第二十一話
クラウンの部屋を出て、再び隠し通路に入る。
さっきの突き当りを左に曲がる。おそらくジャッカス達はこの先にいるはずだ。
ショットアイズ5.0を展開して、体の後ろに隠す。通路は先を進むごとに広くなっていき、最後には巨大な階段が伸びている。おそらく地上に繋がっているんだろう。
そしてその前には、ヴェルファイアが立っていた。
「魔王はどうした?」
「一足先に地上にお連れした。ここでは全力を出せん」
「たしかにな……。で、なんでお前はここに?」
「私の兵士は私との距離に比例して強さが変わる。これ以上離れたら足止めもできん。それよりお前……」
ヴェルファイアが俺を睨んだ。
「クラウンはどうした」
「ああ。あいつなら……死んだよ」
俺は横に飛びのきながら弾を放った。
おかげでヴェルファイアの魔法は避け切れたが、俺の弾丸も防御魔法と盾で防がれた。
「結局貴様は裏切り者だったわけか!」
「信用するなと忠告したはずだ!」
俺は次々に弾を放つが、全て完璧に防がれる。まるで効いてない。
ヴェルファイアは剣先から様々の呪文を放つ。俺もビッグスターを展開して防御するが、威力が高すぎる。気を抜いた瞬間吹き飛ばされそうだ。
防戦一方。このままじゃまた捕まって終わりだ。
次の作戦行くか。
「ほらほらどうした! お前の力はそんなものかね!?」
「そういえばお前には散々拷問されたな。部下もいないし、ちょうどいい。殺してやるよ」
「この状況で私に勝てるつもりか!」
「当たり前だ」
今度は狙いを定めず、反動に沿ってでたらめに銃を撃ちまくる。
当然、一発たりともヴェルファイアには当たらない。
「血迷ったか……!」
俺は銃を撃ちながら、懐から三枚の鉄板を取り出し、それぞれ別の場所に投げた。三枚ともヴェルファイアの後ろにあり、壁、床、天井に張り付いている。
再びヴェルファイアの攻撃が始まった。それを防ぎながら、位置を確認する。
「もう少し後ろ……左側か」
威力を上手く調節したサイクロングレネードを投げる。
占めた。
爆発の威力に押されて、ヴェルファイアはちょうどいい位置に移動し、攻撃の手も止めている。
「くらえ……!」
俺は一発だけ弾を放った。
それはヴェルファイアにはかすりもしない明後日の方向へ飛んでいく。
「くははっ!」
ヴェルファイアが笑う。
「もはや射撃すらまともにできないとはな!」
「そいつはどうかな!」
俺が撃った最後の一発は、先ほど仕掛けた三枚の鉄板を反射して綺麗に回り込み、そのままヴェルファイアの背中に突き刺さった。
魔法と盾の二重防御はたしかに強固だが、魔法だけなら威力の落ちたショットアイズ5.0でも十分打ち破れる。
そしてヴェルファイアは衝撃で前方――つまり俺に向かってまっすぐ吹き飛ぶ。
俺はパワーレッグを起動して、体ごと盾を蹴り飛ばした。
ヴェルファイアは壁にぶち当たって、座り込む。盾を持っていた左手は粉々に砕けている。
「く……っ!」
立ち上がろうとしたら右足を、剣を握れば右足を、銃で粉々に吹き飛ばす。
そして最後に、顔に銃口を向けた。
「幹部というだけあって流石の戦闘力だが、弱点は骸骨故の脆さだな。剣を持ってるくせに魔法で近距離戦を避けたのもそういう理由だろう?」
「跳弾とはな……。聞いたことないぞ」
「残念だったな。射撃の腕なら世界中で一番自信がある。残す言葉はあるか?」
「貴様など……魔王様に殺されてしまえ!」
髑髏頭を吹き飛ばす。
さて、外はどうなってるか。あの性悪女はちゃんと来てるんだろうな。
階段を上り、地上に出ると、まさに火の海だった。一秒に一回、どっかから必ず爆撃の音が聞こえる。
モンスターも冒険者も、その辺に死体が横たわっていて、かなり激しい戦いということは、一目瞭然だった。
その中でも、最も激しい戦いが繰り広げられている場所の真ん中に、バキとグールが背中合わせで立っていた。
冒険者達が次々と向かっていくが、簡単に薙ぎ払われてしまう。
俺は死角に体を隠して、銃を撃った。
だが、元から張っていたのか、防御魔法の結界に当たって防がれる。
そして奴らは、弾の飛んできた方向を見逃さなかった。身を隠すにはちょうどいい瓦礫の山が、グールの魔法で取っ払われた。
「……やあ」
「貴様……やはり裏切ったな!」
「そういうこと」
バレたらしょうがない。俺は横に走りながら弾を放つ。
どれだけ防がれようと、今大切なのは反撃の目を与えないことだ。そうして上手く牽制しながら、ボロボロになったタワーの中へ入る。ちなみに入口からじゃなくて、横に開いたでかい穴から、だ。とにかく、これであいつらから俺は見えない。
上も下も崩壊寸前って感じだが、まだ修復はできる範囲だ。
そして気になるのが、一般人がまるでいないことだ。すでに避難が終わっているのか?
