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くせぇラーメン

作者: 犬三郎

 俺のダンボールだらけのせめぇアパートの一室に集まった、3人の友達。男臭いこの部屋で、少し皆と喋り、夜ご飯の提案を俺がする。


「なあ、近場のラーメン店、行こーぜ」


「は? 最後の飯が……ラーメン? おま、そりゃあないわ」


「それは同意……。マジで意味不なんだけだ」


「最後は肉だろ肉!」


 ザッ普通人間の俺、(はじめ)、オシャレ番長で来月から舞台に出演するかっこいい(ひかり)、冷静で、大分毒舌の(せい)、熱く、暑い。年中半袖短パン、那覇(なは)

 俺達は同じ大学で同じ学部で、同じゼミ。毎日顔を合わせ、次第と仲良くなっていった。


「考えろ、”オーディン”。俺達が積み重ねてきた食道の最後がラーメン? 馬鹿言えよ」


「食道円卓1の掟! 集合場所の家主がその日、食う飯を決める! これに従わない奴は切腹だぞ?」


「……だからライトは言ってるんだよ。最後の飯だよ? 僕達最後の。いいもの食うと思って僕達、5万も持ってきんだよ? 馬鹿かてめぇわ」


 俺達4人が遊ぶ時は何故か飯が目的。週に2回、誰かの家に順番に集合し、その家主が夜飯の案を出し、食べに行く。

 沢山の食べ物を食べてきた。4年間で。泣きながら食ったことがあった、中華料理。美味しすぎて、取り合いをした焼肉店。高すぎて、お金を下ろしにいったフレンチレストラン。食べた後は直ぐに解散、それぞれ家に帰り、電話で感想を言い合う。


 その場で言えばいいとか、そういうのは何故かやらない。馬鹿な集団だ。そして——


 ———明日


 明日で皆に当分会えなくなる。俺は実家の山形へと帰り、ライトは東京に残り有名俳優をめざし、ポイスーは北海道へ料理の修行に、ホットマンは那覇へ、スキューバダイビングのインストラクターに。


 全国各地に皆行っってしまう。皆忙しくなって、会えるのは少なくても1年後。


 だから、最後はとっておきの美味しいもんを食べると皆意気込んで俺ん家に来たらしいが——


 俺は最後に食いたいもんがある


「あ、そういうことか。もしかしてオーディン、福岡までラーメン食いに行くとか言うんだろ? そっかー、それなら良いぜ。徹夜して帰ってくんだろ? 前もあったしなそんなこ——」


「何言ってんだよ。皆、明日早く出発するのに行くわけねぇだろ」


「え、マ?」


 ライトは顔を引き攣り、本当に近場のラーメン屋行くの? っていう顔をしている。

 俺は財布だけをポケットに入れ、立ち上がる。そうすれば、マジで行くの? っと再度目線で言われた。


「ほら、行くぞ」


「おい! 本当に行くのかオーディン!?」


「ホットマン……お前もラーメン好きだろ? だったら、いいじゃんか」


「いや、好きだが……最後が…………ラー……メンか」


 皆、渋々俺についてくる。気持ちは分かる、最後にラーメン。皆、何処に行くかって楽しみにしてたのも知ってる。

 大学最後の俺たちの飯だからな。


「なあ、やっぱり僕が提案していい? 僕達の最後がラーメンって死んだ方が——!」


 ポイスーがアパートから少し歩いた所で止まり、ポイスーが似合わない大声で俺に訴えかけてくる。


「だから、食道円卓1の掟破ったら切腹だからな」


「だって…………最後なんだよ! オーディン! 最後なんだよ!?」


「俺もポイスーに賛成だ! オーディン、考え直せよ」


「俺も! 最後は! もっと豪華にしようぜ!?」


「はいはい。ほらそんな大声出すなよ、近所の人になにしてんだよって言われちまう」


 俺は適当に受け流す。皆が不機嫌で、やるせない顔に目もくれず歩いていく。初めて、初めて飯屋に行く道で無言になり、10分間歩く。

 足音と車の音、人の声。それだけが俺たちの耳に聞こえる。目がなかったら、皆が居るって分からないだろう。


「うーん、匂ってきたな」


 目指しているラーメンの近場になり、鼻にこびり付く、くせぇ豚骨の匂い。


「まさか、お前……ここか?」


「ああ、そうだけど?」


 皆の驚きに満ちた顔。覚えてる奴がいるかって言われたら、多分みんな覚えてるんだろうなっていう、感覚。


「さあ、入るぞ」


「いらっしゃいませー!」


 汚ぇ店の扉を横にガラガラと開け、中に入ると汚ぇなと思う。そして、嗅覚を外よりもっと刺激する豚骨の匂い。昔、初めて4人でこの近場で飲んだ時、この店の匂いで吐いた奴が——


 4人


 全員が吐いた。苦い記憶と、絶対にこの店のラーメンは食わねぇっていう固い意思が根付いた。俺達は4人席の壁際のテーブルに座り、俺が注文いいですか? っていうと若いオネェちゃんが早歩きてきた。


「とんこつラーメン大盛り、4人前で」


「とんこつラーメン大盛り、4人前ですね! かしこまりましたー! とんこつラーメン大、4でーす!」


 また初めての無言。飯屋で無言になるのは初めて、ちらほらいるお客も俺たちのことを不思議に思い横目で見てくる。

 そして、5分後。不機嫌で、壁を見つめたり、注文表を見たり、おしぼりで遊んでた奴らの目の前にラーメンがくる。


「お待たせしました。とんこつラーメン大盛りです」


 店内がこんなにくせぇのに、このラーメン……絶対にくせぇぞっていうのがもう分かる。

 山盛りのモヤシに、キャベツ、そして横幅が大きいチャーシューがモヤシ側面に置かれている。


 ———ゴクンッッ


 っと唾を飲み込んでしまう。くせぇのに、くせぇのにヨダレがドバドバと出てくる。それぞれすぐに箸を取り、パキンっと割りまずは、もやしと器の縁の間から中太麺を取る。中太麺が濃いスープを絡め取り、ズルズルと音を立てながら口に入れる。麺をかみ直ぐに飲み込む。間髪いれずに次はもやし。スープに浸し、口に入れる。シャキ、シャキと鳴るもやしとスープとの相性は抜群。くせぇのにこのくささが癖になる。

