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武士道復讐行  作者: 心鶏
鬼の里編
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第二十八話 鬼は鬼だった

 鬼の里に到着した二人は、近くにいた鬼に、総大将 苔尾こけおからもらった紹介状をおさに渡すように頼んだ。鬼は快く引き受けてくれた。少し待つと、さっきの鬼が戻ってきて、長がいる一際大きな建物に案内された。長は建物の奥の玉座に鎮座している。座っているのに、阿之助より背が高く、他の鬼は赤い肌だが、この長は赤黒い肌をしている。厳めしい顔立ちで、二人が出会った誰よりも威圧感があった。

「事情は把握した。お前らが探しとる鬼はここにはおらん」

「心あたりはあるみたいですね」

 阿之助は掘り下げる。

「異端の鬼だ。名は戦角せんかくという。幼い頃に両親を失い、以後、里を離れた。傭兵をやっているらしい、どこにいるかはわからんが、こいつなら人を殺しても不思議はない」

 長は二人に対し、歓迎するような態度はないが、拒絶するわけでもない。何か先のことを見据え、二人のことを見定めているようだ。

堅角けんかくという鬼がおる。こいつなら知っとるかもしれん。里の東から二つ目の家に住んどる。聞きに行くといい。苔尾様には世話になったから、こうして情報はやるが」

 長は急に立ち上がり、生百合うゆりを見つめた。

「女、刀を抜け」

 長はその巨体からは想像できないほどの早さで間合いを詰め、生百合に掌底を打ち放つ。抜刀しながらかわした生百合は、突き出された長の腕を斬り上げるが、強靭な肉が刀の刃を通さない。一瞬の怯みを見逃さず、長は突き出した手で、生百合の頭を掴み、振り向きざまに壁に叩きつける。生百合はとっさに受け身を取り、頭を守ったが、すぐさま凄まじい重さの蹴りが、脇腹に命中する。木造の建物の壁を打ち破り、里の中央の広場まで飛ばされた。

 生百合が味わったことのない威力の蹴りで、やせ我慢が得意な生百合でも、起き上がれないほど、息もできないほどの強力な一撃であった。しかし、鬼は鬼だった。仰向けに倒れたままの生百合の腹部めがけ、高く跳躍した踏みつけをくらわせた。大地が震え、山はざわめいた。

 里の中心での騒ぎのため、他の鬼達が集まってきた。

縁地えんじ様!お止め下さい!その者は人間の娘です!死んでしまいます!」

 さっき二人を案内した鬼が長を止めようとするが、長はその鬼を振り払い、生百合の腹を踏みつけたままだ。

「案ずるな。加減はしている。それに人間の娘ならとっくに死んでいる」

 生百合は弱弱しく、踏んでいる足を掴む。

「鬼と戦うというのが、どういうことかわかったか?小娘。戦角はわしより強いぞ」

 長は一層強く踏みつける。

「くだらん復讐などやめろ。命は大切にするべきだ。わかったならその手を離せ、すぐ手当てしてやる」

 力の差は明らかであった。圧倒的な力を持つ鬼を前に、生百合は成す術なく、一方的にやられている。それでも生百合は手を離さない。

「力量も測れないこんな馬鹿な弟子がいるとは。お前の師は女ったらしだったのではないか?お前の体が目当てで、ロクになにも教わっていないのだろう?」

 さらに力を込めて踏みつける。雲ひとつない空だというのに、強烈な雨の匂いが漂う。

 生百合は長の足をひねり、投げ飛ばす。受け身を取り、着地した長の目には、こちらを見据え、刀を構える大女が映っていた。

「生百合さん!大丈夫ですか!って、キレてんじゃん……」

 ようやく駆けつけた阿之助あのすけだが、手遅れなことに気づく。こうなった生百合は止められない。晴れていた空は、いつの間にか分厚い雲が覆い、大粒の雨が降り出した。

 大女は電光石火で間合いを詰め、首元を斬ろうと刀を振るう。片腕で受け止める長だが、腕にかぶせるような蹴りが飛んでくる。その蹴りはお返しと言わんばかりの重さで、長は受け切れず体制を崩す。

「本気か」

 目にも止まらぬ早さで、長の袈裟を斬り上げる大女。刃が通らない肉を無理やり、力で断ち斬っているため、長の体は少し宙に浮いた。それすら追いかけ、大女は空中で、長の首を掴むと、地面に叩きつけ、肩には刀を突き刺した。倒れされた長は拘束を解こうと、大女の腕を掴むがビクともしない。

 大雨の中、眩い光が襲い、腹に響く爆音が鳴る。大女と長に雷が落ちたのだ。鬼たちはさすがに、二人の元に近ずくが、大女はまるで動じていない。それどころか、火傷ひとつしていない。

「二度と師匠を侮辱するな。今度は殺す」

 刀を引き抜き、大女は長の拘束を解いた。

「生百合さん。キレたらダメだって」

 阿之助が駆け寄ると、生百合は阿之助にもたれるように倒れ、気を失った。長は全身に火傷を負っていたが、意識はあった。他の鬼たちの手を借りて、元いた建物へ向かう。

「やはり、人ではないな。あの娘」



 生百合が目を覚ましたのは布団の上だった。あたりを見れば、木造で、すぐに外で見た鬼たちの家だとわかった。長に蹴られた脇腹の痛みが、まだはっきりと残っている。身体中に力が入らず、起き上がることさえできない。布団の傍らには、一人の鬼が座って、編み物をしている。生百合に気がつくと、鬼は編み物をやめて、話しかけた。

「おはようございます。体はどうですか?」

「まるで動かない」

「やっぱり。縁地様が、酷いことをして、すみませんでした。普段はあんな風に暴力を振るうような方じゃないんですが」

「鬼は皆、あれくらい強いのか?」

「いや、まさか、縁地様は100年もこの里を守っているお方です。強さも他の鬼とは別格です」

「戦角はもっと強いと聞いた」

 鬼は言葉に詰まったが、ため息をついて話し始めた。

「戦角は……。戦闘狂なんです。10歳の時に縁地様を倒して、里を出て行きました」

「今はもっと強いわけか」

「はい、おそらく」

 生百合は改めて覚悟した。これから相手にしようとしているのは、今までの敵よりもはるかに強い、正真正銘の化け物なのだと。

「もう一つ聞きたいことがある」

「なんですか?」

「あんたは女なのか。男みたいな見た目だが、編み物をしているし、声も男らしくない」

 鬼は笑った。

「フフフ、一応、男です。名乗っておきましょうか。僕は戦角の弟、堅角と申します。男に見えないとはよく言われます」

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