う。
「ひっ……!」
「ふふ、大丈夫デス。もうヒカルちゃんを虐げるモノはいなくなりましタ」
「な、んで……?」
「原因を絶たないといけませんデショウ?」
黒手袋を外した手でわたしのほっぺたを撫でながら、アルさんははちみつみたいに甘く優しい声で言い切った。そのあまりにも穏やかで優しい微笑みに、わたしの視界はぐるりと回って真っ黒になった。
新宿区バラバラ殺人について語るスレ
75:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:24:20 ID:aLQziTiBv0
当たり前だけど、ずっとこの事件の報道ばっかりだな
76:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:29:46 ID:FwqWXTQk1U
みんな刺激に飢えてるってことだろ
77:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:32:54 ID:iDRV3gZNPO
でも娘ちゃんだけ生き残ってよかったじゃん
78:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:38:52 ID:wVDk4AEys1
なんか近所のインタビューだと母親からネグレクトされてたんだろ?
そんで母親に恋人ができてから一緒になって虐待してたって
79:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:43:31 ID:XedysOHwU4
クズすぎんだろ……
80:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:47:27 ID:LezoqLQxQK
近所のおばさん曰く、恋人が家に出入りするちょっと前から娘ちゃんの頬がふっくらしだしたから安心した矢先だもんな
81:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:51:34 ID:Vgnlf7q4oy
ていうか娘ちゃん犯人見たっぽいね
82:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 17:57:02 ID:JSTH8Wsr3I
でも「食べられちゃった」って言ったっきり他は何も話さないんだろ?
83:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:01:00 ID:IHGxE1MLM3
警察が来た時すでに母親と恋人のバラバラ死体があったんだろ?
どんだけショックだったか……
84:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:06:37 ID:AW7s6UZccE
父方の祖父母に引き取られるらしいから、ひとまず安心なのか?
85:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:10:08 ID:sCDReaDuY9
そういえば保護されたとき手作りのぬいぐるみを二つ持ってたんだろ?
86:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:15:07 ID:EfoiDRiQnb
あ~つぎはぎの人形と赤いツインテの人形だっけ
87:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:18:54 ID:1bX5M7HWY1
ずっとそれは持ってるらしいな
88:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:24:50 ID:yYlyxIIqfF
なんかさ、その人形の特徴聞いたら俺あの都市伝説思い浮かんだんだけど……
89:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:27:51 ID:xmGLJoBnId
燕尾ゾンビだろ?
わかる俺も
90:ほんまにあった怖い名無し 2020/5/10 18:32:35 ID:YqztE77Okf
まさかなぁ
真夜中の児童公園にイサドラを抱いたアルジャーノンはやってきていた。ヒカルと出会った公園は人気はなく、まるで死んでいるみたいだと思う。自分の腕の中で気を失ったヒカルを思い出し苦笑を零す。
「だから言いましたのニ、小生を信用してはいけないト」
ブランコに腰を掛けたアルジャーノンの膝の上で、イサドラはヒカルがおじさんと呼んだ男の腕を食べ続けていた。
「ねぇチョット?少しは小生が作った料理も食べてくださいヨ。本当に腕に齧りつくの好きですヨネ」
アルジャーノンの小言なんてイサドラは気にも留めない。大きなため息を吐いたアルジャーノンは諦めたように天を仰ぐ。あいにくと曇っていて星はおろか月すら見えないが。
アルジャーノンは自分の腹部をゆっくりと撫でる。
「久々に空腹から解放されましタ。やっぱり大人の方が食いでありますヨ」
そう言って仕立て屋を自称する食人鬼は嗤う。彼と同族の少女も満足気な笑みを浮かべた。