一発でコンパイル通ったときほどバグだらけという経験則
「はっはー!わたしが神だ!」
いや、これだと単なるヤバイ人かな?
わたしが法律だ!
うーん?
わたしが独裁者だ!
も違うな~
王だ!ってわけでもないし、ん~
ま、なんでもいいか。
とにかく、世界で一番、飛び抜けてダントツトップの魔術師マーナ様とはわたしのこと。
たびかさなる人間同士の戦乱と、はびこる魔物たちの討伐と、常に流血が絶えない世界に嫌気がさした!
(ってか、何かあるたびに駆り出されるわたしの身にもなってくれ!)
そこでわたし、天才魔術師マーナ様は考えたわけですよ。
ありとあらゆるものが人間にさわれなくなれば、流血なくなるんじゃない?って。
わたし、スローライフできちゃうんじゃない?って。
さすがわたし、天才魔術師マーナ様、あったまイイ~!
わたしはお昼ごはんに角砂糖を食べながら、ちゃちゃっと術式を組み立てた。
範囲を全世界に指定して、発動っと。
もちろん、わたしは人間じゃなく、魔術師なので術式の対象外。
そのまま角砂糖を摘まんでいると、隣の家のアイラおばさんが叫んでいる声が聞こえてきた。
「なんだい!包丁に触れなくなっちまったよ!」
あーそうね。そうだろうね。
術式が正常に機能しているのが確認できた。
アイラおばさんはまだ気がついていないかもしれないけど、じつは服も肌に触れなくなってるし、足の裏も地面からわずかに浮いている。
さすがに空気は触れても問題ないように除外しているけど。
わたしは術式の効果に満足して、他に不具合が出ていないか見て回ることにした。
戦地はすっかり静まりかえっていた。
武器も持てないのだから当然か。ついでに言えば、今、着てる防具も脱げないと思うけど。
「ばっちりやね」
そのまま魔の森も見に行った。
今まさに冒険者を食らおうとしていたワイバーンが口を開いたまま、あごが外れたように動けなくなっている。
「うむうむ」
期待どおりの効果とはいえ、素晴らしい。今、この瞬間、世界では一滴の血も流れていない。
「さすがわたし!天才魔術師マーナ様!」
自画自賛しつつ、巻きで世界一周して自宅がある街へ戻ってくると、たくさんの問題が起きていた。
泣きわめく赤ちゃんに、赤ちゃんを抱っこもできず困っている母親たち。
食べ物はそこにあるのに食べられずお腹すいた、と座りこむ子供たち。
何もさわれないしロクに動けないから仕事にならん、と所在なさげに立ちつくす大人たち。
「あー……」
ハグもキスもできずに戸惑う恋人たち、は意図的に無視して……独身の前でイチャつくんじゃない……わたしは考えた。
「どうするかなー」
食べ物はさわれるようにする?
赤ちゃんは?
仕事道具は?
いちいち全部指定することを考えたらげんなりして、わたしは考えるのをやめた。
いいや、大雑把に変えといて、不具合が出たらまた後で直そう。
わたしは術式の範囲から、屋内を除外した。
屋内の定義は……ま、地面と柱と壁と屋根に囲まれてて、扉があるとこ、でええやろ。
ちゃちゃっと修正して、発動。
「お、おい!家の中で食べ物、食べられるようになったぞっ!」
「うわ!ほんとだ!おい、みんな、家に戻れ!」
「ごはん、おいしぃょ~!」
「やっとペンが持てるようになった!……うぇっヤバイ、今日の仕事が……!」
急ににぎやかに動き出した街に、わたしはうむうむ、と満足して頷いた。
農家さんが全部ビニールハウス栽培になるとか、漁師さんの船が全部屋形船仕様になるとか、大変迷惑な変化も伴うのだけど、それはまだ先の話。
スマホのメモ帳「もうらめぇっ……!そんなに入らないのぉっ!」
文字数が。(2回目)
スマホはもう寿命かもしれない……(スマホ御年5才)
お読みいただきありがとうございました。