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武士道復讐行  作者: 心鶏
矢笠編
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第二十七話 剣士としてあなたのことは嫌悪します

 討伐隊が帰還してから、一日遅れて生百合うゆり阿之助あのすけが戻ってきた。河童の死体と妖刀を持ち帰った二人は、幕府と矢笠やがさ家から褒美をもらい、路銀が潤った。生百合の看護は木郎きろうとおきくが行い、河童の死体は幕府が回収し、妖刀はより厳重に保管された。

「一件落着ですね。矢笠さん」

 庭で門下生たちが、いつものように稽古している様子を、縁側から眺めていた矢笠に阿之助が話しかけ、隣に腰掛ける。

「そうですね」

「少しは信用してもらえました?」

「ますます怪しい。あなたは農民の出なのに銃を持っているし、毒薬にやけに詳しい。全て道中に得たものですか?」

「いいえ、毒薬に詳しいのは農民のころから植物の勉強をしていたので、それで得た知識です。銃は父の形見です」

「お父さんはどこでそんな銃を?」

「あまり詳しくは知りませんが、近所のお屋敷の人からもらったって言っていました」

「そうですか」

「尋問みたいですね」

「ここには追っ手を逃れて、身を隠す者がたくさんいます。彼らを守るために、警戒するのが私の仕事なので。河童の時はしくじりましたが、ここに乗り込んできて無事に帰ることができる人間はそういないですし、脅威ではありません。本当に怖いのはあなたのように、口が上手くて、情報の動かし方を理解している人間です」

 阿之助は矢笠の肩に手を回す。

「安心してくださいよ、木郎を預ける矢笠家を敵に回したりはしませんから」

 手を振りほどき、矢笠は立ち上がる。

「何を企んでいるのかは知りませんが、あんなに真っ直ぐな太刀筋を持つ、誠実な生百合さんを利用している時点で、剣士としてあなたのことは嫌悪します」

 矢笠は稽古している門下生たちの方へ歩いて行った。

「嫌われちゃった。せっかく河童倒したのに」



 生百合の怪我の回復を一ヶ月間待ち、治ると旅の支度を整えた。そして、別れの朝が来た。

「絶対、また来てくれるよね」

 見送りに来た木郎は泣いていた。

「約束だ」

 生百合は屈んで、木郎を抱きしめて、頭を撫でる。生百合も別れたいわけではなかった。しかし、木郎は妖怪で、幕府に追われる身。佐伯さえきの時は運が良かっただけで、そうでなくとも、今回の河童は阿之助が来なかったら殺されていた。木郎を守り抜く力が自分にはないと理解していた。その点、矢笠家はたくさんの人をかくまい、当主も立派な剣士だ。信頼できる場所で、木郎を預けるには最適だった。

「待ってるから」

「ああ」

 生百合は立ち上がって、遠く離れた縁側から見送る矢笠の方へ向いた。

「当主殿、この子を頼んだ」

 矢笠はにっこり笑って手を振った。木郎をもう一撫でして、生百合は矢笠家を立ち去った。阿之助はこの様子を見守っていたが、何も言わずにいた。西の加沢かざわを目指し歩き出して、矢笠の屋敷が見えなくなって、生百合が泣き出したころようやく、励ましの言葉をかけた。

「また来ましょう。全てが終わったら、住んだっていいんです」

「ああ……。そうだな」

 生百合の声は上ずっていて、普段からは想像できないほどか弱かった。



 二人は順調に西に行き、加沢に到着した。加沢は栄えているとは言えない小さな農村で、手分けして聞き込みをした二人は、一日とかからず、村中の人から話を聞いた。その後、合流し、得た情報を共有した。

「どうでした?」

「確かに、矢笠の当主殿が言っていた通り、北の山に鬼の里があるらしい」

「そうですね、僕もそう聞きました。でも、変じゃないですか?」

「ああ、ここの者は鬼と交流がある」

「はい、それも友好的です。歴史を聞いても、鬼が人を襲ったことなんてないそうです」

「人と敵対していなければ、無駄な争いは避けられる」

「ですが、もしかすると、僕らが探しているのは鬼じゃないのかも知れません」

「どちらにせよ、行けば答えが出る。鬼の里へ行こう」

 阿之助は考えた。確かに初めは、鬼にしかできない殺し方だと思っていた。しかし、旅をすれば、武蔵丸や河童のような化け物がいた。鬼にしかできないという認識が間違っているような気がした。そうなれば手がかりはなく、また振り出しに戻ってしまう。

 阿之助が心配しているのは、その時、生百合の心が折れてしまうのではないかということだった。阿之助自身は人との別れなどなんとも思わないが、生百合の涙は何度か見てきた。木郎のこと、妖怪たちのこと、曽根でのキリシタンのこと、生百合は何度も自分を押し殺し、復讐のために捨ててきた。それが今回、振り出しに戻れば、爆発して、おかしくなってしまうかもしれない、そんな心配だった。

 山を数日歩くと、平たく開けた場所に出た。木で造られた合掌造り建物が十数軒あり、あたりには生百合より一回り大きな赤い肌の人たちが各々、洗濯物を干したり、巻きを割ったり、作業をしていた。

「着いた……」

鬼の里編、始まりまっせ。

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