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第7話 シルビア・ハミルトン嬢と言うひと

「まあ、皆さま、楽しそう」


ジャックに会いたがっていた急先鋒のシルビア・ハミルトン嬢がモンゴメリ卿に話しかけた。


「それで? ハミルトン嬢は、実物のジャックを見てどうお思いになられたのですか?」


「ちょっとかわいそうかしら。そんなこと言われるときっとお嫌でしょうけどね」


彼女は微笑んだ。


「でも、あなた方が騒ぐから、彼は嫌々ここへ来なくてはならなくなったのですよ?」


ほんとは来たくないのに、とモンゴメリ卿は心の中で付け足した。


シルビア嬢は、あでやかな顔をモンゴメリ卿に向けた。


「ふふふ。いいんじゃございません? いつまでも、引っ込んでいられるもんじゃないでしょう?」


「あなた方、女性はなかなか残酷だな」


「社交界に戻るのは時間の問題でしょう。私、ああやって心から夢中になる方、好きですわ」


モンゴメリ卿は傍らのシルビア嬢を、本人には悟られないように横目で眺めた。


シルビア嬢は、もう行き遅れと言っていい年だった。


ジャックを狙うには年を取りすぎてると思うがなあと、モンゴメリ卿は内心で考えた。


目の前の小柄で品のいい女性が目尻にシワを寄せて楽しそうに笑っているのを見ると、彼はイライラしてくるのだった。


もう三十は回っているのだろうけれど、とても美しい女性だった。

容姿だけではない。彼女のなにかがモンゴメリ卿をかき立てるのだ。


早くに母を亡くし、大勢いる弟妹の面倒を見なくてはならないからといつも縁談を断っていた。だが、結婚する機会にはこと欠かなかったはずだ。これだけの美貌とセンスの持ち主なのだから。


ただ、なにを考えているのか、いつもわからない。


「私のことを紹介していただけないかしら? モンゴメリ卿?」


モンゴメリ卿はちょっとむっとした顔をした。


「ジャックはもうたくさんなんじゃないかな?」


「じゃあ、最後の一人で」


ふふっと彼女に笑って見せられると、仕方ないなと言う気にさせられた。



「おおい、ジャック」


呼ぶとジャックはあっという間に令嬢たちに軽くあいさつすると、さっさとモンゴメリ卿の方へやって来た。逃げ出すチャンスだった。


「もう一人ご紹介しよう。これで最後だ。シルビア・ハミルトン嬢だ」


まだいるのか。ちょっとうんざりしながら紹介された女性を見た。


シルビア嬢は赤褐色のつやのある髪と夜明けの空のような灰色の目をしていた。


彼女はジャックに物柔らかに微笑んだ。


「ジャック・パーシヴァルと申します」


ジャックにしてはつっけんどんな言い方になってしまった。


「シルビア・ハミルトンですわ。よろしくね」


目は口ほどにものを言うと言う。


シルビアの目は笑っていて、それまでジャックに付きまとっていた令嬢たちとは違う種類の興味を彼女が抱いていることにジャックは気が付いた。


「彼女を紹介すれば、私の役割は終わりだ。全く、女性の豊かな想像力には驚かされるよ。ジャックはジャック。変わりはないのにな?」


ジャックはようやく微笑んだ。


「とんでもない理由で人気を博しました。もうお暇させていただきます。先日の失礼はこれで帳消しにしていただければ……」


「でもね、ジャック、いつでも参加してくれていいんだよ。ずっとご無沙汰だったろう」


ジャックはため息をついた。


「男連中も君がいないのをさびしがっていたよ。フレデリックもダニエルも……」


あまりにも付き合いを途絶すると、かえってよくないのかも知れなかった。例えば、知らない間に妙なファンクラブが出来上がっていたりとか。

ジャックは変人になりたいわけではなかったので、また参加させていただきますと言って去っていった。二度と来るかとか、思ってはいたが。



「いい子ね。また、呼んであげてくださいな。次もガーデンパーティをなさるでしょ? もっとお話してみたいわ」


「ジャックよりあなたはだいぶ年上でしょ?」


モンゴメリ卿は言わずにはいられなかった。とても失礼だと承知していたけれど。


「あら、いやだ。恋に年齢は関係ありませんわ」


モンゴメリ卿は不満そうだった。シルビア嬢は笑いだした。


「私は人間観察が好きなだけですの。モンゴメリ卿と一緒よ。誰が似合うかなあ……なんて考えているだけですわ」


「ご自分のことはいいのですか?」


「あら。だって、私が結婚する理由なんかありませんもの」


彼女はけろりとして言った。


「子どもは大勢いるのですよ? 弟や妹たち、みんな私の子どものようなものですわ。孫までいるのです」


それに彼女にはお金だってあった。自由に動かせる財産があれば、無理をして結婚することはない。弟妹達は優秀で姉を尊敬し、頼りにしていた。


夫がいなくても、彼女の世界は完結していて、幸せそうだった。


そんなことはあるはずがないとモンゴメリ卿は疑っていたし、許されることではない、と思っていた。

これほどまでに美しいご婦人なのに。もったいない。


「ふふ。ご不満そうね。でも、本当のことですのよ?」


彼女とは、彼女のデビュータントの頃から顔見知りだった。だが、パーティに呼んでも、今回のようにジャックのファンクラブへのお披露目などと言うイベントがない限り、なかなか参加してもらえなかった。


「今日は面白かったわ」


ハミルトン嬢はとても楽しそうに言った。その顔を見て、モンゴメリ卿は思わず言ってしまった。


「次の会にもジャックは来ますよ。それから、新顔ならシャーロット・マッキントッシュ嬢がきます。いろんな新しい方をお呼びするのが好きですから」


「あら。ぜひ、参加させていただきたいわ」


よし。

どんな手を使ってでも、ジャックを呼ぼう。モンゴメリ卿は決意した。

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