と、タワーの中を進んでいると、横から人型のモンスターが一体現れた。
左の腕輪を左に回す。腕輪から飛び出したのは、直径約0.3ミリ、先端に鉤爪のついた超強度の形状記憶合金製ワイヤー、エクステンドクローだ。最長五十メートル延びる優れものだ。
鉤爪を右手に持ち、糸をモンスターの首に巻き付けた。そして、思いっきり引っ張る。
首が切れて、血を吹き出しながら倒れる。
俺はそのまま鉤爪を上に引っ掛け、腕輪のボタンを押した。糸は高速で縮まり、あっという間に上へ昇れる。壁にはちょうど穴が開いていて、バキとグールを狙える。
ショットアイズ5.0を展開し、銃口を絞る。破壊力は下がるが、弾が収束することで、突破力は上がる。もっとも、反動がさらに大きくなって、正面からの戦闘中に使い物にはならないが。
まずは一発。グールに向かって撃った。
チッ、頭を狙ったつもりだったが、反動と結界の影響で狙いが外れて、右肩に当たる。
グールは倒れた。すぐに追撃したかったが、流石にバキの反応が早い。一瞬で俺の居場所を察知して、信じられないほどの運動能力で俺のとこまで駆け上がってきた。
俺はとっさにビッグスターを展開するが、簡単に殴り飛ばされてしまう。レッドガンを放つが、避けるどころか手で掴まれてしまう。
「上手くやってくれたな」
「いやあ騙されるお前らが間抜けなんだ」
「減らず口を!」
バキの攻撃を避け、ファイアレッグを起動し、顔に蹴りを入れる。
顔に引火して、バキはうめき声を上げた。動きに隙もできる。
今度はパワーレッグを起動して、腹を蹴り飛ばす。壁まで追い詰め、ジャックメテオで外に吹き飛ばす。
落下するバキに、次はサイクロングレネードを投げるが、キャッチされてしまった。すかさずレッドガンで撃ち、その場で爆発させる。
これはかなり効いたはず。今度こそ追撃だ。と、ショットアイズ5.0を構えるが、グールの魔法の方が一足早かった。足下が爆発して、俺は地上に真っ逆さまだ。
すぐに立ち上がって、臨戦態勢を取る。
グールは肩から血を流しているが、特に問題なさそう。バキは手榴弾を掴んでいた右手は、手首から先が吹き飛び、腕も全体的に焼け焦げてはいるものの、あくまで平気な顔をしている。
流石に強い。この二人を同時に相手取るのは骨が折れるし、時間もかかる。
困った……。
そのとき、ちょうどいい助っ人が登場した。
一度剣を振るだけで、そこら一帯の雑魚モンスターを吹き飛ばすキングヒーロー、ガイアだ。
「デッドブレッド! 戦況はどうなっている!?」
「超ピンチだ。いいところに来た。この二人は任せるぞ!」
「え、ええ? 待て! 僕は魔王を倒しに!」
二人が黙って見逃してくれるはずもないので、あえてガイアを巻き込むように逃げた。
案の定ガイアは二人の攻撃を弾き、敵を見据えた。
「なかなか強いね君達。いいだろう、相手をしてあげる」
「舐めるな……!」
そして一秒後には、俺の存在など忘れて、勝負に没頭する。
だがとにかく、なんとか幹部の壁は超えた。後はもうジャッカスを守る砦は何もない。
周りを隅々まで見渡す。東のほうで、ひときわ目立つ爆発が起こっている地点が目に入った。
おそらく、あそこに魔王がいるんだ。
俺は奴のとこへ向かって走り出した。クラウンとの約束のため。周りが見えなくなるほど夢中に。だがそのせいで、俺は物陰から出てきた女にぶつかってしまった。
二人して後ろにしりもち着くように倒れる。
「いたた……ちょっとあんた。どこ見て歩いてんのよ!」
ん? ちょっと待て。この声には聞き覚えがあるぞ。
顔を見れば案の定、抜群のプロポーションだけが取り柄で、意地の悪い顔で睨むこの女。
ぶつかったのは、レイラだった。




