第四話
小屋に戻るや否や、小虎は皿に置かれたままの魚をぺろりと平らげた。
それで満足したのか、何事もなかった様に部屋の隅で丸まって眠ってしまう。
こうなると当分は起きない。
そんな姿に苦笑して、晃はてきぱきと掃除と薪割りを済ませ、自分の食事の支度を始めた。
夕飯が出来上がる頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
一人分の食事は粗末な上に寂しいが、慣れてしまえば気楽でもある。
彼がこの小屋で一人で暮らし始め、三年が経とうとしていた。
もとは彼は山を下りた村の寺で暮らしていた。
父は分からず、母も自分を産んですぐ亡くなったそうで、寺の和尚様が引き取ってくれた。
厳しくて、優しい人であった。
そして和尚様のみならず、周囲の人の温かさに守られ、誰をも恨まず人並みに幸せに生きてきた。
あの時まではー。
「・・・あ、冷めちゃった」
つい昔のことを考えてしまった。
さっきの、あの不気味な影のせいだろうか。
頭を一振りして、冷めた味噌汁を喉に流し込む。
考えたって無駄なことは、元から考えないと決めた。
それが自分の生きる道だ。
和尚様も静安も、もういない。
あの影だって成仏したかは知らないが消えてしまった。
自分に言い聞かすように、敢えて声に出す。
「俺は、小虎といられればそれでいいんだ」
囲炉裏の火が揺らめき、室内を明るく照らしていた。
ふと、先ほどまで向かいで寝ていたはずの小虎が顔を上げた。
耳とひげをぴんと立て、まん丸い瞳でこちらをじっと見つめている。
「・・・どうした、小虎?」
聞きながらまた、とても嫌な予感がしている。
そしてこの予感には覚えがある。
『どこだ、ここは。・・・お前の住処か』
「・・・?!」
手から滑り落ちた椀と箸が、畳にぶつかり、跳ねた。
中身が空だったのが幸いだった。
「嘘だろ、おい。どうなってんだよ」
慌てて室内の隅々を見渡すが、あの影はない。
「何なんだよっ。あの地縛霊、ついてきちゃってるじゃないか」