俺「が」追放する!!!!!
「おまえたちを追放する!!!」
仲間たちの前で、勇者である俺は声を大にして叫んだ。
「ちょいちょいどういうことセイシュっち?」
「たった一人ならともかく、全員って意味が分かりませんわ」
「それじゃおまえ、これから先が困るだろ」
盗賊のリヒターから順に、エルフの弓使いアンリエッタ、オークの戦士ザブザが反応する。
バシーン!
騒ぎを耳にした酒場の客たちからの視線が集まってくるが、俺は世間体を気にすることなく机を思いっきり叩いた。
「えっえっ? な、なに?」
「なにじゃねえよ! このスットコドイども!」
戸惑う仲間たちへ、俺は溜まっていたもの全てぶつける。
「まずリヒター!」
「お、おう。なんだいセイシュっち?」
「おまえは色々とテキトーすぎる」
「そうかな~? 一般常識の範囲内だと思うけど~」
「そんなわけねえだろ!」
「ひぃっ!」
もう一度バシーンと机を叩く。
ビビったリヒターに俺は畳みかける。
「買い出しさせたら、必要ないものばっかり買ってくる。見張りを任せたらほとんど寝てる。あとこの前のダンジョンの時、何度、道を間違えた。そのせいでモンスターハウスに入ったり罠にかかったり。しかもおまけに地図そのものを間違って買ってきていたし」
「いやー、ものってじっくり見てたらほしくなるものって多くて。ほら、この壺もカラフルでいいっしょ? あと左と右って字似てるよね?」
一年は遊べる金で買った製作者不明の壺を見せびらかすリヒター。
駄目だこいつ反省するつもりすらねえ。百歩譲って大量にミスするのはいいが、それだけは許せねえ。
「はー。これだから盗賊なんて下賤な人間は駄目ですわ。だからわたくしと違って、追放なんてされますのよ」
「いやおまえも追放だからアンリエッタ」
「ええっ!?」
マ〇オさんみたいなリアクションをするエルフ。美人なのに、まったくもって魅力を感じられないのはそれだけではないだろう。
「ど、どういうことですのセイシュさん? なぜ優秀で高貴なハイエルフのわたくしがそんなことをされないといけませんの?」
「そういうところだよ……」
アンリエッタはあまりにも価値観がエルフ過ぎた。
戦闘中なのに、お祈りの時間だと攻撃をやめて祈祷を始める。武器が壊れても補給すればいいのに、エルフの教えだからと修理すらせずに置物になる。挙句の果てには、村を救ったことを祝ってくれた住民たちにあれしきのモンスターを倒した程度で喜ぶって人間ってほんとに貧弱種族ですわねと差別発言。
自分に正義があると思っている分、リヒターとはまた別の意味で厄介だった。
だってほらこのように説明しても――
「それのなにがいけませんの?」
「はい追放」
「がははは。それじゃ達者でなお嬢ちゃんとチャラいの。これから寂しくはなるが、しばらくは男二人旅で気楽にゆくかセイシュ」
「だからおまえもだっつーのザブザ!」
「ええっ!?」
またしてもマ〇オさん風。なに? 流行ってるのこの世界でも? というかなんでうちの仲間みんな自分は違うと思っているの?
ザブザは不満を露にする。
「納得いかん」
「まあザブザっちはねえ」
「ザブザさんは納得ですわ」
リヒターとアンリエッタが同意する。満場一致の追放に動揺するザブザ。
「おいどういうことだ貴様ら!?」
「こいつらでも分かるくらい、おまえが一番の問題児なんだよ……」
「そんなことはありえん。ワシはこいつらと違って戦闘中もサボらないし、買い出しも間違えんし、求められた役割に徹している」
「仕事はよくやっているよおまえは。だがプライベートがな……」
「そこまで口出しするのか!? このパワハラ上司!」
「物事には限度ってものがあるんだよ! 見ろこの紙! おまえのセクハラの被害届だ!」
おれは町民の名前が書かれた巻物を投げつける。
女性のもあるが、それ以上に住民男性の八割がそこに刻まれていた。
「金は与えるんだから商売女で我慢してくれよ。なんでNTRするんだよ……」
「がははは。これも男の器量ってもんよ。道を歩けばそこらに女がいる。ならば口説かなきゃ失礼ってもんよ」
「わたくしから一キロ以上離れてくださいましこの性獣」
「がははは。その前にヤラセてくれ」
「死ね」
ピュン
冷たい声ともに、いきなり放たれる矢。ザブザは弾くと応戦して、斧を振るう。
「いぎっ!」
「あっ、すまんなチャラい小僧。呑み過ぎて手元が狂ったわい」
「ふざけんなよクソ豚親父!」
「声をあらげないでくださいクレイゴーレム」
「だからこの焼いた肌はオシャレだっつーの!」
ふたりの喧嘩にリヒターも加わって、店内は大騒動となる。
こういうのが一番嫌なんだよ……
性格に関してもそうだが、なによりも俺がこいつらを追放したかった理由はこの仲の悪さだ。オークとエルフは天敵同士だから仕方ないとも言えるが、だからといってこう毎日毎日喧嘩に付き合わされるのはごめんだった。
なんで人類の敵に立ち向かおうとするのに、人同士でイザコザを起こすんだ?