 次はスープにつけた、もやしとラーメンを一緒に口に入れる。


 もやしの食感と合わさり、次々と食べてしまう。


「キャベツ美味……」


 もやしだけじゃない、キャベツもいる。もやしからキャベツに箸を移し、スープに浸して食べる。

 もやしと違く、野菜自体の甘みと濃いスープとが合う。そして、白飯が食べたくなってくる。


「ご飯、いるやついる?」


「…………いる」


「僕も……」


「俺も……!」


「すみませーん! ご飯、4つ、大盛りくださーい」


「はーい!」


 白飯が来るまでにチャーシューを温存。もやしとキャベツと麺を食べ進み、1分後白飯が来た。

 皆、直ぐにれんげでスープを掬い白飯にかけ、れんげでご飯をかきこむ。


「うま」


 誰かが漏らした言葉を皆で、微笑みながら、またご飯を食べる。今度はチャーシューを乗っけて、食べる。チャーシュー、独特の味がご飯とマッチし、またご飯が進む。


 それを永遠と繰り返し、気づいたら完食し、完飲し、店を出ていた。


 全員が去り際、店員に———


 ———すげー美味かったです


 っと一礼し、笑顔でありがとうございます! という店員を見ながら店を出る。いつもなら、みことふたこと会話し、帰って電話。

 なのに俺たちは店の前で、人目を気にせず大声で笑う。


 そして、次には———


「「「「くせぇ!」」」」


 ゲラゲラと笑い、笑いすぎて涙が目に浮かぶ。くせぇのにあんなに美味いのかって。くささが全部、さっきまでの気持ちを消してくれた。


「やっぱ、オーディンが勧める店ってどこも外れねぇよなー!」


「だろ? 美味かっただろ!?」


 まだ笑いの余韻があり、笑っていた時間が30秒。いつもなら、じゃあまたなと言って帰るところ。

 なのに、いつも直ぐ帰りたがるポイスーがまさか”海”に行こうぜなんて言うなんて。


 3人は顔を合わせ、また笑ってしまった。また不貞腐れるポイスーをなだめ、4キロ先の海まで——歩くことした。

 そこでいろんな話をした。今まで食ってきた中で1番美味しかったのはどこか、もちろんくせぇ店は今の店。

 他にはホットマンが彼女を連れ、俺たち含め5人で飯を食った次の日に振られ大爆笑した日とか、ライトがオーディションに何回も落ちて、病んでた時とか。

 ポイスーが初めて、ご飯を作ってくれて、それがめちゃくちゃ美味しかったとか。


 1時間30分も歩いて、喋り尽くしたのにまだ喋れる。


 なのに、あっという間に海に着いてしまった。


 暗くて、月明かりが海に反射して、風が強くて、まだまだ寒い。俺達は海沿いの階段に腰かけ——


 また、無言になってしまった。無言の中で、ライトが夜空を見ながら口を開ける。


「そう考えると、俺達の名前もくせぇよな。仲良くなって間もない頃、皆が厨二病発症して、皆で考えた名前。ポイスーなんて、毒舌の毒とスモールのスをとった、適当な名前だし。ホットマンは、そのままだし。オーディンも、オーディナルをかっこよくしただけだし。それで、俺の名前が眩からライトって——」


 いきなり話を中断し、ライトは思いっきり階段をグーで叩く。


「おい! お前ら……泣くなよ!」


 無言になって泣いていた。泣いてしまっていた。


「俺も移るだろ……移っちまうだろ! 泣かねぇって暗黙のルール作ったじゃねぇか!」


「じらねぇよ! 最後なんだよ、僕達! 泣くだろ……! 泣いちまうだろ!」


 ———くせぇ


 またくせぇ。4人が鼻水を垂らし、目を真っ赤にしながら、涙を流す。暗いから、顔が見えなくて、だけど、どんな顔をしてるかってのは分かる。

 全員の泣き顔なんて沢山見てきた。だから、知ってるんだよ。


「あああああぁぁぁぁ! 楽しかった! 4年間!最高の4年間! 本当にありがとおおおぉぉぉぉ!」


 ———くせぇ


「俺もーーーー! こんな年中半袖短パンの変人だけどおおおぉぉぉぉ! 楽しかったあああぁぁぁぁ!」


 ———くせぇ


「俺もだよ! こんな病み体質の俺を! 友達だと誇らしげに言ってくれて嬉しかった! ありがとおおおぉぉぉぉ!」


 ———くせぇ


「僕も! こんな関わりずらい奴だけど! お前らと友達になれて! マジで! 本当に! よがっだあああぁぁぁぁぁ!」


 ———くせぇ


 くせぇけど素敵で、それを経験したら、あのラーメンのように良かったとしか言えない。


 最高で最強で1番くせぇ4年間。涙無しには語れない4年間。


 本当に心の底から——


 くさかったな




読んでくださりありがとうございます。くせぇなって思ったら評価お願いします。


それにしても、このラーメンのくせぇの分かる人いるかな? ラーメン好きしないと分からないと思います。悪口ではなく、本当にくさくて本当に美味しいんですよ。

マジでやばいところはやばいですが……


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