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月の精霊姫

思い付くままに連載始めました。


連載を二本…更新も滞っているのに…

ごめんなさい(-_-;)

でも夜中に思い付いちゃって、一話がすらすら書き上がっちゃったから…仕方ないね…仕方ない(笑)


気長にお付き合いくださいませ。

ある月の輝く夜に二人は初夜を迎える。



美しい銀の髪を月明かりでキラキラと輝かせて、窓辺で外をぼんやりと眺めていたクリスティーンはふぅと息を吐いた。

白い花嫁の衣装を纏い、先ほどまで披露宴としてこの嫁いで来た国の重臣たちに顔合わせの挨拶などしていたのだ。少し疲れていた。

肩の出たイブニングドレスであるが、細かい刺繍や精巧なカットを施され眩しいほどに輝くダイヤモンドが煌めく衣装はクリスティーンの透明感のある肌や銀髪によく似合いまるで妖精のようであった。

陛下や王妃、重臣たちにも美しい花嫁は歓迎されたし、この帝国の安泰のためにもシュートルを支えてほしいと言ってもらえた。

それにはクリスティーンも喜び、溢れる涙を止められないほど感激したのだった。

初夜のために花婿であるシュートルより早めに部屋に戻り、今は初夜のために磨かれる前の一息を一人で月を眺めてしていたところだった。

産まれ住んでいたナルニ王国での虐げられた生活に比べれば、シュートルと出会ってからの暮らしは幸せに満ち溢れていた。

そう思うとこれから始まる初夜、ひいては生活に期待をしてしまう。

シュートルといれば幸せな未来しか浮かばない。


二人が出会ったのもやはり今夜のように月が輝く夜だった。

あの日、虐げられ古い塔に半ば軟禁のようにされたクリスティーンは、珍しく警備の兵がいなかったこともあり王宮の寂れた庭園にて月明かりを頼りに散歩に出ていた。

普段なら決して行わない行為であった。しかし月がきれいであったため少し気が大きくなったのかもしれない。

見つかればまた、国王や王妃、兄や妹に果ては王宮のメイドにすら辛い仕打ちを受けるかもしれない。

しかし王国に協定のために賓客としてもてなされた隣国のジャルカ帝国の皇子のシュートルの宴のために、警備兵も駆り出されていたため見つかることはまずないだろうと感じていた。

久しぶりの外は気分もいい、少し奥まで行って、気に入っているあの花でも愛でに行こうかと思った。


隣国の皇子シュートルは宴でもたくさんの人に囲まれ、少々疲れていた。

ナルニ王国はこの大陸一恵まれた国であったはずなのに、近年異常気象や流行り病などで国力が下がり、帝国へ助けを求め協定を組むことになったのである。

しかし歓待の為に注がれる酒のグラスに口をつけていたらだいぶ酔いが回ってきた。その頃合いになると、ナルニ王国の妹姫がシュートルにまとわりつき少し辟易したのだった。

妹姫を妻にあてがい、協定をナルニ王国の条件の良いものにする思惑が読み取れる。

酔いざましのためにと一旦パーティー会場から離れることにした。人払いをさせて、側近のライナーと王宮の庭園に降りたっていた。美しく調えられた庭園の奥まで歩く。今後の協定の話し合いの進め方を話し合わなければなるまい。


しかし庭園の少し離れた向こうに白い人影が見えるとあって警戒した。だがシュートルはライナーが引き留めるのを聞かずその人影へと近づいた。

まるで今その人に会わなければ一生を後悔しそうなほどの焦燥感にかられ、庭園の花を愛でるその後ろ姿に声をかけた。

銀の美しい髪のその人は、びくりと身体を揺らし驚いた様子でこちらを向く。

お互い一目惚れであった。

シュートルはこの人に会うためにナルニ王国に来たのだと感じたし、クリスティーンは優しさを滲ませた金色の瞳に囚われた。


シュートルは半月ほどのナルニ王国の滞在を一月半に延期し、クリスティーンを妻とするべく奔走した。

ナルニ王国の貴族たちからは虐げられた姫との婚姻を反対され、国王や王妃からは妹姫を娶ってくださいませと懇願された。

しかしクリスティーン以外を娶るなどできるはずもなく、半ば強引に純潔を奪った。ジャルカ帝国の跡継ぎが腹にいるかもしれないと最短日程でナルニ王国での婚姻式まで行い、正式にクリスティーンをジャルカまで連れ帰って来たのだった。


