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武士道復讐行  作者: 心鶏
阿之助編
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第五十二話 この世の王

 深夜の青谷城あおやじょうに突如、爆音が鳴り響いた。警備に当たっていた兵たちはすぐさま音のした場所へ向い、武器を構えた。城壁が壊され、そこから山賊が何人も入り込んできていたからだ。

「曲者だ!」

 山賊たちは爆弾を用いて、城を破壊しながら、兵士を斬り、暴れまわっている。

「仇討ちだ!野郎ども!ぶちかませ!!」

 高木たかぎが先頭を走りながら、爆弾をばらまいて進路を作る。後に続いて山賊たちが兵士を一掃していく。

 一方で城の反対側の城壁にハシゴをかけて、ひっそりと侵入する阿之助あのすけは、苔尾こけお一葉いちはを探し始めた。

 なんとなくだが、阿之助は自分が生きていると、九条くじょうに勘付かれている気がしていた。その場合、一葉は自分が死ぬまでは牢屋にいれられるだろう。しかし、苔尾の対処がどうなっているかわからなかった。病で殺せなかったら、牢屋なのか、利用価値がなくなったとして殺されるのか。とにかく内情を知るには、一葉と合流するべきだと、判断した阿之助は地下牢に向かった。



「シオ様!失礼いたします!」

 九条の寝室へ家臣が入ってきた。爆音に起きた九条はまだ眠たげだ。

「なんの騒ぎ?」

「山賊が攻めてまいりました。爆弾で城を破壊しています。全兵対処に向かわせました。お逃げください」

「爆弾?」

 寝起きの頭をフル回転させ、山賊に爆弾が用意できないことと、阿之助が鬼の長を倒した時に爆弾を用いていたことを結びつけた。状況を悟った九条は青ざめて、家臣に怒鳴った。

「違う!小取ことりの罠だ!急いで兵をこの部屋周辺に固めなさい。迎え撃つわ!」

「御意!」



 阿之助は牢屋にたどり着いていた。警備員も皆、山賊の対処に向かっているため手薄なのだ。牢屋の入り口にあった鍵を手に、いくつか並ぶ牢屋を見ていく。よく知る人物が閉じ込められていた。

「一葉さん。今度は僕が助けにきましたよ」

利久としひささん!」

 何かと牢屋に縁がある二人は、またも牢屋で再会を果たした。阿之助が牢屋を開けるなり、一葉は阿之助を抱きしめた。

「無事でよかった……。利久さんに恩義があるっていう理由で、牢屋に入れられていたので、利久さんに何かあったんだと、ずっと心配だったんです」

「ご心配おかけしました。でもまだ終わってないです」

「えっ?」

「僕は妖怪を助けにきました。一葉さんは妖怪の子供達を連れて、この城から逃げてください。僕は苔尾さんと話をします」

「わ、わかりました。苔尾さんは上の階の客間にいます」

「ありがとう、また会いましょう」

 阿之助は一葉に教わった苔尾の部屋まで走った。まだ爆音がなっている。



 苔尾が未だに客間にいることを不思議に思っていたが、部屋に到着し、苔尾の現状を見て理解した。

 壁にもたれ、魂が抜けたような顔をしている。目には光がない。絶望の中で、気が狂ってしまったのだ。今の苔尾には思考する力は残っていない。考えることもできなくなった。病を撒き散らす道具。だから殺しもせず、牢にも入れず放っておくのだ。

「苔尾さん。僕です、小取です。妖怪を助けにきました」

 もう阿之助の言葉は苔尾には届いていない。それでも阿之助は話す。

岡崎おかざきの狂人は天狗、生百合うゆりさんは龍。妖怪の力とは人にも宿るのではないですか?」

 苔尾は微動だにしない。うつろな瞳は、天井を見つめ、呼吸は浅い。

「もしそうなら、苔尾さんの力を僕にください。ここに囚われている5人の子供たちも、木郎くんも、生き残った小鬼たちも僕が守ってみせます」

 一瞬だけ苔尾の瞳に光が宿り、弱々しく阿之助に手を差し出した。そのやせ細った手を阿之助は優しく握った。すると、阿之助の中に苔尾の力、感情、記憶、全てが流れ込んできた。

 たくさんの妖術、人を滅ぼすことなんて容易いほど、莫大な力をもってしても、人を滅ぼさなかった理由。それは人との共存を望んだ多くの妖怪たちのためであった。鬼や河童、天狗に龍。百鬼夜行を離れて、人との共存を目指した者達の意志のため、人との争いを避け、脅威になりうる者だけを排除した。しかし、共存は幻想、人と和解などできないまま、滅ぼされていった。

「悲しい人だ。妖怪に尽くしてこんな最後なんて」

 阿之助は懐から銃を取り出し、苔尾を撃ち殺した。

「でもまあ、共存はもう無理だ。今いる妖怪の子達を生かすだけ。この力は僕の好きに使わせてもらう。だって、たった今僕は、この世の王になったんだから」

 銃声を聞きつけた兵士が一人、部屋のふすまを開けて入ってきた。

「小取!」

 刀を構えた兵士は、阿之助に斬りかかるが、阿之助は口から真っ黒な煙を吹き出し、兵士に浴びせた。すると、兵士の動きは止まり、次に痙攣けいれんし始める。

 手をかざし、振り上げると苔尾の死体が浮かび上がる。浮いた苔尾の首根っこを掴んで、風船でも連れるかのように、阿之助は痙攣したまま倒れこむ兵士の横を通り、九条の元へ向かった。



 一方、暴れていた山賊達は勢いに任せて猛攻していたが、爆弾がなくなったタイミングで、作戦通り撤退を始めた。

「引くぞ!急げ!」

 山賊達の逃げ足は早く、対処にあたっていた兵士達は誰一人ついていくことができなかった。

「ボス。全員の撤退を確認しやした」

 突入時に開けた城壁から脱出し、すぐさま夜の闇に身を隠した山賊達。団員の一人が仲間達の数を確認し、高木たかぎに報告した。

「ご苦労。拠点に戻るぞ」

「小取の兄貴は?」

「兄貴ならうまくやる。行くぞ」

「へい」



 苔尾の妖術の一つに生き物の位置を察知するものがある。3年前の疫病や阿之助の時に、苔尾はこの妖術で相手の位置を知り、病に冒していたのだ。その妖術を阿之助も使い、容易く九条の居場所を見つけた。

 阿之助がふすまを開くと、刀を構えた九条が一人、待ち構えていた。

「やはり、生きていたわね。小取」

「前にあった時と口調が違いますね。九条さん」

 喋りながら苔尾を部屋の外に浮かせ、阿之助は部屋に入っていった。

「当たり前よ。あなたは九条家を脅かす、明確な敵。全力で仕留める。かかれ!」

 部屋の四方から幾人もの兵士が飛び出し、阿之助に向かって刀を振るう。阿之助は天井に向かって黒い煙を吹いた。一瞬で煙は部屋に充満し、兵士達の動きは止まり、痙攣が始まる。

 バタバタと兵士達が倒れていく中、九条は痙攣してもなお、刀を阿之助に向けていた。

「な、何を……した!」

 震える九条の頭を撫でて阿之助は微笑む。

「九条さんは妖怪をかくまっていた悪党として、幕府にその首を突き出されるんですよ」

 阿之助はゆっくりと懐から銃を取り出し、九条の額に突きつける。

「さよならが言える別れってのは、良いものですね」

「小取……!!!」

 九条家当主の絶望の叫びが響いた後に、一発の銃声がなった。

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