ヤモリ・カエル系男子に癒されてみませんか?
今日は休日だったが、急遽出勤することになった。
職場の実質NO2で、コロナ禍によって瀕死の状態となった会社をぎりぎりで支えてきた上司が急死したのだ。
前触れはなかった。先週まではぴんぴんしていて、いつも通りだったのに。
歳が離れていることもあって、特別に仲が良かったわけでもないけれど、彼女は仕事も出来て気遣いも出来るムードメーカーだった。
入院したと聞いた時は、疲労がたまっていたのだろうと誰もが思っていたが、実際は治療法が無い原因不明の難病だった。血液が造られなくなるらしく、突然発病して、一時は落ち着いたのだが容体が急変してそのまま帰らぬ人となってしまった。50代になったばかりの早過ぎる別れだ。
もちろん悲しみはある。
でも、彼女が抜けた穴はとてつもなく大きい。
悲しんでいる気持ちの余裕も会社の余力も……無い。
とにかく今を乗り越えなくては明日がやってこないことだけは確定している。
出来るかではなくて、やらなければ終わるのだ。
仮にこのピンチを乗り越えられたとしても、彼女抜きでは会社の未来は暗い。
そもそもの話、今後変異種の影響が広がれば、私たちの必死のあがきなど、それこそ嵐に骨だけの傘で立ち向かうようなものなのだが……。
そんな暗鬱でやりきれない想いを抱えながら電車に乗ると、久しぶりに……居た。
ヤモリ・カエル系男子だ。
もちろんそんな言葉はない。私が造ったからだ。
彼らは主に電車の開閉扉の付近に生息している。
ガラス扉に、まるでヤモリやカエルのようにピタリと身体をくっつけている。
これまでの私の研究によれば、中高年男性率が異常に高い。
ならばヤモリ・カエル系おじさんと言いたいところだが、私からの心ばかりの配慮だ。感謝はいらない。
きっと淋しいのだろう。やりきれない不満や哀しみを扉に押しつけているのかもしれない。そう思えば、可愛らしく見えてくるような気がしないでもない。
真意は藪の中だが、身体はともかくガラスに顔を押しつけるのはやめて欲しいとは割と真面目に思う。
顔の形にべったり脂が付くのは、ちょっとしたホラーなのだから。
上位種のヤモリ・カエル系男子ともなれば、扉と濃厚なキスをしている。
そこに迷いや躊躇いは感じられない。他のヤモリ・カエル系男子と間接キスかもしれないのに良いのだろうか? まさか……これが噂のBLという奴なのか?
ガラスに唇の痕が付いているのは、かなりのホラーだ。公共物に何をしてくれているのだ。
おそらく彼らは少年の心を失わないまま大人になったに違いない。
幼き日のガラスに貼りついて車窓を眺めたあの頃の温かい記憶にすがろうとしているのかもしれないね……。
私は微笑みつつもスッと扉から距離をとる。可愛いとは思うが、それと触れられるかは別問題。
扉の脇にある柱にはカメレオン系男子が生息していることを知っているので、そこにも触れることができない。
ああ……電車の中に触れられぬ聖域が増えてゆくが、電車内は現代人にとって貴重な癒しの空間だ。私だけ贅沢は言えない。
さあ、仕事を頑張ろう。
ヤモリ・カエル系男子に少しだけ癒されて電車を降りる。
ちなみに私はイモリやカエルのお腹が好きだ。
透明なガラス越しに彼らのお腹を眺めていると時を忘れてしまう。
え? ヤモリ・カエル系男子のお腹? ふふふ、ノーサンキュー!!
ええ、こんなん書いてないとやっていられないのです。
みなさまも探してみてね~!!