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武士道復讐行  作者: 心鶏
鬼の里編
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第三十話 もっと一緒にいたかった

 阿之助あのすけがいなくなり、生百合うゆり堅角けんかくの二人暮らしが始まった。最初は看護されるだけだった生百合も、次第に動けるようになり、家事や里の仕事を手伝うようになった。その一つに、戦闘の指南があった。万が一のことがあっても自衛できるように、鬼の里では子供たちに戦い方を教える。指導するのは主に縁地えんじ、堅角の二人だが、今日は特別に生百合が稽古をつける日だった。里の中央の稽古場に小鬼たちを集め、稽古が始まる。

「みんな、今日は生百合先生が刀の使い方を教えてくれる。よく言うこと聞くように」

 縁地の話を聞き元気に返事をする小鬼たち。人数は5人で女の子も混じっている。

「では、始めてくれ」

 縁地と交代し、生百合は小鬼たちの前に出る。

「何日か、稽古を見学して、みんなの筋は大体わかった。各々、良いところ、悪いところ、たくさんあるけど、共通して言えるのは、力に頼っているところ。みんなが普段使っている金棒の武術は知らないけど、刀じゃそんな使い方はあり得ない。腕の力で振り回すだけじゃなくて、しっかり体、足を使って、最小の力で最大の威力を発揮する。そうすると疲れないし、長く戦えるから、今日はその稽古をしよう」

 身振りを大きく、いつもより砕けた口調で、わかりやすく話す生百合。無粋ぶすいに見られがちな生百合だが、元は道場で子供たちに剣を教えていたため、こういうことは得意なのである。立てられた丸太に、木刀を振るう小鬼たち一人一人に、生百合は細かな指摘をしていく。踏み込みの仕方や、木刀の握り方、腰のいれ方、呼吸の仕方。

赤八あかはちは踏み込みがしっかりできていて綺麗だけど、握りが甘いから、相手に力が少ししか届いてない。ていうことは、小指をしっかり締めて打てば、踏み込んだ分がちゃんと届くから、そこを意識してみて」

「こうか!」

「そうそう。それが良い打ちだよ」

 小鬼たち全員の名前を覚え、注意する時は必ずその子の良いところを一点は上げ、できたらしっかり褒める。そんな稽古を何度かしていく内に、生百合は小鬼たちに人気の先生になっていた。

 稽古を終えて、次にするのは夕飯の支度だ。いままで、堅角が担当していたが、生百合の怪我が治ってからは、堅角も自分の仕事を再開しなければならず、帰りが遅くなるため、今は生百合が担当している。父子家庭で育ち、父と交代で夕飯を作っていた生百合は、料理の腕もよかった。

「生百合さんのご飯は、やっぱり美味しいなぁ」

 夕飯を頬張る堅角が舌つづみをうつ様子をみて、生百合は笑みをこぼす。

「よかった」



「今日は見取り稽古をする。堅角先生と生百合先生が木刀で戦ってくれる。みんなはいつも言われていることや、注意されたことを意識しながら、それが戦いにどう生かされているのか、しっかり見るように」

 縁地が稽古の内容を話し、小鬼たちが返事をする。生百合と堅角を囲むようにして、小鬼たちが見守っているが、噂を聞きつけた他の鬼たちも、仕事をほっぽりだして見にきている。間にはかなりの差があるが、堅角は縁地に次いで強い。一方、生百合は縁地に圧倒された後、圧倒し返し、鬼の里の中では評価にばらつきがある。そのため、この戦いで生百合の強さを見極めようとする野次馬が見にきているのである。

「生百合さん。言っていませんでしたけど、僕、実は矢笠やがさで剣を習っていたんですよ。まあ、稽古房にも入れてもらえないペーペーでしたけど。ちょっとくらいは心得があるつもりですよ」

「じゃあ、本気でいいんだね」

「あっ、いや、それは、ちょっと……」

 堅角の視界の隅には、地面の黒く焦げた跡がうつっていた。

「意気地なし。幼気な人間の女の子に怯えるなんて」

「幼気じゃないし、生百合さん、手加減知らなそうなんですもん」

「その発言、覚えておけよ。乙女の怒りの恐ろしさ、思い知らせてやるから」

「全国の乙女に謝れ」

「殺す」

 二人のやりとりをみて、周りの鬼たちは笑っている。

「夫婦漫才はいいから、早くやってくれ」

 縁地に怒られ、二人は木刀を構える。堅角は大きく踏み込み、水平斬りを放つ。生百合はその刀を自分の刀で滑らせるように押し上げ、受け流すと柄を使って、堅角の喉を突く。足をかけ、そのまま転ばせようとするが、堅角はさらに上体を反らし、バク転し避ける。しかし、隙だらけの着地。構えもなっていない木刀を蹴られ、生百合の鋭い太刀筋が堅角の首元を捉えた。寸止めし、生百合は木刀を収める。

「木刀を握るくらいしか、矢笠で教わらなかったの?」

「か、完敗です」



 決戦前とは思えないほど、平穏な日々が続いた。生百合は旅の道中はずっと気をはっていた。復讐の旅路、心が折れないよう、自分は強いのだと言い聞かせ、毅然きぜんとした態度を貫いていたが、この日々だけは気が抜けて、口調や態度も本来の生百合の柔らかなものになっていた。

 そんなある日、堅角は帰ってくるなり、夕飯の支度をする生百合の元にきて、いつものどこか間の抜けたような表情ではなく、真剣な顔でやけにかしこまっていた。

「おかえりなさい。なんか、緊張してるように見えるけど?」

 生百合が料理の手を止めると、堅角は大きく息を吸って、決心したように話し出した。

「生百合さん。ずっと思っていたんですけど、言います。……復讐をやめて、僕とずっと一緒に、いてくれませんか」

 突然のプロポーズに生百合は混乱し、うつむく。

「やっぱり、復讐なんか良くないです。戦角が僕の兄だからじゃなくて、その、優しくて素敵な生百合さんに、復讐なんかして欲しくないんです。僕が生百合さんのこと、ちゃんと幸せにするから、だから」

 生百合は言葉を遮って、自分より少し背が高い堅角を抱きしめる。

「ありがとう、堅角。私は今の生活で十分幸せだよ。でも、幸せになればなるほど、幸せだった頃を思い出すんだ。師匠が生きていた頃のことを。その思い出は、どうやっても師匠が殺された最後の日に行き着いて、たくさん湧き上がって来るんだ。もっと話したかったとか、もっと剣を教わりたかったとか、もっと一緒にいたかったとか。全部奪っていったヤツがいて、私はソイツのことを一生忘れられないし、一生許せない。だからまだ、幸せにはなれない」

 生百合は堅角の胸に、顔を押しつけて泣いていた。生百合の頭をそっと撫でて、堅角は言う。

「わかった。復讐が終わったら、戻っておいで。その時は僕が幸せにするから」

「……約束はできない。けど、堅角のことは好きだよ」

「待ってますから」

 決戦までは10日を切っていた。

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