あれよあれよと言う間にクリスティーンは幸せを手に入れた。

すべては純潔を奪ってくれたシュートルのお陰だ。

つまりは今宵は初夜であるが、何度かシュートルに身体を預けたことがあるのでそこまでの緊張はなかった。


ドアがノックされたのでどうぞと応えた。

初夜の準備に侍女らが戻ってきたのだと思ったのだ。


しかしそこに立っていたのはシュートルであった。

シュートルは妻となったクリスティーンの輝く髪に見とれた。

まるで月の精霊のような妻を娶れたことに歓喜した。

あぁと息を漏らす。

クリスティーンの側まで足早に来たシュートルは彼女の透き通る肌に触れた。肩先から鎖骨にかけて指先でなぞるように…そこにはシュートルが送ったダイヤのネックレス。彼女の慎ましやかな美しさが際立つように、一粒だけダイヤのついたネックレスはドレスに似合っていて。全てはシュートルがクリスティーンを手に入れた証かのようであった。感極まり抱き締める。

「あの日、出会った日の貴女も月に照らされて、まるで月の精霊かと見間違うかのような美しさだった。私の妻となってくれてありがとう。貴女を幸せにすると誓うよ。」

ぽそりと耳元で呟く。

その時クリスティーンの肌に朱が入った。

何度か身体を繋いだが、クリスティーンはシュートルの甘い囁きに弱いようですぐに朱くなった。そこもシュートルの気に入っているところだ。

クリスティーンはコクりと頷いて「二人で幸せになりましょう」と微笑んだ。



ふと、手に持っていたストールを思い出した。

ナルニ王国でクリスティーンを妻にと願い出たとき、妹姫をあてがわれそうになった。

クリスティーンは虐げられていたことも気づいていたし、妹姫などシュートルがいる前であろうとクリスティーンを馬鹿にした態度を取ったため腹立たしかった。

帝国の皇子の花嫁に対する不敬を理由に婚姻祝いと称し国宝級のお宝を出せとナルニ王国に要求したところこのストールを出してきたのだった。

何でも数百年前の建国創世からの国宝で、国の宝の中では一番に価値があるとのことだった。


最初は国宝がストール等と、虐げた姫を帝国に嫁がせる婚姻祝いに国宝など渡すのが惜しくなったかと思った。馬鹿にしていると思ったが、実際にストールを手に取ると素晴らしい逸品であることはすぐわかった。確かに国宝と謳われることのあるものだ。キラキラと煌めく生地はどこの国を探してもないだろう。

艶やかであり、キラキラしい、このストールをクリスティーンが纏ったら、さぞかし美しいだろうと受け取ることにしたのだった。


そして今宵は月が美しい。あの出会った日のようだ。

「貴女の国の国宝だそうです。まるで今宵のために誂えたようだ。貴女が纏ったらさぞかし美しいでしょう。」

そう囁きながらシュートルはクリスティーンの肩にストールを掛けた。


するとどうだろう、クリスティーンの透き通るように美しい肌は本当に透き通るようにキラキラと輝き出した。ふうわりとした浮遊感を感じた後、眩しいほどの光が辺りを包む。

目が眩んでクリスティーンから一歩後ずさってしまった。

光が止み、はっと目を開いたシュートルの目の前には、先ほどまでクリスティーンが身に纏っていたドレスやネックレスが床に落ちていた。クリスティーンと国宝のストールだけがまるで掻き消えたかのように忽然と居なくなってしまったのである。


シュートルはそこで気づいたのだった。彼女は本当に月の精霊だったのだと。

ストールを手に入れたことで、月の世界に帰って行ってしまったことを。


皇子夫婦の部屋からまばゆい光とあって、衛兵たちが部屋に駆け込んできたが、そこには花嫁が纏っていたドレスを抱き締めながら涙を流す皇子の姿しかなかった。

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