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第二十二話

 レイラは俺を見て、顔を歪めた。


「げぇっ、カイ」

「げぇっ、性悪女」

「ちょっと待って」


 真顔に戻って、レイラが言った。

 まーた始まったよ。


「なんだよ」

「私も名前で呼んだんだから、あんたも名前で呼びなさいよ。卑怯じゃない!」

「知るか何の話だ」

「それじゃ私だけツンデレみたいじゃない!」

「へーお前実は俺のこと好きだったのか」

「なわけないでしょ! 私のタイプは飛びっきりのイケメンで、お金たーくさん持ってて、家事も超上手い世話焼きな男なの! あんたと真逆」

「お前のそれはただの見栄えのいい家政婦だろうが!」

「いーじゃない家政婦。何もできないどっかの男よりまし」

「何もできないのはお前だろ。俺は家事も仕事もパーフェクトだ」

「卵焼き甘いくせに家事得意とか何言ってんの?」

「甘い卵焼きの何がいけないんだ」

「あのね、あれはおかずなの。スイーツじゃないの。ていうか男のくせに甘い方が好きってのがまずキモい」

「お前だって女のくせに自分の部屋一つ片付けられないだろ」

「何勝手に入ってんのよ! ほんとデリカシーが」

「おい待て」

「何よ」

「喧嘩してる場合か」


 そう言ってレイラの頭を小突く。レイラはわーわー喚いていたが、無視してジャッカスのいる方を見る。

 やはり、被害はかなり大きいようだ。


「おい、あいつらはどうした?」

「みんな戦ってるんじゃない?」

「じゃあお前何してんだ?」

「逃げてんのよ。痛いの嫌いだし」

「なるほど」


 つまり暇ってわけだ。ちょうどいい。


「よし、お前は魔王と戦え」

「はあ? 私の話聞いてた? 痛いの嫌いなんだけど!」

「ガイアは幹部二人を相手にしている。手が離せない。ジャッカスと互角に戦えるとしたら、同じ魔王のお前しかいない」

「だからって知ったことないわよ」

「ははーん、怖いのか。負けるのが。安心しろ。サポートはしてやる」


 レイラのこめかみがひくついた。


「言ってくれるじゃない。ああ、やってやるわ!」

「サポートは?」

「いるわけないでしょ! 指咥えて見てて!」


 扱いやすくて助かる。流石バカ。


「あと……あれ!」


 レイラが俺の前に出て立ち止まる。


「おい、早く行くぞ」

「うるっさい! ……あのね、私は魔王なの。第六魔王」

「知ってる」

「魔王ってのはつまり王様で、人の上に立つものなの」

「だからそれがどうした」

「つまり、私は上に立つものとして、部下には命令を下すこともある」

「おい待て。その部下、俺って言いたいのか?」

「黙って聞けないの? ……だからその、その代わり。部下が頑張ったら、労いの言葉をかけるものなの」

「はあ?」

「だから、ありがとう。ガイアが言ってた。侵入があまりにも簡単だったし、幹部も少なかったって。あなたがかき乱したおかげなんでしょう? だから、よくやったわねってのと……一応感謝も」


