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武士道復讐行  作者: 心鶏
決戦 曽根城編
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第五十六話 刀に乗る

 生百合うゆり戦角せんかくの死闘が始まった。

 生百合は静かな構えから、戦角の踏み込みを外側に蹴る。膝をつく戦角は、かまわず生百合に金棒を振り下ろすが、踏み込めていないため、生百合でも払える重さの打ちだった。金棒を刀で払い、戦角の顎を水平に打ちきる。

 鋭い打ちをくらい、満足げに笑う戦角の喉元へ、生百合は刀の柄で突きを放つが、片手で止められる。掴まれると思い、咄嗟に柄を引きながら刃で戦角の首を叩くが、同時に戦角の金棒が生百合の脇腹を捉えている。鬼の怪力に打たれた。全身が爆発してしまいそうな衝撃が襲うが生百合は踏み堪えた。肋骨は折れ、血を吐いてもなお、生百合は戦角に立ち向かった。

 攻撃を続けようとする生百合だが、それより早く戦角が頭を掴む。抵抗する間もなく、少し持ち上げられて、恐ろしい威力の蹴りをくらう。踏ん張りようがない生百合は飛ばされるが、民家に激突する前に受け身を取って、刀を構える。戦角は追撃のため、もうそこまで迫ってきていた。

 攻め抜かねば飲み込まれる。そう思った生百合は、体を襲うかつてないほどの痛みを無視して、戦角に向かっていく。呼吸はまともにできていない。全身は痛みのあまり震えている。本能は逃げろと言っている。だが殺意だけが生百合を動かす。

 踏み込もうとする生百合の足に、戦角が蹴りを入れる。生百合は膝をつき攻撃はできず、体制を崩す。山村やまむらの技であった。戦角は戦いの中で、生百合が使っている技を理解し、使ってきたのである。

 怪力やガタイだけではなく、技術までも兼ね備えた本物の強者である戦角が、無情にも生百合に金棒を振り下ろす。しかし、生百合は山村の技を習得しただけではなかった。それと同じだけ山村の技を受けてきたのだ。隙のない山村に比べると戦角の技は甘かった。生百合は反撃の隙を見つけ出した。

 振り下ろされた金棒を、低い体制のまま、刀を頭上で斜めに構え、受け流して金棒を地面に押さえつけると、体を翻し戦角の顎に、蹴り上げるような後ろ回し蹴りを決める。

 反応しきれなかった戦角はまともに蹴りをくらい隙を晒す。見逃さない生百合は、上体を起こして、刀を金棒からはなし、居合の要領で戦角の首を狙った。

 一瞬の内に、父との思い出が頭の中で何度も繰り返される。大好きだった父の姿が、声が、太刀筋がよみがえる。悲しみが、恨みが、怒りが、生百合の刀に乗る。全てがこめられた一撃だった。

 戦角は金棒で応じるのは間に合わないと判断し、片腕で応じるが、その一撃は凄まじく、腕ごと首の骨を折り、戦角の巨体は宙を舞い、受身も取れず地面に落ちた。

 戦角は満足した。鬼をも凌ぐ怪力、大雨のような太刀筋、龍が如く気迫。自分は最も強き者と戦い、負けたのだ。これほどに心地の良いものはない。戦角の孤高の強さを求めた一生が尽きた。

 生百合は黙って、城の中へ入っていった。


 外で生百合と戦角の死闘が繰り広げられている間、十字郎じゅうじろう千沙ちさは城の中で、阿之助あのすけを探していた。

 城の中には化け物はおろか人もおらず、二人は手分けして探すことにした。千沙は完全な当てずっぽうで城の中を行ったり来たりしたが、十字郎は阿之助が町の惨状を眺めていると思い、天守閣に向かった。天守閣の最上階に登り、ふすまの前に立ち、気づく。城内、城下を一望できるこの部屋から、人である十字郎でもわかるほどの妖気が溢れ出ていた。

 ここに阿之助がいる。そう確信した十字郎は盛大に襖を開いた。

「ようこそ、いや、おかえりかな?」

 だらりと座り、濃い煙のタバコをふかしている。領主 小取ことり 利久としひさ、本名を間久 阿之助。姿は知らないが、この男が阿之助なのだと、十字郎は生理的嫌悪感から確信した。

「俺の名は清水 十字郎!父の仇を討つため、お前を殺しに来た!」

 十字郎は部屋の中に入り、阿之助に向かってまっすぐに刀を構える。阿之助は立ち上がり、両手を大きく広げる。

「さあ、君が一番憎むべき相手が、目の前にいるんだ。殺しにおいで、城を取り戻しにおいで」

「阿之助!!!」

 阿之助が十字郎を煽り立て、ブチ切れた十字郎は怒りの叫びをあげながら、阿之助に斬りかかる。しかし、阿之助は黒い煙を吹きかける。十字郎の動きは止まり、痙攣が始まる。

 なんとか踏ん張り、立っている十字郎に阿之助は歩み寄り、語りかける。

「本当に正面から斬りに来るなんて。誰を相手にしているのか、よくわかっていないようだね」

 阿之助は素手で十字郎の顔を殴り、手をかざして浮かび上がらせ、部屋の中央にある柱に吹き飛ばす。体を強く打ちつけ倒れた十字郎は、痙攣のせいで起き上がれずにいた。しゃがんで頭を掴み、阿之助は懐から銃を取り出して、十字郎の喉元に銃口を突きつける。

「お前は……悪魔だ。俺がはらってやる」

 十字郎は震える手で、阿之助に刀を突き刺そうとするが、妖術で刀は吹き飛ばされ、手の届かない天井に刺さる。

「ご名答だよ。君の前にいるのは悪魔だ。どう祓うのか見せておくれよ」

 その時、十字郎の怒りの叫びを聞き、千沙が駆けつけてきた。

「阿之助……。十字郎をはなせ!」

 木刀を構え、躊躇ちゅうちょなく阿之助に向かう千沙に、阿之助も躊躇なく発砲した。足を撃ち抜かれ、前のめりに倒れた千沙は、浮かび上がり、阿之助は頭に狙いを定める。掴んだ十字郎の頭をひねり、千沙を見るように向け、阿之助は語る。

「どっちから死ぬか選ばせてあげるよ」

 十字郎と千沙は、敵を見誤っていた。十字郎は阿之助がこんなにも不気味で、強力な妖術を使うとは思っていなかった。千沙は阿之助がこんなにも残虐で、極悪だとは思っていなかった。

「十字郎……」

「俺からやれ。千沙は殺さないでくれ……」

「カッコイイね。じゃあ、お望み通り君から殺してあげるよ、十字郎くん」

 阿之助が再び十字郎の喉に、銃口を突きつけた。

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