夢か、現か、幻か
はじめまして。そして、ありがとう。君には感謝しなくてはならない。なぜなら、君が読んでくれないと、俺は存在できないからだ。
……俺は誰かだって? それは、これから始まる物語には関係ない。強いて言えば、案内人といったところだろう。だが、俺がこうして出てきたのは、君に感謝を伝えたかったからだ。
この世界には無数の物語がある。それを一生の内に全て読み終えることはできない。時間は有限だからね。その点で言えば、世界は平等だと思うよ。老いも若きも男も女も……一日は二十四時間だ。もっとも、些細なこと……たとえばお金の有無によっては、同じ時間でも使い道が異なるじゃないかと指摘されたら、その通りだと頷かざるを得ない。平等とは、儚いものだね。
……おっと、話が逸れてしまった。でも勘弁してくれ、本当に嬉しくてね。誰にも読まれない物語ほど、悲しいものはない。無名の書き手の物語なら、なおさらだ。
いつまでも君とこうしていたいところだけれど、それでは話が進まない。そろそろ、物語の扉を開くとしよう。俺のことは忘れてもらっても構わない。俺はただの案内人だからね。……まぁ、覚えていてくれたら、嬉しいけれど。
――それでは、始めようか。