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武士道復讐行  作者: 心鶏
鬼の里編
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第三十二話 桃太郎は二人

 近くの町では、殲滅隊の噂がわずかだが、広まり始めていた。中には、その話題で盛り上がるものもいた。なにせ、最強と言われる佐伯さえき矢笠やがさが手を組み、最後の妖怪と言われる鬼を退治しに行くのだから。そんなことは知る由もない、当人たちは、来たるべき作戦決行日に向け、準備を進めている。とはいえ、休み無しという訳ではなく、食事時など、心を落ち着ける時間があった。

「佐伯殿は、しばらく見ないうちに随分と傷が増えたようですが」

 矢笠が山菜の煮物とおにぎりを食べながら、指摘する通り、佐伯には全身無数の切り傷の痕があり、威圧感が増している。

「全て岡崎の狂人と戦った時の傷だ」

 生百合うゆりは異常に傷の回復が早いため、すでにその時の傷跡はないが、普通の人間ならば、こうして痕が残るのだ。この傷を受けて、生きている佐伯が普通かはさておきとして。

「河童も相当な化け物だったと聞いた」

「ええ、頭をはねても攻撃してきましたよ。僕が知る中で、一番強い生き物でした」

「信じがたいが、小取ことりはその河童や狂人より、鬼の方が強いと言っていたな」

「用心に越したことはありませんよ」

 佐伯は山菜を食べる箸を止め、首をかしげた。

「矢笠殿は自分の刀を試すために、こうして殲滅隊に加わったのではないのか?」

「意味がわかりませんね」

「そんな訳なかろう。矢笠殿も自分の力量を測る相手が欲しいのだろう?俺が幕府のお偉い方から、妖怪討伐を引き受けた理由はその一点だ」

「私は強さへの執着はありません」

 佐伯は呆れたように笑った。

「それでその強さか。天才には敵わんな。矢笠殿にはわからぬ、凡人の薄汚い欲望は」

 矢笠は少年時代から世に名を知られた天才だったが、佐伯はそうではなかった。幼い頃から強さを求め、道場では他の門下生の何倍も木刀を振り込んだ。それでも、周りの者には一歩劣る程度の実力であった。青年になる頃には、様々な流派を転々とし、一時たりとも手を抜いたりするようなことはなく、刀の理解を深め、腕を磨いていった。何年もそんな生活を続け、自らたどり着いた一つの太刀筋、それが燕返しであった。それからも精進に励み、燕返しの達人と呼ばれるようになったのだ。

「私が加わった理由は、小取さんがいると聞いたからです」

「そういえば、河童の討伐は協力したのだったな。仲が良いのか?」

「いいえ、逆です。彼は信用に値しない。うちの武器を監視もなく使わせる訳にはいかなかったので」

「信用に値しないのは同感だが、何か企みがあるのなら、鬼討伐のどさくさに紛れて殺せばいい」

「あまり、彼を甘く見ない方がいいですよ。腹の底が見えなすぎる」



 鬼退治の日が来た。桃太郎は二人、燕返しの達人 佐伯 小太郎と、無尽の剣士 矢笠 宗将だ。20人の犬猿雉は皆、銃を持ち、完全に鬼を殺す布陣が整っていた。彼らを阿之助あのすけが先導し、鬼の里まで案内する。鬼の里は山の中にある。山側から佐伯と10人が夜明けと共に、鬼の里に奇襲を仕掛ける。山を下り逃げようとする鬼を、矢笠ともう10人が谷側で待ち構える挟み撃ちの形だ。

 阿之助は佐伯と共に山側にいるはずだった。

「おい、小取の姿が見えないが知っているか?」

 佐伯は銃を構える一人に尋ねた。

「はい、先ほど、あたりの地形を見回ってくると」

「逃げたか……?俺は外れる。お前が指揮をとれ、夜明けと共に仕掛けろ」

 佐伯は山を下っていった。



 寝ている生百合と堅角は、聞き覚えのある声に起こされた。

「起きてください。生百合さん。堅角さん」

 目を覚ました二人の前にいたのは、矢笠だった。

「当主殿。なぜここに」

「殲滅隊が山の上と下から攻撃してきます。みなさんを起こして逃げてください」

 鬼の里の皆は起きたが、戦おうとするもの、逃げようとするもの、意見が分かれていため、里の中央で縁地が意見をまとめる。

「わしは戦う。残りたいものは残れ。女子供は逃げろ」

「私は戦う。みんなには世話になった」

 生百合は残るというが、縁地は首を横に振った。

「ダメだ、お前は人だ。これは我ら鬼の戦いだ。お前は逃げろ。堅角、お前は逃げる連中の護衛をしろ。西の川の近くの洞窟で待て。ことが済んだら迎えに行く。それまでは里に戻ってくるな。いいな?」

 生百合も堅角も里のために、戦いたいという意思はあったが、逃げるものを守らなければならないのも理解していた。何より、縁地を信頼していたため、命令に従うことにした。

「本当なら、鬼の側につきたいところですが、私にできるのはこれが限界です」

「矢笠殿にも立場があろう。感謝する」

 矢笠は谷側の部隊の戻っていった。逃げる者たちは西の川へ向かい始めていた。

「生百合は戦わず逃げることだけを考えろ。お前が死んでいいいくさではない。堅角、生百合を生かせ」

「わかってます」

 生百合と堅角は逃げる者たちの後を追って西へ向かった。銃声が響く。同時に残った鬼たちが雄叫びをあげる。

「行くぞ!皆の者!臆するな!里を守るのだ!」

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