いくらこの女神の指輪にこいつらが仲間に相応しいとされてるとはいえ、俺にはもう耐え切れない。
元仲間たちを置いて、俺は町から独りで去っていった。
三か月後
「ギャハハハ。貴様の力はこの程度なのか勇者よ!」
「くっ」
四天王のひとりバルザを相手に、俺は苦戦していた。
強すぎる。こんなのがあと三人もいるだと。
あまりの絶望感に思わず、つい膝を屈しそうになってしまう。
「じゃあ次はあいつらだな」
「やめろぉおおお!」
バルザの指から飛び出た光線は背後の村へ襲い掛かる。
俺は光線に追いついて、腕を当てた。するとたちまちに剣も利き腕も石になってしまった。
「勇者様!」
「バカなやつでえ。もしあいつらを犠牲にする覚悟があったなら、おまえの実力ならオレを殺せたろうに」
悲鳴をあげる村人たち。バルザは石化した俺を嘲笑してくる。
分かっている。俺だけの力じゃ、みんなを守りながらこいつを倒すことが難しいなんて。だけどそれでも――
バルザの言葉に絶望する村人たちの前で、俺は石の剣を構える。
「――それでも絶対に誰ひとりとして見捨てはしない! 俺は勇者なんだ!」
「青っちょろいことぬかしやがって。どれだけおまえだけが強かろうが、たったひとりじゃやれることには限界があるんだよ」
「その通り」
俺もバルザも、崖の上を見上げる。
「誰だおまえらは!?」
唐突な集団の登場に、狼狽えるバルザ。
弓を持った彼女の俺へ手をかざして光を差すと、石になった部分が元に戻っていく。
「どういうこ――」
再び石化魔法を放とうとするバルザの口がロープ付き投げナイフで捕縛される。
ピンチだったはずが、一転してチャンスに変わった。
起死回生をさせてくれた助っ人を見上げながら、俺は口を開く。
「リヒター、アンリエッタ、ザブザ。おまえたち、なんでここに?」
一度は追放し、袂を別ったはずの彼らが俺の危機を救ってくれた。
誰しもがキョトンとしたあと話しかけてくる。
「おいおい寂しいこと言ってくれるなよセイシュっち」
「ワシらは仲間じゃ! たとえどれだけ嫌がろうが、おまえが困った時には手を差し伸べる!」
「……でも俺は、おまえに随分とひどいこと言って」
「エルフだって一度や二度は過ちを起こしますもの。下等な人間のミスなんていくらでも許してさしあげますわ」
「みんな……」
「それじゃ感動の再会も終わったことだし、さっさとこいつを片付けるか」
バルザは無詠唱ながらも最大級魔法を行使し、石の要塞で自らを囲んでいた。
俺ひとりじゃそれを壊すだけで体力の底が尽いてしまうであろう鉄壁の守り。
崖から飛び落ちたザブザは、落下しながら斧を振るう。渾身の一撃は軽々と要塞を砕いた。
「いけ」
ザクッ
結果が分かっていた俺は事前に駆けこみ、丸裸となったと同時にバルザの喉元を白刃で貫いた。テレポートで逃走をしようとしたバルザだったが、悔いを呟きながらその場で絶命する。
自分たちの故郷が救われ、村人たちからは歓喜の声があがったた。
彼らの感謝の言葉を受けながら、俺は元仲間だったはずの追放者たちに歩み寄る。
「ありがとう。みんなのおかげだ」
「ふんっ。劣等種族の人間に褒められても嬉しくありませんわ」
「林檎みたいに照れてる~アンリエッタっち~」
「がははは。ワシらは普段は仲が悪いかもしれんが、ピンチになったらこの通りよ」
その通りだった。
俺だけじゃなく、みんなの協力で得た勝利。たったひとりじゃできないこともあるかもしれないが、この仲間たちと一緒なら絶対に世界を平和にすることを成し遂げられるはずだ。
反省した俺は追放の件を謝罪して、再び仲間に誘おうとするが――
ダダダダダ
突然、村人をかき分けながらこちらに走ってくる集団が現れた。どうやら服装を見るかぎり、全員が同じ団体に所属しているわけではなく複数に別れていた。
彼らが近づいてくると、あわあわと仲間たちは青ざめる。
「リヒターさん! この前のナイフの代金! あとその他諸々のツケをいただきにきましたよー!」
「アンリエッタ様! 数々の問題発言について裁判を行いたいと思いますから至急、最寄りの裁判所に連行させてもらいます!」
「ザブザ殺す!」
「おまえたちまさか。俺の知らないところでさらに問題を」
「逃げるぞセイシュー!」
一致団結で逃走を選ぶ三人組。
前方と後方に挟まれながら、俺は思いっきり叫んだ。
「やっぱりおまえたちは追放だー!!!!!」