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第2話 対抗馬をゲットせねば

デビュー初日にして、対抗馬をゲットしないと婚約の危機に陥ったシャーロットは、割と悲惨だった。


そんなに簡単に結婚申し込み相手をつかまえられるわけがないではないか。


「従姉妹のカーラに一緒に行ってくれるように頼んだわ。付き添いなしで行かせるわけにはいきませんからね」


「え? カーラと一緒?」


シャーロットはカーラが嫌いだった。



カーラは、正確には父の従兄弟の子どもだった。

シャーロットより、5つほど年上だろうか。


最初に会った時、カーラは両親と兄と一緒だった。

シャーロットは幼い頃からかわいい子どもだったが、カーラはどう見ても平凡顔だった。


弟のジョージはシャーロットとそう年は変わらなかったが、シャーロットが気に入ったのかつきまとってきた。


カーラの両親はその様子を見てまんざらでもなさそうだった。


「いいわね。もし、マッキントッシュ家とご縁ができたら」


彼らは親戚の特権だと言わんばかりに、マッキントッシュ家の使用人たちに顎で使って、食事や飲み物を持ってこさせていた。


「ああ。そうなれば貧乏暮らしとはおさらばだな。婚約だけでも出来れば、カーラにも立派なデビューをさせてやれるんだが」


子どもなので、意味を完全には理解できない。

しかし、シャーロットは、親戚だと名乗るこの一家がなんとなく気に入らなかった。

ジョージはしつこいし、姉のカーラは気のせいか悪意的だった。


その後、カーラ一家がマッキントッシュ家のパーティに来ることはなかった。

幼いシャーロットには忠実な侍女が付いていた。子どもだと油断して話していた内容は全て両親に筒抜けだったらしい。当然、呼ばれなくなったのだろう。


ただ、カーラは年が近い親戚の女の子ということで、稀に呼ばれて会うことがあった。


だが、シャーロットとしては、カーラを歓迎したくない理由があった。


「ねえ、これとこれ、交換しない?」


彼女は来るたびに、自分の持ち物と、シャーロットの部屋に置いてある、カーラが目を付けた物との交換を持ち出した。


交換は断りにくい。そしてカーラは執拗だった。その上、カーラは五つも年上なのだ。六歳のシャーロットは十一才のカーラに勝てなかった。


結局、いつもシャーロットはお気に入りのリボンや、髪飾り、時にはショールなどの高価な物も、カーラが持ち込んだ洗いざらしのハンカチや中身がはみ出た古いクマのぬいぐるみなどとの交換に応じざるを得なかった。


母に訴えても、曖昧に笑って「まあ、いいじゃないの」の一言だった。


後になって考えると、カーラの家が貧乏だったことを母はよく知っていて、お土産代わりに持ち帰らせたのかもしれなかった。あとで必ず、持ち帰られたものより高価な物を買ってもらえたが、気に入りの物を取られてしまうシャーロットはカーラが怖かった。


シャーロットは子どもなので、二人きりになるとカーラの思うがままになったが、口さがない女中たちはそうはいかない。ひそかに、陰口をきいていた。


「あの貧乏娘」

「お嬢様の物を持ち帰って! 泥棒だわ」



「ちょっと! 使用人のしつけがなってないわ!」


シャーロットはきょとんとしたが、カーラは怒鳴って、シャーロットにつかみかかった。




「あのカーラか……」


確かに5つ年上の親戚の女は、こんな場合の付き添いならもってこいだった。

母親が付いていては、若い男は話しかけにくいかも知れないが、カーラなら大丈夫だろう。それに5つも年が離れていれば、社交界での経験も十分なはずだ。シャーロットに悪い虫がつかないように監視してもらえる。


「さあ、急いで! とにかくいってらっしゃい」


カーラはどれくらい子どもの頃の話を覚えているだろう。


シャーロットがカーラが来るのを泣いて嫌がるようになったので、それ以来カーラはマッキントッシュ家に呼ばれなくなった。5年も前の話だ。




「まあ、シャーロット、大人になったわねえ」


カーラはシャーロットの衣装を上から下までじろりと鑑賞した。

シャーロットは黙ってカーラを見た。


5年ぶりだった。あまり変わっていないなあと思う。


こげ茶色の目と黒のくせ毛、ガッチリした顔立ちは変わらなかった。相変わらず筋肉質で肉付きがよく、女性なのだがたくましい体つきだった。


そして、なんとなく中年感がすごい。シャーロットと並ぶと姉妹と言うより母子のように見える。


マッキントッシュ夫人は安心して微笑んだ。

いかにも頼もしい感じがする。ふさわしくないチャラ男など、一瞬で蹴散らしてくれるに違いない。


シャーロットは無理矢理微笑んだ。これから一緒に出かけるのに、カーラのご機嫌を損ねたくない。二人は馬車に乗りこみ、マッキントッシュ夫人は、馬車の窓越しにカーラに声をかけた。


「どうぞよろしくお願いね」


「もちろん!」


カーラはにこやかに答えたが、馬車の中では一言もしゃべらなかった。

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