第五話 俺は武士なのだ!
山賊のボス 新田 一春は悩んでいた。自らの山賊団が、まだ入って一年あまりの剣士に乗っ取られそうだからである。
瀬野 孝三郎。この男は血の気が多く、隻眼で視野が狭いはずだが恐ろしく強かった。そのため、新田の山賊団はこれまで命を奪うような強盗の仕方はしてこなかったが、瀬野が団員を脅し、今では殺すことが当たり前になってしまっている。しかし、反抗すれば山賊団ごと皆殺しにされかねない。それほどに瀬野は強く、イカれた男だった。
「ド派手な物音がしたな。自警団の連中、ついに怪獣でも呼んできたか」
団員たちと酒を飲んでいた瀬野は、立ち上がり、刀を腰に携えた。
「団長。ちょいと、ヒーローやってきますね。3分で戻りますよ。ほれ、行くぞ野郎ども」
他の団員を引き連れて、瀬野は出入り口の方へ歩いていった。新田は一人残され、呟いた。
「お前が勝てない怪獣なら、俺も救われるのにな」
長い洞窟の通路を歩いていく瀬野と団員たち。
「ほれ、先いけよ。俺が着く頃には、一突きで死ぬくらいまで追い込んでおいてくれよ。ヒーローってのは活動時間が短いんだ。ほれ、ダッシュ!」
命じられた団員は走っていく。その団員たちが出入り口の辺りまで着くであろう頃、洞窟には鈍く体を打ちつけるような衝撃音や、団員の断末魔の叫びが響いた。
「こりゃあ、本物の怪獣か?」
瀬野がたどり着いた頃には、出入り口は血の海であった。洞窟の地面、壁、天井と至る所に血が飛び散り、先ほど向かった団員たちはすでに死体となり転がっていた。
そして、その怪獣の正体は男より大きな大女で、返り血にまみれながら、次の標的として瀬野に刀を向けていた。
「雑兵殺して楽しいか?あんた」
瀬野は刀を構えた。
「人の道を外れたものは人ではない」
「害虫駆除ってわけだ。でも、あんた。人、殺し慣れてねぇだろ。動揺の気配が片目だけでもよく見えるぜ」
何も動じていないような顔をして、とても冷たい目をしているが、その目には涙が浮かんでいる。
「どうにも、覚悟はしているはずなのに、動悸が治まらない」
「今、退治してやるぜ。ゴリラ星人が」
瀬野はその女に向かって電光石火で間合いを詰めた。女は姿勢を低くし瀬野の足元を水平になぎ斬ってきたが、瀬野はスレスレでかわすように低く飛び、そのまま、空中から女の首元に刀を振るった。しかし、それよりも早く女の拳が瀬野の顔面を捉えていた。
(なんでそこに拳があるんだよ、この女。)
瀬野はあまりの怪力パンチにぶっ飛ばされた。すぐさま受け身をとり、追撃を警戒し、起き上がる前に刀を女の方へ突き出していたが、その刀は上から踏まれ、地面に押さえつけられ、何かを理解、判断する間もなく瀬野の喉を刀が貫いていた。
「本物じゃねぇか……」
「強さとは慣れではなく力だとわかったな」
女はそう言って刀を引き抜き、さらに奥へと進んでいった。
新田はすぐに理解した。目の前にいる血まみれの大女は、団員を、瀬野を殺してここに来たのだと。瀬野を殺したということは、新田には到底、太刀打ちのできる相手ではない。
「お前がボスか」
諦めることは簡単だった。
「潮時か。君主を失い、帰る家もなく、共に忠義を誓った同志たちと、人道外れた飯を食う。こんなことのために刀を振ってきたわけではない」
女は刀を構えた。
「ならば、こんなこと」
新田は女の言葉を遮った。
「然れども、こんな生き方しかできない人生というものがあるのだ」
その男は武家の一人息子として、武芸を幼少の頃から教え込まれた。その腕前は優れ、将来は城主の右腕になるはずだった。しかし、一度の戦を命じられる前に城は落ちてしまった。生き残った仲間たちを連れ、男は彷徨い歩いた。傭兵部隊として雇われることもあったが、時が立つとともに山賊へと堕落していった。
そんな哀れな男が最後に抜いた脇差の切先は光り輝いていた。
「汚い死に様はしてたまるか。俺は武士なのだ!」
新田は自らの腹に脇差を突き立て、自害した。
深夜に戻ってきた生百合は木田の屋敷にて体を休めた。その翌日、客間で木田に預けていた刀を受け取った。
「まさか丸腰でいくとは思わなかったが、無事で何よりだ。本当に強いんだな」
生百合の活躍により山賊は全滅した。
「アジトの場所は自警団のやつに教えておいた。盗品の回収は任せていいな?」
「ああ。もちろんだ」
「次は海坊主だな」
「すまないな……」
「復讐の旅の道すがら、人を救えたなら儲けものだ」