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武士道復讐行  作者: 心鶏
鬼の里編
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第三十一話 岡崎の脱獄犯

 時間は生百合うゆりがプロポーズをされる前に遡り、阿之助あのすけが鬼の里を出てから話。

 阿之助が鬼や生百合に告げた出て行く理由は、全て嘘であった。これから大仕事を始めるため、里から出たのである。小さな農村の加沢かざわに来ていた阿之助は、休憩できそうな茶屋か、今晩の宿を探していた。昼間のうちに見つけ、これからの活動に備えたかったのだ。しかし、この村にはそういったたぐいの店はなく、旅人には辛い場所だった。

「まいったな、どっかに泊めてもらおうかな」

 コミュ力はある阿之助だ。性根の腐り加減や、情けなさが目立たない第一印象の良さだけは誰にも負けない。泊めてくれそうな家を求め歩いていると、後ろから肩を叩かれ、話しかけられた。

「鬼について、お話よろしいか」

 振り向けば、そこにいるのは佐伯さえき 小太郎こたろうなのであった。

「あっ……」

「お前は、岡崎の脱獄犯」

 佐伯はすぐさま抜刀した。阿之助はすぐさま両手を挙げて、降伏した。

「ちょ、ちょっと、あれ、誤解なんですよ」

「妖怪の逃走を手引きしていたではないか」

「あれは妖怪たちに脅されてて」

「いくらでもできる言い訳だな」

「僕は妖怪の敵です。証拠にこの前、矢笠やがさから妖刀を盗んだ河童を倒したのは僕です」

「連行する。詳しい話はそっちで聞いてやる」

「また、捕まった」

 阿之助は加沢の隣町 横原よこはらにある、妖怪殲滅隊の拠点へと連行された。横原の奉行所の一角に殲滅隊の拠点は設けられ、決して広くはなかったが、それがかえって、容疑者を問い詰めるには、都合がいいのである。

「さあ、お前の言い訳を聞こうか。どんな罰を与えるかはそれからだ」

 阿之助は岡崎での一件、河童討伐について語った。話の内容としては、岡崎では個人的な妖怪の調査のために、妖怪の山に忍び込んだが、そこで妖怪の総大将に殲滅隊から逃げる手引きをしなければ殺すと脅され、仕方なくその作戦を練ろうとして、山から出たところを、佐伯に逮捕された。その後、妖怪が脱獄を手伝ってくれ、処刑されるのも嫌で、脱獄し妖怪の手伝いをしなければ殺されると思い、妖怪逃走の手引きを整えた。しかし、この一件で妖怪が許せなかったため、河童討伐に参加し、討伐を果たした。というものだったが、無論ほとんど嘘である。事実といえば、捕まったことと、河童を討伐したことくらいなものだ。

「なるほど、お前の仲間はどうした?大女がいただろう」

「あの人は妖怪に肩入れするので、河童の一件の後、別れました」

「妖怪に加担したのは事実なのだな。処刑か」

「待ってくださいよ。僕、まだ使えますよ」

「何に使えるんだ」

「鬼の話、聞きたがってましたよね」

 佐伯は黙るが、目の色が変わったのは明らかだった。

「その情報収集で、加沢に来ていたんですよね」

「そうだ」

「でも、誰も教えてくれないんじゃないですか」

「……」

「加沢の人たちは鬼と交流があるようです。それも友好的な。そんな人たちが、鬼を殺す気満々の殲滅隊の人に鬼の情報を教えるわけがないんですよ。でも、僕は知ってます」

「よかろう、確かな情報なら釈放してやる」

「いいえ、教える条件は違います。僕を殲滅隊に入れてください」

 佐伯は目を見開く。

「頭がおかしいのか?」

「いいえ、釈放されても、その後殺されるのが目に見えています。殲滅隊に入れば、そうはいかない」

 悩ましげに頭をかかえる佐伯。妖怪に通ずる怪しい奴を、殲滅隊に入れていいのだろうかと、心の中で自問自等を繰り返す。しかし、殲滅隊は鬼の調査を始めてから、しばらくが経っているが、いまだ、加沢近辺に鬼がいる程度の情報しかなく、調査は行き詰まっていた。

「わかった。殲滅隊に加われ。その代わり、鬼の情報を全てよこせ、これから立てる計画の失敗は、全てお前の責任になる。下手をすれば殺す。逃げても、捕まえて拷問したのちに殺す」

「わかりました。まず、鬼の里の場所ですが、これを言ったら僕の利用価値がなくなり、殺されるのでまだ言えません。次に鬼そのものについてですが、とても刀がきく相手ではありません。倒せないことはないでしょうが、凄まじい被害が予想されます。銃を使うべきです」

「銃か。矢笠に協力を求めるか」

 殲滅隊の使いが矢笠家に向かった。

 ここまで、全て阿之助の計算通りであった。加沢にて生百合と二人で、鬼に関する情報収集をしていたときに、阿之助は殲滅隊が鬼を探しているという情報をかすかに耳にしていた。そこで、鬼の里の場所を確認し、その情報と引き換えに殲滅隊に取り入って、手柄をあげるのが狙いだ。しかし、こちらから殲滅隊を探すと、かえって罠を疑われかねないため、阿之助はわざと村をうろついていたのだ。この策士の企み、執着心を知るものはいないが、計画は着実に進んでいるのであった。



「佐伯殿からの使者か。面倒ごとの匂いだな」

 矢笠に送られた使者は、事情と幕府の命にて、妖怪殲滅隊への協力を要請すると伝えた。

「承知した。本家から銃器を送ろう。ただ一つ、私を殲滅隊に加えなさい」

 矢笠 宗将は自ら志願し、殲滅隊に加わった。阿之助とは違い、矢笠は地位があり、実績もある剣士で、誰も首を横には振れなかった。矢笠 宗将が殲滅隊に加わったのと同時に、殲滅隊は大量の銃を手にいれた。矢笠家は当主が暮らす屋敷とは別に、城を持っており、実権を握る宗将の姉とその夫が統治している。そこは剣技ではなく、武器兵器の生産に力をいれた場所であり、その兵力は凄まじく、幕府の権力にすら、武力で抵抗できるほどだと言われている。しかし、関係は良好で、幕府も緊急時の兵力の要として、矢笠家には重きを置いている。

 こうして、殲滅隊は二ヶ月とかからず、鬼討伐の準備を整えていった。

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