 レイラは終始顔を背けている。背中をもぞもぞさせて、虫でも張り付いてるみたいだ。

 よほど気持ち悪い思いを我慢してるらしい。


「…………お前に褒められても嬉しくないな」

「なっ……! このクズ! もう一生褒めてあげない! さっきから喧嘩売ってばかりだし、心配して損した!」

「へー心配?」

「だから! 私じゃなくて、みんなが!」

「……ジャッカスとの勝負、任せたぞ」

「わかってるって」

「ああ。お前の強さは、信頼してるんだ」

「…………あんたに言われても嬉しくないかも」


 俺達はジャッカスの元まで走った。

 その道中、俺は疑問に思ってたことを聞いた。


「なあ、そういやこの街の奴らはどうしたんだ? それに、ガイア達もどうやって来た? 運び屋はもういないはずだぞ」

「休戦協定よ。この国の地下に魔王軍がいることを話したら簡単に結んでくれたって。あとは普通に馬車で来たらしいわ。一般人もそう。事前に逃しておいたの」

「なるほどな」

「じゃあ私からもいい?」

「なんだ」

「なんで襲撃時刻が早くなったの?」


 ああ、それか。

 たしかにレイラ達には、三日後に来いとしか言ってなかったからな。


「ガイアにだけ指示しておいた。もし、本当にどうしようもなくなったときは無線繋いで、作戦全部バラすから、先手打たれたくなかったらすぐに襲撃しに来いってな」


 そう。クラウンにわざわざ武器とスーツを取りに行かせたのは、無線をガイアに繋ぐためだ。

 いざというときの抵抗とか、ほとんど考えてない。


「俺がどうしようもないときなんて、魔王と幹部に囲まれたときだからな。俺に主力が集中してんなら、襲撃はしやすいだろ?」

「つまり捕まるまで計画のうちってわけね」

「好きで捕まったわけじゃない。あくまで上手くいかなかったときの第二の策だ」


 どんな事態も想定内で、適切に対処する。それがプロだ。

 そしてとうとう、ジャッカスの姿が見えた。

 横を向いて魔法を放ち、いたずらに街を破壊している。

 これはチャンスだ。俺達の姿に気づいてない。レイラの火力なら、結界を破り大ダメージを与えられる。


「おいレイラ、今だ魔法を──」

「勝負よジャッカスー!」


 空気を裂くほどの大声で、レイラはジャッカスを呼んだ。

 俺は頭を抱え、ため息をこぼした。何やってんだこのバカは。ほら見ろ、ジャッカスも破壊をやめて俺達を見てる。


「おい! せっかく気づいてなかったんだから攻撃すればよかっただろ!」

「そんなの卑怯じゃない」

「勝負に卑怯もクソもあるか!」

「陰湿な思考ね」

「狡猾と言え!」

「それも決して褒め言葉じゃないでしょう」


 ジャッカスが笑った。


「ふふふふふっ、デッドブラッド。貴様は結局裏切るわけか」

「ああそうだ」


 これ、色んな奴に言われるな。


「見ろ!」


 瓦礫の上に立ち、ジャッカスは両手を広げた。


「何もかも失った! 部下も、アジトも! ……だがもういい! 結局やることは変わらない。この国の奴らも、貴様らも、全員ぶち殺して、わしだけの王国を作る! 部下ならまた集まればいい!」

