第五十一話 かましましょう
生百合が内川に到着したころ、阿之助は九条家の青谷城まであと一息のところまで来ていた。山の中を歩いていた阿之助は、大きな滝が流れる場所で、滝の裏に洞窟を見つけた。
「おっ、宝箱でもあるかな?」
少し足を踏み入れて、覗いてみたところ、洞窟の壁には松明がかけられており、誰かがいることは想像できた。そこからさらに想像を膨らませる。滝の裏なんて目立たない場所に住み着くのは、人に見つかりたくない人間、やましいことをしている人間。
「山賊のアジトか……?」
阿之助が振り向いて立ち去ろうとすると、大きな体にぶつかった。見上げれば屈強な男がにんまり笑って立っていた。
「大当たりだぜ〜」
阿之助は逃げる間も無く、首根っこを掴まれ、アジトに引きずり込まれていった。
洞窟の中は一本道で、一番奥に開けた大空洞があり、そこには何人もの山賊がいた。寝ている者や昼食を食べている者、武器を手入れしている者、話をしている者。大人数が各々、行動をしている。
男に捕まり連れてこられた阿之助が、最初に抱いた印象は、女子供が多いことだった。
「ボス、怪しい奴がいたので連れてきやした。どうしやす?」
大空洞の真ん中に座り、銭を数えてなにやら計算していた男の前に、阿之助は押さえつけられた。
「まず縛れ」
「へい」
他の山賊たちも加わり、阿之助は縄で手足を縛られ、身動きできない状態で正座させられた。
「で、名前は?」
「小取 利久です」
ボスと呼ばれた男は若く、年は阿之助とそう変わらない。ボスは計算をやめてタバコに火をつける。煙をひと吐きすると、阿之助への質問を続けた。
「この辺に山道はない。旅人も商人も通らない。なにしてたんだ?」
「命を狙われていまして、迂闊に山道や町を通れないんです」
「命を狙われている……?」
「話せば長くなります」
「話せ」
阿之助は山賊たちにこれまでの経緯を話した。九条家の罠で死にかけたこと、キリシタン弾圧のこと、木郎という友達の一族が根絶やしにされたこと、復讐のために九条家に向かっているが、九条家もそのことを知っているため、命を狙われているのだと話した。
自分が完全な被害者で、善人に見えるように、少々話を盛ったりしたが、大体は真実であった。
はじめは冷静に聞いていた山賊のボスは、次第に顔を歪ませ、話が終わる頃には泣いていた。阿之助の肩を掴み、泣き顔を晒しながら大声で喋る。
「小取!いや!小取の兄貴!」
「えっ?」
「あんたはいい人だ!おい!下山!縄をといてやれ!」
ボスが怒鳴ると、阿之助をここに連れてきた男が出てきて、縄をといた。
「俺の名前は高木 雄作。兄貴、九条家をぶっ潰すんなら、オレたちが協力するぜ」
思っても見ない方向へ話が進んだ。
「えっ、ええ、それはありがたいんですが、いいんですか?」
「野郎ども!俺は兄貴についていくぞ!異論はねぇな!!」
賛同する男たちの野太い歓声が上がる。
「そうと決まりゃあ出発だ。全員荷物まとめろや!」
高木という男は、阿之助が出会った中で誰より熱く行動力のある男だった。
阿之助と高木の山賊団は九条家へと向かっていった。目と鼻の先に九条家の青谷城をとらえ、山の中の開けた場所に拠点を作り、九条家を襲撃する計画を立てる。
「兄貴、九条家の武力は相当だ。俺たち全員でかかっても勝つ見込みはねぇ。何か策はあるんすか?」
阿之助は指を二本立てて言った。
「1夜中に奇襲する。2爆弾を使う」
「な、なるほど。奇襲はわかったが、爆弾なんてどうやって手に入れるんすか?」
「この近辺の町から火薬を少しずつ買ってきてください。爆弾は僕が作ります」
「兄貴、爆弾作れんのか……スゲェ」
「準備に取り掛かりましょう。こういう仕事は早い方がいい」
「了解、いくぞ野郎ども!」
山賊たちは周辺の町で火薬を集め、それを元に阿之助が爆弾をいくつか作った。城の構造を知っている阿之助が奇襲の作戦を立て、襲撃に参加する者、拠点に残り女子供を守る者が決まり、今夜、奇襲作戦を行う。
襲撃に備え、男たちは昼飯をたらふく食べている。そんな中、阿之助は高木を呼び出し、山の中で二人きりになった。
「なんすか兄貴?」
「いや、大した話じゃないんですよ。一応確認しておこうと思って。僕に協力してくれる理由はなんですか?」
高木は阿之助を見つめた。
「俺をスパイと疑ってるんすか?」
「というよりも、完璧に作戦を遂行する上で、協力者の信用を確かめたいというのが本音です」
「そういうことなら。俺たちは親の世代から山賊だったんす。好き勝手暴れて、悪事は息をするのと同じだった」
阿之助は黙って聞いている。
「親父が死んで、山賊の頭になって、そんな時っす。九条家のキリシタン弾圧を逃れてきたってつう連中にあったんす。普段なら身ぐるみ剥いで終わりなんすけど、ガキが泣いてたんすよ。まだ、襲ってもねぇのに、お父ちゃんお母ちゃんって。親父が死んですぐだったのもあって、優しくしちまったんす。行き場がねえなら面倒見てやるって。他の男も女もみんな、うちの山賊団に入れって」
自分で話して、自分で目を潤ませている高木。
「俺、初めて人のことを助けたんす。でも、連中と過ごしていくうちに、段々悪事が後ろめたくなってきて、俺気付いたんす。自分が真っ当な人間になろうとしてることに。俺は助けたんじゃなくて、助けられたんす。みんなも同じ気持ちっす。だから、山賊をやめて、村でも作ろうと思ってるんす」
阿之助は首をかしげた。目標がはっきりしているのに、復讐をしようだなんておかしなことだと。
「協力してくれる理由が、まだわからないんですが」
「まっとうに生きるにはそれなりのケジメをつけなきゃいけねえっす。キリシタンを弾圧した九条家に一発かまして、みんなに恩返しするんす。現に襲撃に参加するのは昔からの山賊仲間ばっかりっす。残った連中はみんなキリシタンっす」
「わかりました。高木さん、かましましょう」
阿之助はにっこり笑って、手を差し出した。その手を高木は強く握って答える。
「兄貴!」