「クラウンはそんなこと望んでなかったぞ……」

「あの女がなんだというのだ! 結局口だけの、甘い女。わしの計画に使えんなら、どいつもこいつもただの邪魔者でしかない!」

「なんとでも言え」


 俺は銃を構える……が、レイラに遮られた。


「任せるんでしょ?」

「お前……」


 レイラは杖を取り出し、ジャッカスに向けてまっすぐ伸ばした。


「ダーク・サンダーボルト!」


 黒色の稲妻が轟き、ジャッカスを襲う。流石の威力だ。結界を簡単に破った。

 衝撃で瓦礫は吹き飛び、爆炎が上がる。

 だが、煙が晴れてみると、ジャッカスはほとんど無傷で立っていた。


「なるほど。最上級魔法か……。思ったよりやる。ならばわしも、本気を出そう」


 ジャッカスが右手をレイラに向ける。


「インパクト・ショック!」


 最上級の衝撃波攻撃。

 俺はすぐにビッグスターを展開する。が、レイラが前に庇うように立った。


「そんなんで防ぎ切れるわけないでしょ!」


 レイラは結界を最大限広げ、さらに雷の防御魔法も使って、波動を防ぐ。

 ジャッカスの攻撃は流石の威力で、レイラが防いだ範囲以外は爆発でもしたかのように吹き飛んでいた。

 レイラは再び杖を構える。


「くらえ!」


 今度は、さっきの雷が三連続でジャッカスを襲う。

 流石に耐えきれず、最後の一撃をもろに食らう。

 ジャッカスは全身傷だらけになって、時々体に残った電気が放電している。とはいえ、見た目ほどダメージはなさそうだ。せいぜいかすり傷ってとこか。


「本格的に驚いたぞ」


 ジャッカスはレイラを感心した目で見る。


「無詠唱でも威力が落ちてない。何より、最上級魔法をこう何度も撃てる奴は早々いない。どんな魔法使いも、頑張って二発が限界のはず」

「ふふん! 私をその辺の人間と一緒にしないでよ」

「貴様……何者だ?」

「私はワイズクイーン!」


 レイラは、そうドヤ顔で言い放った。

 ジャッカスが首をかしげる。


「……そんな役職あったか?」


 あーあ、本気で困惑してる。うちのバカが悪かった。


「まあよい。貴様に遠慮は無用ということだな。ならば……!」


 レイラも攻撃を放とうとしたが、ジャッカスの方がわずかに早い。

 再びさっきの波動……いや、さっきよりも圧の強い攻撃だ。


「フハハッ! これがわしの全力だ。貴様の防御が限界を迎えるまでやめない!」

「うっ……くっ!」


 レイラがジリジリの衝撃に押されている。

 このままでは、負けは濃厚。


「おいレイラ! 一瞬でいい、奴の結界を剥がせ! そうすれば俺の銃で仕留められる。奴の顔面に一発ぶち込めば……」

「言ったでしょ! あんたは黙って見てなさい!」

「意地張ってる場合か!」

「その体を見れば! どんだけ無茶したかわかる! みんな心配してた! ……私以外! だから……ムカつくのよ! 何もかもあんたの手柄にされたら!」

「お前……」


 ジャッカスが叫んで、さらに魔法の威力を上げた。

 レイラは悲鳴を上げて爆発したみたいに吹き飛んだ。


「レイラ!」


 ジャッカスが高らかに笑う。


「次は貴様だ!」

「オーケー、来てみろ」


 俺の即興で出せる武器じゃ歯が立たない……が、何とか隙を作れば、サイクロングレネードランチャーを完成させられる。あれならジャッカス相手でも殺せる。

 何より、同じ魔王のレイラを倒すほど力を消耗したんだ。結界はかなり弱まってるはずだ。

 俺はショットアイズ5.0を構え、ジャッカスの眉間に向かって撃ち込んだ。

 ジャッカスは全弾軽く払う。


「インパクト・ショック!」


 ジャッカスの波動を。俺は横に飛び退いて避けた。

 正面向き合ったままの戦闘じゃ隙の作りようがない。幸いここは瓦礫だらけ。隠れる場所には困らない。

 俺は近くの死角へ走った。

 だがそのとき、後ろの瓦礫の山が爆発したように弾け飛び、思わず足が止まった。

 そこは、レイラが吹っ飛んだ先だ。


「カッチーン! もう完全に怒ったわ」


 傷だらけのレイラが腕を組んで、瓦礫の上に立っていた。

 俺ははじめて会ったときのことを思い出していた。

 ああ、あのとき以来だ。この性悪女のことを、女神のように綺麗だと思ったのは。

 相変わらず態度がデカく、ジャッカスを見下ろしながらコツコツ歩く。まるでレッドカーペットを歩くスターのように。自身に満ち溢れ、威厳をドレスに着ている。

 破れた服も、肌から流れる血すら、キラキラ光ってレイラを彩る星でしかない。

 それは間違いなく、第六魔王として、女王として、圧倒的な力の象徴だった。

 ジャッカスの天を裂くような殺気すら吹き飛ばすほどのオーラで、あっという間にこの薄汚い戦場を塗りつぶした。

 何も言えないまま立ち尽くす俺を通りすぎて、ジャッカスと向き合った。


「さて、残す言葉は?」

「貴様がな」


 ジャッカスが手を向けた。少し遅れてレイラも杖を構える。


「ビッグバン・ショッ──」


 正真正銘、ジャッカスの最大火力が炸裂するはずだった。

 だが、レイラの方が早かった。


「ダーク・サンダーボルト」


 黒い雷はジャッカスの結界を優に破り、一瞬にしてジャッカスの体を丸焼きにした。

 哀れ魔王。一言も発する間もなく、ジャッカスは炭となって崩れた。

 レイラは杖をくるくる回して、振り返ってドヤ顔した。


「どう? 本気出せばこんなもんよ」

「お前……」

「なにかしら?」

「鼻血出てんぞ」

「嘘!?」


 レイラは間抜けな顔で鼻下をゴシゴシ拭った。

 あーびっくりした。俺としたことが普通に感心してしまった。

 やはり、レイラはレイラ。バカで間抜けの出来損ない魔王だ。

 そしてどうやら、ガイアの方も決着がついたらしい。その証拠に、爆音が止んだ。

 とりあえずこれで、任務完了。



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